火種
「ルラン姫が娼婦ではないかと、城内で噂が広まっております。それと、ミレニア嬢とその侍女がショックで部屋から出てこないと言う噂も」
「もういい、下がれ」
イライラとして言うと、ユンとルランの侍女であるレミア以外は静かに部屋から退出した。
昨日、ミレニアとルランが接触したとの報告を受け、仕事を片付けて執務室から出るのとルランが戻って来るのとほぼ同時だった。
「・・・ルラン、何があった」
顔色が悪く、唇が紫になりかかっているのを見ると失神しかけているのだろう。しかし、完全に据わった目と大きく切れた下唇を見ると、相当に怒っているのが容易に見て取れた。失神しないように耐えているのか、それとも怒りからか、ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえる。
「ルラン。何があったか報告しろ」
「・・・陛下に相応しくないから出ていけと言われ、言い返したら侍女に叩かれたのでそれの下腹部を殴り返しました」
今まで聞いたこともないくらい低い声に思わず眉を顰めると、勘違いしたのか睨まれた。ブツッと何か切れる音がしたが、こんなに怒ったルランを見たことがなかったルイは狼狽えて余裕がなかった。
「ルラン、なぜ殴った。どれだけイラついても女は手を出すなと言ったはずだろう」
ブツリ、と再び何か切れる音がした時、ルイはルランを責めたことを酷く後悔した。
最初の傷の隣、下唇の真ん中がざっくりと裂けて赤い血がダラダラと垂れて始めている。何かに耐えるように顔を引きつらせ、声を絞りだす彼女を見ながら、ルイは動けなかった。
「娼婦は、出ていけと・・・言われて、殴ってしま、い・・・もうしわけ、っありません」
侍女が口を押さえ、誰かが息を飲んだ気がしたが、ルイは動かなかった。口から血を流し、泣きながらも無表情を取り繕うとするルランは、ルイが何も言わないと分かると黙って部屋に戻った。一番最初にあてがわれた自分の部屋に。
外か騒がしくなって来たのを聞き、ルイは絶望した。




