FPS episode.42
episode.42――
2014/6/1 西南の港町フィガロ
荒廃した建物の数々がお互いを侵食するように入り組むスラム街。その朽ちた屋根から滴り落ちる雨水は凍るように冷たい視線を彼らに向ける少女の肩を濡らす。
「―――その手を退けろ、ゲス共…… 」
その場に居た騎士達は感情の無い冷徹な彼女の表情に享楽から一転して怯えた表情へと変えた。
「………こ、これは……アンティラーシュ卿。何故、この様な所に……」
「彼らは私の情報提供者だ……勝手をされては困る」
それは自らが王の様に振舞っていたラドムでさえも例外では無く、その強面から余裕の色を消していた。
それも無理は無いだろう。彼女の後ろにはこの中世然とした世界には似合わない黒い迷彩服の兵士達が銃で彼らを狙い定めたまま取り囲んでいたのだ。その構えている装備や様相は普通の帝国騎士団と大きく違って"ヘイト"と同様に現代戦のそれに近い。彼らが帝国最強と言われる第九騎士団なのだろうとは容易に想像がついた。
その兵士の中には以前に対峙した生意気な少年兵もおり、こちらに敵意をヒシヒシと向けている。
「しっ…しかし、コイツらは世界教の異端者です。我々第五騎士団としては見過ごす訳には……」
「だから、その情報に価値があるのだろう? それに騎士の身でありながら無抵抗な者や危篤の少女を嬲るなど、貴様達は恥を知らないと見えるな」
刺す様に向けられるプレッシャーに耐えかねた騎士の一人が言い訳がましくそう答弁を振るうが、それは燃える様な緋色の瞳によって睨まれると勢いを失った。そして、吐き捨てる様に侮蔑の言が向けられるた騎士達はハッと一斉に剣を納める。だが、ラドムだけはそれに唇を噛んだまま動こうとしない。
「――ぐぅぬぅっ、吸血鬼…風情がぁ………」
「どうしたラドム? また、あの時の様に貴様の醜態を晒してやっても、私は一向に構わんぞ?」
「ぬぅぐぉ……っ…お、仰せのままに………」
だが、圧倒的な形勢の不利を悟ったのだろう。ラドムはジャクソンから足を退けると忌々しそうな表情を彼女に向けたままその場を退いた。
「――よろしい、ではここから先は私が預かる」
その一言で難を逃れたとばかりに周りに居た騎士達は一目散にと引き上げていく。
それだけで彼女がここでどれ程に恐れられているのかがおおよそ分かった。そして、人が退いたのを横目に送るとそれまでの氷の様な表情を解いて、彼女はこちらに手を差し伸べてきた。
「また、会ったわね。名前は聞いていなかったけど、何と呼べば良いかしら……“ヘイト”のエースさん?」
「……ジャクソンだ。あいにく、その通り名はもう過去のものさ。でも、助けてくれて礼を言うよ」
そう返答すると満足した様に彼女はジャクソンを起こし、左手に持っていた銃をホルダーへと仕舞う。
「――ルイよ。知っての通り、この帝国で騎士団の長をしているわ。それにしても世界教の人間がこの町で騒ぎを起こしていると聞いて来てみれば、やはり貴方だったとはね……せめて、事前に知らせてくれれば、この様な事にはならなかった筈だわ」
ルイと名乗った彼女は呆れた様に腕を組む。
「すまない。見ての通りその余裕も無かったんだ」
「その様ね。それに………」
ルイは乱暴をされ衣服を破かれたアリアちゃんに自分のマントを掛けると彼女の様態を確認する。
「これは重度のプラーナ欠乏症ね……つまり、何処かであの禁呪が使われたという事だろう」
「あぁ、君の言っていた通り酷い有り様だった。クリミナの住人で生き残ったのは多分、その子だけだ」
「そう……幸い、この子はまだ間に合うわ。クリフ、貴方の緊急用タブレットを出して」
先程から機嫌悪そうにしているクリフと呼ばれた少年兵にルイはそう声を掛けると、少年は何故だと驚いた様に彼女へ声を返す。
「――なっ、何で僕がそんな事をしなくちゃ!!」
「命令よ! 同じ事を二度も言わせる気なの?」
「うぅぅ……なんで僕なのさ………」
ルイが叱る様にそう言うとクリフは渋々とジャケットから綺麗なエメラルド色に光るタブレットをケースから出した。初めて見る見慣れない薬にジャクソンは問いかけると「大丈夫よ。信じて…」とルイはそれをアリアちゃんの口に当ててゆっくりと飲ませた。
「……うぅ…ん………」
