FPS episode.03
episode.03――
2014/7/30 首都アルダート郊外の教会跡 ――
「――ビッドスタートだ。まずはひとつ!」
先行で地下室に入ってきた3人のうち1人を確実にヘッドショットで仕留め、ジャクソンは手早く次弾の装填する。そして、その間を切り替えるように今度はクリフが前に出て、アサルトライフルで残りの2人を射抜いた。
「僕が先行して上がる、3秒後に援護射撃」
「アイアイサーっ!」
クリフの指示通り銃声を聞いて降りてきた追加の1人をワンショットキルで仕留める。そのタイミングに合わせて、クリフが信じられないスピードで階段付近に居た敵を更に2人をあっという間に毛散らし突破口を開いた。
「アイツを敵に回したくないな、ホント……」
戦闘開始から僅かな時間で状況を打破することに成功したジャクソン達はそのまま上へ階段を登る。すると教会ホール内には3人の男が銃を構えており、ジャクソンが顔を出した瞬間に激しい弾幕に出迎えられた。
「ヒュー、危うく蜂の巣だった!」
「そのまま、死ねば良いのに……」
気のせいか敵は前では無く横に居る気がするが、それはとりあえず置いておき……この中世ファンタジー然とした世界では、当たり前なのだが銃の製造等が出来ない。それもあってこの世界に現存している銃は皆、異世界人が召喚された際の付属品として現れたものだ。その種類は各個人が元の世界で深い因縁があるモノが選ばれるようだが、全て銃とは限らない。
現にジャクソンと一緒に召喚されたのは、銃では無くゲームで愛用していたバリスティックナイフだった。ちなみに今使っている銃は騎士団から借り受けているL96という、本物のスナイパーライフルである。
「残りは異世界人か、厄介だな……」
「考えてる暇は無い。お前は左に居る1人を、僕は右の奴とリーダー格の2人を殺る」
「――了解。俺だって、やってやんよ!」
クリフと二手に別れたジャクソンは敵からの注意を引く為、手短な瓦礫を投げつける。そして敵が瓦礫に反応した瞬間、身を隠していた場所から顔を出し即座に照準を左側の男に合わせて引き金を引く。
――――ダァン!
「 ぐぁっ!」という悲鳴と共に弾が当たった男はよろけるが、信じられないことに常人であれば致命傷である筈のその一撃に耐えていた。ボルトアクションで次弾を装填後に再び狙いをつけようとしたジャクソンだが、敵はこちらの想像を超える速さで銃を構え直した。
「貴様の好きにはやらせんっ!」
「――クソッ、もう一回っ!」
敵もそれなりの訓練を受け生き残ってきた人間だ。ジャクソンがスナイパーであると見て、距離を一気に詰め主導権を握ろうとするが、その意図を読み取ったジャクソンは即座に判断する。
スナイパーライフルでの射撃はスコープを覗く分、敵が扱うアサルトライフルより僅に時間が掛かる。常識で考えれば、このままの撃ち合いは避けるべきだが……
――それでも……やってみるさっ!
ジャクソンはスイッチを入れるように首に下げたドッグタグのリミッターを外す。その瞬間、ジャクソンの視界に映る光景は白と黒だけの不思議なモノクロの世界へ変わる。
――バレットタイム。そう呼称されるこの現象は動体視力を極限にまで強化して、たった0.3秒程の時間を3倍弱にまで体感速度を引き上げる高等技術。ドッグタグの熟練者ならばある程度は誰しも使用出来るが、消費するプラーナがあまりに膨大で効率が悪い為、誰も使うことが無い"死にスキル"だった。
しかし、変態スナイパーにとってその0.3秒は不可能を可能とするには十分な時間だ。
――――ダァン!!
その差はコンマ数秒も無かっただろう。眉間に風穴を空け口惜しそうな表情でその場に崩れ落ちた敵に「残念だけど、実戦経験はこっちが上なのよね」とジャクソンは軽口を吐く。
今のはトリックショットの一種であり、元々ゲームの中で使っていたQSという技が元ネタだ。一撃必殺が大前提のスナイパーで本来は実戦で使えるような代物では無いが、ジャクソンの無駄なこだわりとロマンによりそれは実現した。スナイパーであるジャクソンがこの様な近距離での白兵戦が出来るのも単にこの技術があればこそである。
「ふぅ、何とか勝ったな……」
ひと息ついた後に残りの敵を相手にしていたクリフを見ると2人を相手に勝負がつけていた。最初の1人は額に銃弾を受け絶命しており、もう1人のリーダー格はナイフで喉を切られ事切れている。
「何か、こっちの苦労がバカバカしくなるわ……」
クリフはあんなにアッサリ倒しているが、訓練を終えた異世界人は1人だけでも一個小隊並の戦力になる。それがリーダークラスとなれば、その3倍の戦力でも足りない。
それだけでクリフのスペックがどれだけ、普通に比べて規格外なのかが分かるだろう。
「正直、反則に近いです、ハイ……」
「お前がヌーヴなだけだ。さっさと――」
それは本当に突然だった。バキッと何かが折れる様な音と共にジャクソンとの会話で警戒を解いていたクリフが、宙へ突き飛ばされるとそのまま壁に叩きつけられた。いくら身軽とはいえ、人の身体が容易に宙を飛ぶ程の腕力で叩きつけられたクリフはうつ伏せになったままピクリとも動かない。
「クリフっ!まさか、バーサーカーか……」
ジャクソンは目の前の化け物に驚きを隠せない。バーサーカーとは召喚された異世界人がドッグタグの制御をすることが出来なくなり、限界を超えて強化された姿の事だ。その様相は人間の理性的な部分を失い、強化され過ぎた身体は皮を破り肥大化してモンスター然としている。
――――グワォォオオオオオォォッ!!!
