想いの力
薬を飲んでそのまま眠っていたルランは、ふと違和感を感じて目を覚ました。背中に何かついているが、問題はそこではない。″誰か″が檻の中にいる。
「・・・誰?」
フッと誰かが顔を近づけたのが分かった。ルイと同じ香水のようだが、その裏の血の匂いは消せていない。
「龍の姫君か」
クックックと男が笑う。生えたばかりの角を掴まれ、ギリギリと力が込められる。
「ちょいと手伝ってもらおうか」
パキン、と音を立てて角が折れた。
「い、ぃああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!」
「いい声だなぁ。これならきっと陛下は助けに来る。よかったなぁ」
凄まじい激痛に、意識が持っていかれる。男が言った言葉を理解出来ないまま、ルランは意識を失った。
***
早朝、尋常ではないルランの悲鳴を聞きつけたユンが騎士達と駆けつけた時、開け放たれた鳥籠の中には引きちぎられた鎖と散らばった羽根、そして折れた角が残されていた。角には赤く『龍が惜しくば王を寄越せ/さもなくば国を滅ぼす』と刻まれていた。
ユンの報告から3時間後。怒涛の勢いで移動している軍を引き連れ、ルイは戦場に向かっていた。角に刻まれた特徴的な文字は敵国のものだった。宣戦布告を受け、準備をしていた矢先にルランが攫われた。恐らく、戦局を有利に進めるための駒にするつもりだろう。
「・・・ルランっ」
角を握り締めると、ピシピシとヒビが入る。許せなかった。こんなに脆いルランの角を折った敵を、許せるはずがなかった。また、本来ならば騎龍に乗って龍騎兵を従えるのが王の役目だが、龍はことごとく麻酔薬にやられていた。それが余計に怒りを煽った。王の怒りを示すように、軍は轟音をあげながらひたすら進行を続ける。
「前方に敵陣!ルラン姫と思わしき人物がしょ、処刑台に・・・っ!」
魔法で声が拡張されていたのだろう、兵士たちがどよめいた。処刑台。はなから返すつもりなど無いのか。視線の先、黒々とした敵陣の向こうにルランの姿が微かに見えた。
***
遠くから聞こえてくる轟音に目を覚ますと、目隠しが取られていた。目の前に武装したら男が立っている。・・・血生臭い。
「やっとお目覚めかい、お姫様?」
「・・・誰、ここはどこなの」
「俺はバーンス。お前は敵陣のど真ん中で処刑台に乗っているのさ」
処刑台、と言われて見回せば、目の前の地面に赤黒い魔法陣があるのに気が付いた。両手は後ろ手に柱にくくり付けられ、身動きが取れない。唯一まともに動くのは頭と飛べそうにない小さな羽根だけだ。
「ほぅら、愛しの陛下のお出ましだ」
グイッと顎を持たれて轟音の方に顔を向けられる。そこには雪崩のごとく突き進んで来るもう一つの軍。
「ルイ・・・」
「王が殺される様を、そこで見ているがいい」
「なっ!」
「ああ、安心しろ。あれが死んだらお前も殺してやる」
クックック、と笑い離れていくバーンスを睨みつける。味方の方を見ると、敵陣に勢い良く突っ込んでいったところだった。戦い方を知らないルランでも、捨て身になっていることが分かるくらい無謀だった。敵陣を真っ二つにかち割るように、真っ直ぐこちらに向かってくる。一人、また一人と兵士達が殺されて行くのを、ルランは胸が裂けそうな思いで見ていた。
このままでは全滅するのも時間の問題だ。無い知識を振り絞り、ルランは必死で考えた。
ーー自分の力を信じるのじゃ。そうすれば力が現れるだろう
この世界に送ってくれた老婆の言葉を思い出し、ハッとした。
「龍、だ・・・」
この世の誰も敵わない存在。最も愛すべき、大切なもの。
「お、おいなんだ!」
「誰かこいつを止めろ!」
パキパキと音を立てて翼が急激に成長する。折れた角が再生し、更に大きく伸びていく。
「帰るのよ・・・私は、ルイの所に帰るの・・・!殺させなんてしない!そんなこと、許さない!」
「残念だが、手遅れになりそうだな」
戻ってきたバーンスがあざ笑うかのように魔法陣を発動させた。徐々に魔法陣からどす黒い槍が伸びて来る。だが、私はそれを見ていなかった。
敵陣のど真ん中で剣を振り回すルイ。彼を囲う円がゆっくりと狭まっている。彼の馬に槍が突き刺さり、馬ごと敵の前に倒れたのを見た時、私は声の限り叫んだ。




