FPS episode.07
episode.07――
2014/8/12 首都アルダート アンティラス邸
「良い話と悪い話どちらを先にするかね?」
キャスターは教師が生徒に質問する様に問う。こういう場合は恐らくはどちらもややこしいことであるのは間違いないだろう。
「そうね……じゃあ悪い方からにするわ」
その問いに団長は少し考えた後、そう答えた。キャスターはそれに対しゆっくりと頷く。
「では、結論から先に言うぞ……騎士団内にどうやらスパイがおる様でな、ここに直接来たのはそれがあっての為だ」
眉間にシワを寄せいつになく真剣な面持ちで話すキャスター。その想像だにしていなかった内容にジャクソンは「……マジかよ」と思わず声をあげる。
「そう……どうりでここ最近になってから、後手に回ることが多かった訳ね」
だが、ジャクソンとは対照的に団長は表情すら変えることなく納得している様子だ。
「……で……誰なの?」
「それが、まだ分かっておらん。色々な線で追っているがそもそも我々の情報を漏らして、利益が出る人間がウチにはおらんのでな」
「らしくないんじゃない?」
キャスターは参ったという感じにハゲてしまった前頭部を掻きながら肩を竦める。
「あぁ……殆ど尻尾が掴めん状況でな。恐らくはかなり情報戦に手慣れた奴だろう」
「それは厄介ね。情報はともかくそれだけの人材が敵側に協力しているのが痛いわ」
「あぁ、その通りだな……」
この世界で情報戦の神とも言われているキャスターを出し抜くことが出来る人間はそう数は居ない。更にそれが身内ともなれば、騎士団でも指を折る程にしか居ない筈だ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんなヤバイ話を俺が聞いちゃっていいのかよ?」
或いは騎士団の存続にすら関わるそんな重大な内容とは思っていなかったジャクソンは思わず慌てたが、団長は気にする様子も無い。
「問題無いわ。もしここでの情報が漏れたら、ジャクソンを疑えばいいだけでしょ?」
「え……マジ?」
団長はからかう様にそう言うとジャクソンは勘弁してくれと手を振る。
「でも、具体的にどう特定するのかしら?」
「ふむ、それは考えてある。餌となる情報を各権限ごとに階層化して、伝達された個々の内容に暗号化した固有の情報を仕込めばよい。漏洩した情報を複合化すれば、誰から漏れたかを特定することが出来るからな」
「………なるほど、わからん!」
ジャクソンは持ち得る脳みそをフル稼働させて解析を進めたが、残念ながらその結果は理解不明のままだった。
「簡単に言えば流す情報が伝わる際に誰が受け取ったかを分かる様にしておくのよ」
見かねた団長がジャクソンをフォローするが、当の本人は難しい顔をしたままだ。
「……なるほど?」
「ハァ……」
「むぅ……」
とりあえず分かった様な顔をして頷くが、「お前、絶対に分かって無いだろ?」という表情で2人はタメ息を吐いた。
「……で、良い方の話は何かしら?」
「以前からマークしていたスフィーダ伯爵の屋敷が世界教の本拠地で間違い無いと確認が取れた。だが、今あの周辺で奇怪な事が起きていてな」
「……奇怪的なこと?」
「そうだ。猟奇的な人食い殺人があの屋敷の近辺で発生している。それも多数な」
キャスターの口から出た言葉にジャクソンと団長は揃って怪訝な表情を返す。
「どういうことかしら?仮に本拠地があるのなら、自分達の存在を態々晒す様な事をするとは思えないけど」
団長の言うことは最もだ。スフィーダ伯爵の屋は以前から世界教の巣窟になっているという情報は多かったが、それでも伯爵の権威による巧みな工作で尻尾さえ掴めなかった。
それが突然、自らを晒す様なことをすると思えない。罠かもしくはトラブルか……
「我はブラフである可能性も考えているが、実際に被害者はかなり多く出ておるからな。動かん訳にもいかないという状況だ」
