侵入者
いつの間にか寝てしまったらしい。暗くなった寝室で体を起こしたルイは、サッと血の気が引いたのが分かった。ルランがいない。見渡せばルランの服が椅子にかけられている。
「ユン、ユンはいるか!」
「い、いかがされましたか陛下」
出来る限り早く、しかし静かにユンが飛び込んできた。後からレミアと見張りも入ってくる。
「ルランを見たか」
「いいえ、誰も見ておりません」
全員が開け放たれた窓を見た。屋根に登った前科がある彼女ならやりかねないが、2週間も寝込み、痩せてしまった体では無理だろう。
「・・・舞踏会にミレニアは」
「出席しております」
「ついてこい」
服を着替え、マントを蹴散らさんばかりに早足で歩く王を、すれ違う人々が礼も忘れて見送る。
ルイだけではなく、ユンもレミアも見張り達も、ルランが攫われたと思っていた。まさか屋根の上で本人が馬鹿げたことをしようとは知らずに。
ドアを叩き開けて入って来た王に、会場がシン、と静まり返った。窓際にいるミレニアの姿を認め、ルランをどうしたのか問い詰めようとした時、窓がど真ん中から蹴破られた。黒い侵入者は振り向いたミレニアの胸を強かに蹴り上げ、テーブル共々中央に吹き飛ばした。耳が割れそうな音が響き、先ほどよりも遥かに静かになった。
侵入者はふらつきながらも何とか着地し、窓から伸びるロープを片手にフラフラと立ち上がった。
「ル、ルラン・・・」
興奮で頬を赤く染め、体中に割れたガラスを被ったルランが、鼻息も荒くミレニアに近寄る。
「な、何見てる、のよ・・・早く、助けなさい・・・!」
切れ切れにミレニアが叫び、彼女の侍女が近くにあったナイフでもってルランを刺そうとする。しかし勢いよく振られた短剣の柄がこめかみに当たり、あっという間に昏倒してしまった。
「ねぇ、ミレニア?」
「ち、ち、近寄らないで!誰、か、誰か!」
ロープを持った手で、柔らかな金髪を掴む。
「ミレニア、ロープに吊るされるのと殴られるのと、どっちがいい?」
「離して!どっちも嫌よ、離しなさい!!」
狂ったように腕や顔を引っ掻くミレニアに、ルランは薄く笑った。
「分かった」
「ーーヒッ!」
凄味のある笑顔で怯える彼女を見、短剣を持ち直して言った。
「ミレニア、私が病弱だから何も出来ないと思うのはやめた方がいいよ。死んでもいいなら別にいいけども」
「よせ!」
血相を変えたルイが抑え込もうとしたが、一瞬早く短剣がミレニアムの頭を殴った。酷く鈍い音がし、気絶した彼女を見下ろして私は満足した。
刃のない装飾用短剣は、しっかりとその役目を果たしたのだった。




