独占欲
王の花嫁が城の窓を蹴破るという、前代未聞の事態が起こったのは昨晩のこと。噂はあっという間に広がり、気がつけば城下でもルランの噂が流れていた。『現王の白の君はお転婆な方らしい』
「全くその通りだ」
上空から城の屋根を見下ろしていたルイは、ため息をついた。
死にはしなかったものの打撲や骨折、脳震盪を起こし重症のミレニアは医師の元に連れて行かれた。すっかり興奮仕切ったルランは失神するどころかロープを使って外に出ようとしたので、必死で引き留め部屋に連れ帰ったのだ。
元気良く屋根を歩き回るルランを見下ろす。「屋根を探検する!」と言い張るルランに根負けし、朝まで一緒に寝るのを条件に許可したのだ。頬を高揚させどういう経歴で窓を蹴破ったのかを喋るルランのせいで、ほとんど眠れなかったが。
「ルーイー!ここなんかあるー!」
「・・・降りてくれ」
騎龍がルランの隣に着地すると、すぐさまルランがその大きな頭に抱きつく。龍も満更でもないようで、甘えた声を出している。なんとなくイライラしていると、龍の頭からよじ登ってきたルランが屋根の一角を指差した。
「あれ、なに?」
「城全体を覆う防御魔法だ。万が一城が崩れそうになった時、1時間だけ耐えてくれる」
「窓は?」
「城が崩れない限り発動しない」
へー、とか言いながらさも当たり前のように俺の前に座るルラン。もぞもぞしていたかと思うと、すっぽり腕に収まってご満悦だ。
「・・・なにをしている」
「え?飛ばないの?」
「ドレス姿で鞍に跨る馬鹿がどこにいる!横を向け横を!」
びっくりさせるわけにもいかずに唸ると、ルランは首を竦めて横向きに座りなおした。落ちないように抱きしめ、ゆったりと龍舎へ戻る。
「ルイ・・・龍がいっぱいいるよ・・・」
惚けたような声に頬が緩む。龍の群れに放り込んだら嬉しさのあまり倒れてしまうだろうか。見ただけで
艶を取り戻した髪を撫でながら、ルイはふと思った。
ーールランは龍ではないだろうか
全身に鳥肌が立った気がした。まさか、とは思ったものの、彼女ならあり得なくもないとも思ってしまう。
もし。もしもルランが龍だったら。きっとどれほど美しい姿なのだろう。一目だけでいい。その美しい姿を一目だけでも見てみたい。出来れば俺の前だけで、二人だけで。
「ルイ、ルイ!龍がこっち見てるよ!・・・わぁぁ・・・かっこいい・・・」
ゆっくりと着地した騎龍から降り、龍ばかり見ているルランを黙って抱き上げる。喋らない俺を訝しんだのか、心配そうに見上げてくる彼女に微笑みかけ城に戻る。
この感情を、彼女に知られるわけにはいかない。龍になったルランを拘束し殺害するイメージが頭から離れない。他人に見られるなら、自分の手で殺してしまえと。人はそれを、独占欲と呼ぶ。