「現地の第6騎士団の動きは?」
「既に現地へ調査隊が向かっているが、調査開始後すぐに通信途絶の状態だそうだ。先程にスティングレーが直接報告しに来たよ」
「直接?……何かあったのね」
「先の調査隊はあの“白銀の盾”だったらしい。珍しく弱気でこちらへ救援要請に来たよ」
第6騎士団の虎の子である“白銀の盾”の逸話はジャクソンも知っていた。騎士団の中で、最も実力に優れた精鋭の部隊であり、隊長はジャン•ピエール•ペペロンという第6騎士団では珍しい程に優秀なオッサンだ。
“黒騎士団”とも呼ばれている第9騎士団とは有る意味で対の存在といった所だろう。
「隊長のジャンって、オッサンは確か帝国で、5本の指に入る程の実力者なんだろ?」
「そうだ。我々も油断すれば二の舞を食うだろう。第9騎士団は現地へ赴きこれを制圧して彼らの追跡調査をする。だが状況から敵戦力が多く居る可能性があるからな、今回は夜襲で一気に片を付ける予定だ」
「そうね。相手の状況が分からない以上、それが最善だと思うわ。もし不測の事態が発生した場合は撤収かしら?」
「あぁ、作戦前に屋敷の近くへ中継ポイントを設置する。想定外の事柄が起こった場合、総員は任務を即時中止し、速やかに退避できる手筈だ」
キャスターの万全な作戦案に2人は頷いた。
「どうも嫌な感じがするわね……先日の件にしても奴らが何か企んでいるかもしれない」
「何が起こって良い様に出来るだけの用意はするつもりだが、残念な事に今回は元老院に追求されているスティングレーも現地まで同行することになりそうだ」
「随分なお荷物を持たされるという訳ね?」
「まぁな。作戦中に…キレるなよ……」
「公私混同をする程、私も子供じゃないわ。ま、奴が無事に帰れる保証も無いけどね?」
割とマジな顔をしつつ不敵な笑みを漏らす団長にジャクソンとキャスターは思わず苦笑する。キレた彼女なら殺りかねないだろう。
「……程々にな。それともう一つ朗報だぞ。選考を行っていた新人が、このタイミングで騎士団に配属されることになった」
「へぇ……良かったわね、ジャクソン。貴方にも後輩が出来るそうよ?」
「……何かそれもいい話とは思えないケド」
「ふむ。まぁ、実戦経験ではお前さんに及ばんが中々に粒揃いな連中が揃っているぞ」
「ほぉ、どんな奴が入って来るんだ?」
ジャクソンはキャスターから資料を受け取るとそれに目を通す。資料には3人分の経歴や分析された情報が書かれている。
――アルフ・ゴックス
⇒異国アメリカ出身。元特殊部隊ネイビーシールズの新人隊員で、射撃、体力共に優秀だが実戦経験は特に無し。
――シャーリー・アプラス
⇒帝国士官学校首席卒業後、帝国第1騎士団へ入団するも本人の希望により編入。エルディス人としては類稀な潜在プラーナ力を持つが銃の扱いは不慣れ。
――ベイダー・アクト
⇒過去、異国メキシコのカルテルに実行部隊として所属し実戦経験は豊富。無骨な上に冷静沈着だが、無口でコミュニケーションに多少難あり。
「あれっ、異世界人意外にもいるんだな?」
「それはルイの提案でな。今後を考え徐々に異世界人意外も登用することになった」
「えぇ。公に認められたとはいえ、まだ異世界人への偏見は多いからね。新しい血を入れて騎士団を変える必要があるのよ」
「新しい血を…ねぇ……」
団長が考えていることはジャクソンにも理解出来た。しかし同時に何か言いようのない不安感を抱いたがそれを口に出すことは出来なかった。
その横で静かに聞いていたと思っていたクレアはすやすやと眠っていたが、それから数時間程その談話は続いたのだった。
7話目で徐々に組織内部の事情とかがチラホラと出てきます!
次回からサバイバルホラー、はじまるりますΣd(゜∀゜d)
作者はバ○オハザードが大好きなので、後は分かるよね?w
PS
800PVありがとうございます! みなさんのおかげです♪