自殺
スマホで書いているので読みにくい、流れが速すぎるかもしれませんが、更新しつつ加筆修正を行っていきます。
今月中には完結するはずです。
「もう・・・嫌・・・」
小さく掠れた声は自分の耳にすら届かず、雨音に紛れて消えていった。もう何度も口にした言葉が、胸に刺さる。抱きかかえたギターのカバーが重く濡れている。きっと中の本や楽譜もギターと一緒にずぶ濡れだろう。
意味もなく私は笑った。
立ち上がると、足元の水が社の床に黒い染みを作っている。汚してごめんなさい。そう囁いてたった一つの持ち物であるギターを背負う。馴染んだ小振りのギターが、きつく肩に食い込んでいる気がした。
ザァザァと音を立てて雨が降る中、慣れ親しんだ社の裏へ回る。手入れをしてきたその先のロープをくぐり、伸びた草や枝を避けて進んでいく。ぬかるんで歩きにくい斜面を登りきると、目の前が開けた。雨が静かに眼下の崖を落ちていく。暗く口を開けている崖を、私は無表情に見下ろしていた。
今朝、私は家の裏山にある社にいた。母親は行き先も告げずに出かけていたが、いつものことなので問題はなかった。社の周りを綺麗に掃除し、床や壁などを拭き掃除する。それが終わると描きかけの風景画を取り出し、丁寧に色を塗っていく。満足に描き終わるとそれで鶴を折り、誰も入れない賽銭箱にそっと入れる。今度はいろんなものが入ったカバーからギターを引っ張り出し、夕方になるまでずっと弾いていた。
いつもと変わらない毎日。何もなく、ただ生きていくだけの生活。ずっとこのままだと思っていた。満面の笑みの母親に会うまでは。
「あら、あんたまだいたの。もう用無しだから出て行って。・・・解る?いらないのよ。あんたの代わりの女の子見つけたの。凄く可愛い子。声も綺麗で歌がうまいのよ。出来損ないのあんたと違ってね。さぁ、出て行きなさい。ああ、ギターは指が傷付くから持ってって頂戴」
私が喋れないのを知っていてべらべら喋る母親の後ろで、ふわふわしたブロンド髪の女の子が大きな目を見開いて私たちを交互に見ている。大きな目がくりくりとして色白の可愛い子だ。
母親の理想とした女の子。里子か養子か知らないが、母親に相応しい娘。
「で、出て行かせるなんて、そんな・・・」
「喋れないわ病気はするわ、そんなものいらないの。それにこの子はもう存在すらないのよ」
とっとと出て行きなさい。
無慈悲に母親が言い放つ。くらっと眩暈がした気がした。絶望、の言葉の意味を理解できた。つまり、捨てられたのだ。
転がり出るように家を飛び出した私を、母親は止めなかった。後ろで女の子の声がしたけれど、私はもと来た道を駆け上がっていった。
声が出せない自分が恨めしかった。病気ばかりする身体が憎かった。
頑張っても囁き声にしかならず、ただの風邪で意識を失う私を母親は疎んだ。こんなのが娘だなんて恥ずかしい、という理由で中学には行かせてもらえなかった。その代わり、父親が音楽や絵の描き方を教えてくれた。ギターと楽譜はその頃貰ったものだった。
父親が事故で亡くなり、私は社に行くようになった。出来損ないと罵られながら母親に叩かれ、その度に失神するのは心身ともにつらかった。気を紛らわせるために、社を掃除するようになった。
「・・・・・・」
愛情のないこの世界から、一刻も早く逃げたかった。
絶望に飲み込まれたまま前に進む。落下する雨と共に、冥い穴が呼んでいるようだった。ゆっくりと足を踏み出す。ぐらりと体が傾ぎ、私は崖から落ちていった。




