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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
42/43

FPS episode.41

episode.41――

2014/6/1 クリミナ 郊外の街道


 冷たい雨が降りしきる街道をただ突き進む。


 クリミナの街を逃げ出てから、もう数時間は経っただろう……。大地のお陰で神父からの追手は付かなかったが、背におぶっている少女の衰弱は激しく時折、苦しそうにジャクソンの袖を掴む。


「……もう少しだ。がんばれな………」


 自分の焦りとは裏腹に彼女をそう励ますが、時が経つにつれ増す雨は背負った少女の生気を奪っていく。


 このままじゃ、そう長くは持たない………


 情けない話だが、自分では生命力となるプラーナを奪われてしまった者への対処法など分からない。だから町まで行き早く魔術に精通した医者に見せるしか、今のアリアちゃんを救う方法は無いと考えた。そんなに都合よく運ぶかとも考えたが、以前に帝国の"黒曜の吸血鬼"が言っていた事を思い出し、ジャクソンはそれに掛けてみようと思ったのだ。



「あれがフィガロか。思ったよりも大きいな………」




 西南の港町 フィガロ――


 この土砂降りの大雨と夜更けで無ければ、青い海原に面した素晴らしい港町を目の当たり出来ただろう。ここは帝国が海外各国との貿易の窓口としている重要な拠点でもあり、同時に各騎士団が集まる駐屯地でもあった。自分んの今の立場からすれば、まさに敵地のど真ん中と言っていいだろう。


 そして、案の定。町の入口には外敵の侵入を防ぐ為の大門と厳重な陣が敷かれていた。



「――そこの男、止まれっ!!」


「……待て、抵抗はしない。見ての通り急患がいる。彼女をこの町の医者に見せたいんだ」


 門の前で複数の兵士達に槍を向けられ静止させられるとジャクソンは片手を上げて敵意が無い事を示す。既に世界教からは抜けはしたものの武器を持っていれば怪しまれるだろうと途中の森林に隠しては来たのでもし彼らと敵対する事になれば身を守る手段は無い。


「それは無理だ。閉門の時間はとっくに過ぎている。規則でな、ここを開ける訳にはいかないんだ」


「そこを頼む。態々、遠くからこの町まで来たんだ。せめて、この子だけでも中に入れてくれないか?」


 ジャクソンの懇願に門番の兵士の一人が困惑して、後ろにいる上役に目を向ける。


「どうします、隊長? この女の子、本当に具合が悪そうですよ。もし本当に重病なら……」


「駄目だな。最近は病人に扮した自爆テロも多い……オレの同期も先月、それで死んだ。可哀想だが規則は破れん。悪いが大人しく明日の朝に出直せ!」



―――くそ、頭の硬い奴め………


「そんなに保たないのは見ても分かるだろう? このままこの子を見殺しにするつもりかっ!!」


「しつこいぞ! 何をどう言おうが変わらっ……貴様、それは………何だ?」


 だが、そんな押し問答の途中で上役の兵士が、急に態度を変えた。その豹変ぶりに何事だと目線の先を追うと、ジャクソンが首に下げたドックタグがあった。


 表情は先程までと打って変わり、敵意を向けてこちらを睨むと剣を鞘から抜く。


「―――貴様、世界教の異世界人だなっ!!」

「これは…違う…………」


「どう違うと言うのだ! 異世界人がその様な奇妙な首飾りを首に下げているのを以前に私は見たぞ――オイ、賊だっ!! 早く、人を集めろ!!」


 そして大声を挙げると閉ざされていた門が開かれ、一人、また一人と兵士達が続々と集まる。



「まったく、敵だと分かったら開けるのかよ……」


 そんな愚痴などは知る由も無い多くの兵士達が至る所から集まるのを見て、ジャクソンは考えを改め代案を敷く。こうなっては彼らに何を弁解しても聞き入れないだろう。それに帝国の兵士が"ヘイト"の身に着けているドックタグの事まで知っているとは、まったく想定外だったが……仕方ない。



――やるしかないよな、やるしか………


 そして、覚悟を決めたジャクソンは開いた門に向けて走りながら自己強化を掛けて、勢いをつけてそこへ突っ込む。最早、強行突破していざとなればこの町に居る医者を脅してでも、診てもらう他にはない。


「うぉぉおおおおおお―――!!!」

「ぐっ、貴様! オレを踏み台にしてっ!」


 石渡の様にして何人かの兵士の肩や頭を踏み台にしながら、ジャクソンは門の中へと飛び込む。


 そして、無事に門の中に着地するが、飛び込んだ先の市街地には既に人だかりとなった兵士や騎士達が剣と弓矢をこちらに向けていた。



「――っ、マジかよ……もうこんな居るのか!」


 予想外の展開の速さにやむ得ず別方向へと引き返し町の中心から離れると、ジャクソンは人気の無い荒廃したスラム街へと逃げ込む。


「――賊がスラム街へと逃げたぞっ!?」

「何としてもあの二人を捕らえて殺せっ――!!」


 流石は騎士団の駐屯地と言ったところか。追手の数が百を超えたのは予想以上だった。辛うじてスラムの中で見つけた空き小屋に身を隠すが、やり過ごせたとしても何の進展が無いのと変わらない。


 これじゃあ医者を探すどころじゃないな……



「――二番街だ。この辺はスラムでも空き家が多い。一軒ずつシラミ潰しに探せっ!!」


 近くで騎士の一人がそう指示を下すのが聞こえる。この分だとここがバレるのも時間の問題だ。隠れ場所を変えるべく、寝かせていたアリアちゃんを見ると表情は朦朧としていて、もう虫の息に近い。


 これ以上の移動は無理か………


 このままでは医者を見つけるより先に彼女が持たない。腐った屋根から滴り落ちる雨水や隙間の風のせいで、満足に休ませる事など出来ないが、外を連れて逃げ回るよりは幾分マシだろう。



「ここで待っててくれ、医者を連れて来るからな」


 そうして声を掛け、扉を開いた瞬間だった――




―――――ズガァン!!!