すると、半信半疑だった考えを打ち砕く様に彼女の顔色に生気が戻っていくのを見て、ジャクソンは感嘆の声を漏らす。
「……凄いな。何の薬なんだ、それは?」
「高密度のエーテルを濃縮した希少な薬よ。これでこの子も衰弱死する事は無いでしょう」
「あ〜あ、本当はそんな奴には惜しいくらい高価な薬なのに……」
だが、どうにも気に食わないのかクリフが不服そうにワザとらしくため息を吐く。
「悪るかったな、後で埋め合わせをさせてくれ」
「フンッ――そんなの、イラないしっ!」
そして、ソッポを向いたまま怒った様にクリフは1人、その場から引き上げてしまった。
「――気にしないでちょうだい。口は悪いけど、ああ見えて根は優しい子なのよ」
「確かに…その様だね……」
僅かにではあったがアリアちゃんの容態が戻った時に口元が上がった様に見えた。それは多分、気の所為では無いのだろう。
「さてと……来たばかりで申し訳無いけど、このままクリミナに向かうわ。まだ奴らの尻尾くらいは掴めるかもしれない。貴方も私達と一緒に来てちょうだい」
「あぁ、そうさせてもらうよ……」
静寂と死臭に包まれたクリミナの街――
ルイの配慮でアリアちゃんを帝都の病院に送り、ジャクソンは装備に身を包んだ黒騎士団と共に手錠をされたままの姿ではあったが、クリミナの街に戻った。
以前は昼夜を問わず賑やかだったこの街も、今では人の気配や草木の存在すら感じない状態でまるで、全ての時が止まっている様な感覚に囚われる。
「――こりゃあヒデェな。まるで生きたまま串刺しにされたみたいだ………オイ、コレを見てみろ!」
騎士団のお喋りなリックが教会に足を踏み入れるとその饒舌を止めて、皆を呼び寄せる。その声を聞いたルイと共にジャクソンは教会の中へ入ると、そこには自らの眼を疑う様な光景があった。
「――なっ……ぁ…………」
「……大丈夫? 貴方、顔が真っ青よ………」
自分が急に様子を変えた事に気付いたのか、ルイが何か声を掛けてくる。しかし今の自分にはそれも満足に頭に入ってこない。
「……お前……なんで…………」
何故なら、そこには幾重もの槍で串刺しにされて、絶命した大地の姿があったからだ。
「………彼は、知り合い?」
「あぁ、一緒にこの世界に来た俺の親友だ……」
そこにはクリミナから逃げた時に居なかった筈のリビングデットの死骸が辺りにはいくつもある。その数は軽く十は超え、これだけの数の伏兵に退路を断たれた大地はそれを1人で応戦したのだろう。
つまり、あの神父の目的は最初から大地を殺す事にあったという事だ。それなのに彼をこの場に残し、まんまと奴の策略に踊らされ、奴は知らずのうちに大地を見捨てさせたのだ。
――くっ…アイツだけは生かして置けない……
槍で張り付けにされた大地の首からドッグタグを外して、それを握りしめる。
自分のタグは騎士団に没収されていたが、これだけでも大地の能力の半分くらいは出せる筈だ。例え本来の力を使えなくても、この身一つで刺し違える事位は出来るだろう。
「――待ちなさい。今の貴方で勝てるとでも思うの? 命の無駄使いよ、冷静になりなさい……」
だが、こちらの意図を察したのか教会から出ようとするジャクソンにルイが銃を向ける。
「……これは俺の問題だ。邪魔をしないでくれ」
「その気持ちは分からなくも無い。でも、今はダメ。一度本部に戻ってから、これまでの事情を聴くわ。これはもう貴方だけの問題じゃないのよ……」
彼女の目はそれが脅しではない事を物語っている。この扉を出れば、その瞬間に撃たれるだろう。
……俺だけの問題じゃ無い…か………
まだ、プラーナも込めていないのに不意に魔力が通り動き始めた大地のドッグタグを見ながら、彼女のその一言の意味をジャクソンは考える。
こんな時、大地だったらどうしただろうか……
きっと……感情に任せたりしないで、彼女の言う事をもっと吟味する筈だ。そして、アリアちゃんを救ってくれたこの恩人を無下にしないだろう。
「そうだな。君には借りがある。好きにしてくれ……」
そう答えを返すとルイは一息ついて銃を下ろした。張り詰めた場の空気が戻り、騎士団のメンバーもその緊張を解いてジャクソンに眼を向ける。
「賢明ね……そこの彼もきっとそう望んでいるわ」
ルイが目線を移して大地を見ると先程に見た時と違い、まるで「彼女の言う通りだ」とでも言っているかの様に不思議と安らかな表情へ変わっていた。
