接触
″美味しい″舞踏会から数日。どーしても龍を間近でみたくなったルランは監視の目をかいくぐって龍舎へ向かっていた。正確に言えば、本人はバレていないと思っているがかなり後ろの方に軍馬に乗ったユンがいる。もっと言えば、騎士も侍女も兵士も皆見て見ぬ振りをしている。ルランの通り道には所々に兵士がおり、ワクワクしながら進んでいく彼女をバレないよう微笑ましげに眺めていた。
「物事を教える代わりに彼女のやりたいようにやらせることにする。面倒かもしれんが何かあったら守ってやってくれ」
不安ながらも王の命令通りにした兵士や騎士たちは、さながら子供のようなルランを観れて大変満足していた。元々守るべき対象だが、ハラハラする反面やる気も出る。
そんな保護者たちに見守られながら、ルランはようやく龍舎前の庭園に辿り着いた。この人工の花園のずっと向こうに龍舎がある。聞こえてくる龍の声に心を踊らせていた彼女は、自身の″敵″と出会った。
「ご機嫌よう、白の君」
「こんにちは。あの、白の君って・・・?」
「あら、そんなことも知らずに陛下の傍にいらっしゃったの?無知な方ですね」
完全にバカにされてる。主と共に笑う侍女達を見やり、それから目の前のゴテゴテした女を見た。・・・犬は飼い主に似るらしい。
「お名前を伺ってもよろしいですか?私はルランと申しますが」
「あたくしはアレール家のミレニア。貴女に伝えておきたいことがあって参りましたのよ」
「ああ、ミレニアム、ね・・・」
「なんですの?」
「いいえ?素敵なお名前だと思って」
ミレニアムーー千年紀ーーね。古いから香水がキツイのかな。
笑いそうなのを堪え、話すよう促す。
「・・・随分失礼な娘ね。いい?貴女のような小賢しくて陰気な娘は陛下は似合わないのよ。煌びやかなあの方に貴女は相応しくないわ。いえ、そんな気持ち悪い目をしているのに城にいること自体間違っているわ。色娘は出て行きなさい」
なんだろう、この人私に嫉妬でもしてるのだろうか。こんなことより陛下を落とすべく努力すればいいのに。これだから女は・・・。
「なにをブツブツと・・・ミレニア様に返事をしなさいな。それとも喋れないの?」
クスクスと笑うミレニアの侍女たちを、思いっきり睨みつける。「な、なによ!」と一人が叫ぶ。
「・・・あなたは自分こそが陛下に相応しいと思うのですね。でしたらこんなところで油を売っていないで陛下に会いに行けばいいのでは?」
「本当に馬鹿なのね。陛下にはやすやす会えないのよ」
「嫌われてるんですね」
ふふっと笑うと、ミレニアの眉がピクリと動いた。
「嫌われているから邪魔な私を追い出そうと苦心しているんですね、お疲れ様です。あと、あなた香水がキツイですよ。本来香水は自分の匂いを隠すために使うのですから・・・あ、これは、失礼しました」
顔を真っ赤にして震えているミレニアを見て、してやったと笑みを浮かべた時。ミレニアの侍女が思いっきり私の頬を張った。パァン!と見事な音がして、私は倒れこんだ。見ればミレニアが蹲り、顔を覆ってわぁわぁ泣き真似をしている。
「娼婦は出てお行き!!」
何事かと集まって来た使用人たちの前で、私を張った侍女が大声で叫んだ。周囲がザワザワとしだし、白い目で見られているのが分かる。
胸が痛い。今にも失神しそうだったが、私は歯を食いしばって耐えた。ふらりと立ち上がり、喚きながら手を振り上げた侍女の下腹部に、ぶつかるような感じで拳を叩き込んだ。ドスッと鈍い音がする。
「ぐぇぁ!」
カエルのような声をあげて侍女が倒れた。辺りがシンと静まり返る。失神したらしい、ということだけ目視で確認し、静まり返った庭園から城に戻る。波が引くように人々が避ける中、いつも傍にいる騎士が駆けて来た。
「ルラン様・・・!」
ギリギリと歯が鳴る中、なにやらブツリ、と言う音と騎士の声が聞こえた。支えようとした騎士の手を叩き、私は出来る限りのスピードで部屋に急いだ。失神して、誰かに運ばれたくはなかった。




