舞踏会
随分と甘い匂いのする貴族の娘は、ダンスを踊りながらうっとりと目の前の王を見上げた。憂いを帯びた表情がまたなんとも言えない。
「・・・陛下、どうかされましたか?」
「いいや、なんでもありませんよ。・・・ちょっと失礼」
にこやかな笑顔を浮かべ、スマートに離れていったルイを見送り、娘はため息をついた。その目は嫉妬の色を浮かべている。
ダンスの途中だというのに彼が離れて行くのは珍しい。周囲の人々の視線は、娘から娘の見ている方へ移る。
そこには白緑色の簡素なドレスを着たルランがいた。
病弱とは聞いたが確かに色が白い。肌だけではなく髪も目も色が薄い。そのせいで儚げに見える。彼女のはしゃぎっぷりを聞いていない人々からしたら。
***
「凄いよルイ、お姫様が沢山いる!」
「姫はお前だけだ。あとはただのお嬢様方だ」
分かりやすい皮肉を言ったつもりが、よっぽど興奮しているのかルランからの指摘がない。忙しく宙を舞う卯の花色の髪を見下ろし、興奮のあまり倒れないかと心配になる。それにせっかく儚げな感じがしてたのにもったいないと思う。しかし、キラキラと目を輝かせるルランを見るとつい顔がにやけてしまう。
「ルイ、ルイ、あれなに?」
「どれだ」
「あれ!あの変なくるくるしてるの!」
「あれは敵の魔法を無効かするための魔法陣だ」
「じゃぁあれは?」
「飴細工だ」
「飴!?飴なの!?食べていい?」
「あ、待て!あれは飾りだから食うな!」
「えぇ・・・」
「・・・その代わりあそこのケーキで我慢してくれ」
大喜びでケーキに歩いていくルランから目を離し、ざっと会場を見渡す。男性陣は微笑ましそうな表情が多いが、問題は女性陣の方だ。ほとんどが嫉妬や妬みを感じているらしく、中には嘲るような表情の者もいる。演技だと思っているのだろうか。
「ルイ陛下」
「なんだ。・・・そんなに食えるのか」
「ケーキは別腹です」
礼を言って騎士が持ってきた椅子に座ったルランはふふん、と得意気な顔でケーキをつつき始めた。そんなに、と言っても1枚の皿に乗るくらいだ。普通の人なら足りないが、彼女は一皿を食べ切れた試しがない。よく見ると本当に一口ずつ、全部のケーキが乗っている。誰だ乗せたやつ。なんでケーキでロール模様作ってるんだ。
「美味いか?」
「ふふふ、この世に美味しくないものなどない」
そう言って笑ったルランから、俺は速攻で顔を背けた。不意打ちすぎる。ケーキごときで幸せそうな顔をするのかこいつは。
「ルイ陛下?どうしたの・・・どうされました?」
服の裾を引くルランは、心配そうな声で様子を伺ってくる。
「・・・大丈夫だ」
赤くなった顔を片手で隠しつつ、空いた手で頭を撫でてやる。それだけで幸せそうに笑う彼女を、つい注意したくなった。″敵″の前で感情を出すのは危険だと。
「ルイ、全部食べたよ」
「・・・頑張ったな」
言葉を飲み込み、代わりに優しく撫でやれば微かにすり寄ってくる気配がした。そろそろ眠ってしまうのだろう。ルランの周囲でバレないように待機していた侍女や騎士が静かにはけていく。やがて完全に力の抜けた彼女を、いつもの騎士がそっと抱き上げた。
「お前はいつも見かけるな。名前は何という」
「ユンと申します、陛下」
「ユン、部屋の周辺の警備を強化するように伝達しろ。ルランを部屋に戻すついででいい。一人にするな」
「かしこまりました」
見た目は穏やかに、内心はイライラしている主に礼をして退出した騎士。彼とルランが見えなくなった途端、ルイの耳に聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「あの娘、病弱なフリをして陛下に近づくなんて随分小賢しいのね。あんな色の薄い目、みたことないわ。気持ち悪い」
アレール家の娘か。後で痛い目にあってもらわなければ。
ルイが客に見えないよう笑ったのを、騎士や侍女たちはハラハラしながら見ていた。何かわからないが主が怒ったのだから、しばらく城は荒れるだろう。皆そう予測した。