「そうだな……わかったよ、大地」
大地にそう別れを告げ、ジャクソンはそのまま騎士団本部のある帝都アルダートにまで連行された。そこでこれまでに起こった事件の顛末やこれまでベールに包まれていた教団の実態を話すと彼らはそれに耳を傾け、その事の元凶であるトーマス神父の事を触れた時にルイやそばに居た一部の団員が表情を変えた。
「ふむ…よもやあの亡霊が事の発端となっているとは、確かにこれは我々の問題でもあるようだ……」
そして、キャスターと名乗った妙に身なりの良いハゲたオッサンがそう頷く。"キャスター"という通称はこの国の皇帝を指すものだと以前にジャクソンも聞いた事があったが、きっとそれは思い違いでは無いのだろう。
「………奴を…トーマス神父を知っているのか?」
「神父?……アイツはね、神父なんていう存在とは正反対の人間よ。下衆の極みと言っても遜色無いわ」
奴との過去に余程、酷い事があったのだろうか。ルイが心底うんざりした様子でそう吐き棄てるとそれにキャスターが渋い顔で話し始めた。
「戦中、奴は我々の仲間だったのだ。土壇場の所で敵方へと寝返り、多くの犠牲者を出したのだよ」
「……奴は昔にもそんな事を………」
「あぁ、当時の皇帝に組して利権を得ようとした様だが、その際の戦いで奴も死んだ筈だったのだがな……奴は平時に乱を起こす異端の存在だ。このまま生かしておけば、また多くの犠牲者が出る。そこで我は世界教に対する為に騎士団を増強する予定だ……特に奴らの内情に詳しい人間が欲しいと考えている」
感慨な表情から一転して、キャスターは何かを決意した様にこちらへ強い眼差しを向ける。ジャクソンにもその意図は分かったが、つい先日まで帝国臣民の敵とまで言われていた人間を迎えようとしている事に、驚きを禁じ得ないのだ。そこに何か裏があっても不思議ではないと考えるのが普通だ。
「……アンタ正気か?……悪い冗談だ………」
「我は交渉事に嘘は使わんよ。それによって、自らの立場を危うくする可能性があるからな」
「俺は……帝国の騎士達も大勢殺してんだぞ? アンタが良くても皆が納得する筈が無い」
「二度は言うまい……」
その厳しい眼光はこちらを試しているのだろう。一見はタダのハゲオヤジだと思っていたが、今の彼からは只者ではないプレッシャーを強く感じる。
「まったく、物好きなオッサンだ……だが、アンタらに協力するなら、ひとつだけ条件がある」
「ほぉ……我の権限内で済むのであれば、それも検討しよう。言ってみるといい」
「……墓を…クリミナで死んだ皆の墓を作ってくれ。もし、アンタが噂通り本当にこの国の皇帝なら、それくらいは朝飯前な筈だろ?」
そう。大地やルーシェ、親父さんやギルドのマスター。彼ら死んでしまった者に対して、自分が出来る事などは今それくらいだろう。償いなんてムシの良い事は言わないが……それでも、彼らが野ざらしにされるのは自分自身に我慢ならないんだ。
「……ふむ……墓とはな…………」
ジャクソンのそんな突拍子も無い要求にキャスターは小賢しそうに口元を上げる。そして、近くに居たルイに何か言付けると返答する訳でもなく、何も言わずにそのまま尋問室を出て行ってしまった。
「――ハァ、貴方やっぱり相当な変わり者よね」
ルイはそう深く溜息を吐くとジャクソンを拘束していた手錠を外す。そして、まるでこれから地獄にでも連れようとしている死神の様な笑顔で、その手を差し伸べた。
「――ようこそ、黒騎士団へ――」
お久しぶりです!ようやく第2部終わりました~(><)/
長かった~ここまで約2年も掛かってしまいました。。
遅書きで読んで頂いた方にはホント申し訳ございませんでした…
この先プロットでは全6部構成なのですが、如何せん書くのに時間が掛かりすぎる為、
一旦、ここで止めて3部以降は次回作が終わった後にお届けする予定です。
実は内々で次回作のプロットもだいたい固まりまして、
近々で皆様へお披露目できるかなと思います。
チラっと記載しておくと現代もののファンタジーでして、
ダークサイドでポップな、お話の予定です(ナニソレ?)
という訳で、ここまでお読み頂いた方、本当にありがとうございました。
また、お時間がありましたら、次回作にお付き合い頂けると幸いです!!
tobe continued? (・ω・)ノマタネ!