 轟音と共に振るわれた巨大なフレイルによって、ジャクソンは一瞬で古びた小屋ごとブチ撒けられる。鉄球の直撃を受けて吹き飛ばされた身体からは血の味が込み上げ、意識を飛ばす程の苦痛が全身を襲う。


「―――がぁ…あっ……………」


 不意の衝撃にジャクソンは元居た場所から数メートル先へも吹き飛ばされていた。常人の身体なら即死の筈のその一撃はドッグタグの自己治癒をフル稼働させても、しばらくはマトモに動けそうに無い。



「ハンッ、異世界人め!このラドム様の一撃を貰って、まだ生きているとは褒めてやろう!!」


 身長二メートルは超えるだろう、その巨大な大男が甲冑の音と巨体を震わせ吠える。周りにはこの大男の部下と思われる騎士達がジャクソンを取り囲む様に剣を構えて包囲している。




「どうした、恐ろしくて声も出ぬかぁ――!?」


 畏怖する様に大声を挙げるラドムと名乗った騎士はジャクソンの頭を足で踏みつけながら息を巻く。


 ………ちげぇよ……この木偶の棒が………


 不死身の様なバッドマンに比べれば、こんな騎士は見た目だけに過ぎないのだが、クリミナでの連戦でプラーナを消費してまっている今のジャクソンではコイツすら倒す事は難しい。それにこのデカブツを何とか出来たとしても、この数の騎士達を相手に上手く切り抜けられる程の余力が既に無い。


 どうする……このままじゃ………


 横たわり動かないアリアちゃんを視線に捉えながら最善の策を考える。せめて彼女だけでも助けなければ、皆の犠牲までが意味を無くしてしまう。


 それだけはあっちゃいけないんだ……



「……頼むよ…抵抗はしない。だから、その子だけでもっ―――ぐぁぁ!」


「なんだぁ、オレ様に命乞いをする気かっ?」


 しかし、そんな事は聞く耳すら持たないとばかりにラドムは更にジャクソンを踏み締める力を強めると、今度は思い切り顔を蹴り上げた。辺りに血が飛び散るが周りの騎士達はそれを止めるどころか、その様子を薄ら笑いを浮かべながら楽しんでいる。


「―――がぁっ…あぁ……クソっ!!」


「ったく、異世界人ってのは頼む時の礼儀も心得ていない様だが、心の広いオレ様は願いを聞いてやろう。――オイ、そっちの娘はお前達にくれてやるぞ。異教徒である事を死ぬほど後悔させてやれっ!」



「………なに…言ってるんだ…オマ…エ………」


「さっすが、ラドムの兄貴ぃ! 話が分かるぜ!!」


 それを聞いたラドムの部下達はハイエナの様にアリアちゃんを囲む。そして、まるでごちそうに有り付く獣の様に彼女へ馬乗りとなると腰から抜いたナイフで服を強引破り捨て、卑下た表情で笑いを上げる。


「――へへっ、こりゃあすげぇ上物じゃねぇか!!」

「しばらくぶりなんだ、オレからヤらせろっての!」

「ふざけんな、お前の後なんてイヤだぞっ!!」



「――っ…その子に…手ェ…出すんじゃ…………」


 血まみれの顔を泥に埋めながらジャクソンは身体の自由を阻む巨大な足を掴み必死に振り解こうとする。だが、それすらも楽しむラドムはサディスティックに口元を上げると自らの剣を抜いて、土を掴むジャクソンのその手に突き刺す。



「っ――がぁああああぁ――――!!!」


 人気の無いスラムではそんな悲痛な声が木霊しても端々から見る浮浪者達は見て見ぬ振りを突き通す。そして、その絶叫をまるで美酒を浴びた様に卑下た表情のラドムはジャクソンの頭を掴み、その耳元で囁く。


「動くんじゃねぇてのっ……お前もあの娘の様にたっぷりと可愛がってやるからよぉ」


 ……コイツ……まさか男色か………。


 ラドムに色のある視線を向けられている事に気づいたジャクソンは、この町に来たことを深く後悔する。


 アリアちゃんを助けるどころかこんなクズ共に良いようにされる何てルーシェにも親父さんにも顔向けが出来ない。自分のあまりの不甲斐なさに唇を噛む。


「このクズ野郎…地獄にぃ…落ちやが…れ………」


「オォ、吠えやがるなカワイコちゃん……安心しろ。オレ様はそれぐらいの方が燃えるん―――」




―――――ダァン!!!


 しかし、そんな絶望の淵を一発の弾丸が裂くと少女に触れようとした男の腕が大量の鮮血を散らす。


「―――その手を退けろ、このゲス共が…… 」


 突然の激痛に驚いた子分の一人が無様に悲鳴を挙げるが、それを耳に響く凛とした声が制した。その声の先には深紅の瞳を持つ、ジャクソンも見知った女性がハンドガンを構えていた。

 

 

ずっと更新が止まっておりまして、申し訳ございませんでした。。


本当は今回で最終回のつもりでしたが、思ったよりも長くなってしまい、

もう1話を追加で書いております(・ω・)>


また、今後の話の展開を大きく変えようと思い立っておりまして、

現在はこの話をプロットから書き直しています……。


2年以上書いているとどうも、モチベを維持するのが厳しいのです。。

なので、次の章はもう少し先になってから書くつもりです。


ただ、絶賛別のお話はコソコソと書き貯めていますので、

近い内には皆様へお披露目できるかもです(・ω・)/

 

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