辺りに響き渡る雄叫びはまさに凶悪な獣そのもので既に先程の面影は無くなっている。ジャクソン自身はバーサーカーと対峙するのは初めてではなかったが、それでも出来れば2度と対峙したくない相手だった。
「クソッ、時間が無いってのにさ……」
既に言葉など通じない相手に愚痴を零したジャクソンへ突進を仕掛ける化物にライフルを構えて、容赦無く銃弾をブチ込む。ほぼゼロ距離に近いこの状況でのヘッドショットはバーサーカーの左目を容易に貫き、その頭蓋を撃ち抜いた。
血と脳髄が四方に飛び散り、バーサーカーの左頭部は剥き出しの状態となる。しかし、そんな状態にも関わらず目の前の化物は今尚力強く立っている。
「なっ、嘘だろ……」
普通ならば死を迎えている筈のその傷が、みるみるうちに塞がると元の原型を取り戻していく。その光景は既に人間などでは無く、化物の名に相応しいものだった。
――――グォォオオオオオォォッ!!!
そして、お返しとばかりにその幹のように強靭な腕を振るわれるとジャクソンの身体は朽ちた床に思い切り叩きつけられた。
「―――か――はっ!!」
腹の奥から血が込み上げ吐血する。恐らくは内臓が幾つかやられたのだろう。例えタグの効果で多少は自己回復が出来るにしても、痛み自体は変わらない。
うぅ…痛ぇ…な……まじで………
だが、そんなことお構い無しにバーサーカーは再びジャクソンの前に立ちそびえると、その頭を掴み力のまま持ち上げ獲物を弄ぶ。
「くそっ…これは……マズイね………」
今にでも頭を握り潰されそうな状況だがジャクソンに為す術もない。身体がマトモに動く様になるにはまだいくらか時間が足りず、唯一の手段も腰に刺しているナイフだが、この化物には効果が期待出来ないだろう。
「どうしよ…白旗でもあげるかな……」
――――ガァンッ!
だが、ジャクソンが動くよりも先に事態は好転する。頭を掴んでいた太い腕が吹き飛び、化物は悲鳴を上げてたじろぐ。何が起きたのかと確認するべくジャクソンは後ろを振り返ると、そこには細い体躯に見合わない大型のハンドガンを構えたクリフの姿があった。
「ナハハ……遅いってクリフ……」
「そんなのワザとに決まってるじゃん?」
相変わらずの減らず口でそう返すクリフだが、自身も最初の一撃で重傷を負っている筈だ。しかし、その様子からはそれを見て取る事は出来ない。
「……この化物は僕が殺る、お前は会場へ行け」
平静を装ってはいるが既にクリフの目は獲物しか捉えていない状態だ。今の言葉も訳せば「お前は邪魔!」と言うサインだろう。
「りょーかい、後は頼んだ……」
ジャクソンは気の無い返事を返して落としていたライフルを拾うと化物が持ち直す前に身支度を済ませる。こんな化物を目の前にして薄情だと思われるかもしれないが、それは大きな間違いだ。
――何せ、アイツの方がよっぽど化物なのだ。
「あ、そうだ……もし間に合わなくて、ルイに何かあったら……お前も殺すからね」
そして、最後にサラッと聞こえた怖い言葉を背にジャクソンはその場を後にした。
さてさて、第3話ですね♪今回はバーサーカーという化物が出たりと、
ちょっと趣向を凝らしてみましたが、いかがでしたでしょう?
もう少し進んだらサバイバルホラーっぽい展開のお話も予定しているので、
敵さんはちょっと強めの設定で行こうと思っています(´ー`)フフン
※気になる方用のジャクソンとクリフの装備は↓です。
ジャクソン(L96A1,バリスティクナイフ)
クリフ(AK-47,デザートイーグル)
敵さん(ステアーAUG)
PS
300PVありがとうございます!よければ感想など頂けると励みになります☆
FPSは皆様のPVによって成り立っていますΣd(゜∀゜d)