FPS episode.35
episode.35――
2014/5/27 世界教 魔術研究所 主任研究室
「貴方はこの研究所が異世界人を送還する魔術を研究していると言ったけど、それは教団が表向きに流している顏に過ぎないわ。その実態は生体実験……いえ、正確には大量破壊兵器の開発をしている」
「………大量破壊兵器の開発?」
「えぇ、隣の実験室にあったビーカーの黒い亡骸は人間……貴方も薄々は分かっているんでしょ?」
「俄かに……信じがたい話だがな………」
彼女の今言った事は本当だろう。これまで駆け抜けて来た戦場で様々な人間の死体を見てきたので、違いはジャクソンにも分かる。だが、一体どうしたらあんな状態になるのかは見当も付かない。
「……これを読んでみなさい。そこに倒れている研究員が隠蔽しようとしていた資料の一部よ」
辺りに散らばった書物や資料の一つを彼女に手渡され、ジャクソンは訝しげにそれに目を通す。インクの手書きで“人造魔石精製に関する概要”と記載されており、その内容は狂気に満ちていた。
この世界での魔石は高濃度のエーテルが結晶化したものであるが、人間やその他の生物にも大小違えど、エーテルが内包している。これに書かれている概論はその内包しているエーテルを強制的に引き出し、魔石へと還元する禁呪についてのレポートであった。
それは兵器としてはこの上なく有用なのは自分にも理解は出来たが、核兵器と同じで使用されれば最後、魔石に還元されてしまった大地は草の根も生えない、死地へ変わってしまうと書かれている。
こんなもの、使って良い類いの代物では無い……
「先日、東方の小さな村が似た状態で見つかったわ。そこに書かれている通りの結果でね……」
「……それも本当は帝国の仕業じゃないのか?」
無愛想にそう返すと彼女は笑ったが、言葉とは裏腹にその表情は深い憂いを帯びている様に見える。
「………あんな鬼畜な所業が平気で出来るとすれば、それはもう人じゃ無いわね。現状で皇帝もそこまでは落ちぶれてないし、これが教団の大主教の企てであるという証拠もここにある。でも、その資料に載っているのは奴が帝国を簒奪する為の計画の一部でしか無いんじゃないかしら」
「帝国を簒奪するだって?」
「えぇ…我々は数年掛けて教団の調査をしてきたわ。そして最近、これまでその姿を表さなかった大主教がようやく動いたの……異世界人の召喚、ヴァラクーダ強制収容所の叛乱、小村での虐殺……それらはすべて奴が裏で糸を引いて描かれたシナリオでしょうね」
「――馬鹿な! 何を根拠にそんなっ!!」
「そうね、残念ながら今の話全てには証拠は無い……でも、これまでの事実がそう差し示しているわ」
「………そんな筈はない………」
そうだ。もしそれが本当であれば、今までマークやエレナさん達を殺した奴らに自分自身が加担していたという事になる……そんな話をみすみす信じる事など、そう簡単に出来る筈が無い。
「……今なら過ちを重ねずに済むわ。投降なさい」
先程までの憂慮した雰囲気を一転させると、彼女の深紅の瞳がジャクソンを試すように見定める。
(どうする……嘘を吐いている様には見えないが……)
「……それは出来ないよ。君の話が事実なら尚更だ」
そして、悩んだ末に出した答えはそれだった。
「分かった……無理強いはしない。でも、世界教がある限り苦しむ人間が居るということは覚えておいて」
そう答えると彼女は厳しい表情を和らげ、気にした様子も見せずに自分の装備を整え始める。
初めから答えは分かっていたのだろう。
「……悪いな。だが、為になる話だったよ」
「えぇ、なら良かったわ。少しでも恩義を感じるなら、この後に追撃しないで貰えると助かるわね」
「追いはしないさ。やらなきゃならない事が出来たからな…… 」
そう……これらの証拠を自分の目で確かめる必要がある………
「へぇ、何も分かってない様で本質は理解した様ね」
そう言って彼女が腰のポシェットから差し出したのは1冊の魔術書とルビーの様な紅い宝石だった。
「なら、これは貴方が持っていた方が価値があるかもしれないねわ。仲間に証拠として見せなさい」
ジャクソンはそれらを受け取って目を通す。魔術が使えない自分では判別が付かないが、宝石の方は恐らく禁呪によって精製された魔石なのだろう。
これが本当に人の命を吸い尽くして作られたモノなら、先程の彼女の話にも信憑性が生まれる。また、魔術書の方は難しい文字がギッシリと書かれていたが、以前にベルが読んでいたものよりもより古くこちらが原文に近いのだろうと思われた。
所々には翻訳した解釈も添えられており、ベルならこれに書かれている内容が読めるかもしれない……。
「……この本は?」
「私もまださわりしか読めていないけど、どうやら異世界への送還魔術について書かれた魔術書の様ね」
「――何だって! 元の世界に戻れるのか!?」
「残念ながら、私にもそこまではまだ分からないわ。アーリィ文字は専門の人間でないと読めないものよ。その本にはどうやら所々に今では読めなくなっていた部分を独自の注釈が付けられている様ね」
「……こんな大事な物を俺が貰って良いのか?」
「えぇ、願わくば……それを翻訳していた人間に返してくれる事を望むわ。ここにあった唯一マシなものだからね」
「……分かった、ありがたく貰っておくよ」
ジャクソンの様子を見て、彼女は自嘲気味に笑うと置いていた銃をホルスターに戻し背を向ける。
「それじゃあね。もし教団の真実を知って気が変わったら、西南のフィガロという街で私を尋ねなさい。“同郷のよしみ”で悪い様にしないわ」
「あぁ、覚えて……って、君も異世界人なのか!?」
だが、それには答えず、彼女は黒髪を靡かせ颯爽と部屋を出て行った。そして、残されたジャクソンはその後もしばらく1人で部屋に残り、研究所の機密資料を読み漁った。
そして、読む度にその内容に落胆の声を漏らす。
「ははっ……クソ、狂ってやがる………」
教団がここに書かれている通りなら、どうする…… 元々はあんな虐殺をした帝国への私怨で始めた事が、それすらもすべて利用されてたって事なのか………
真偽を確かめてやる……絶対に………
ジャクソンは手当たり次第にそれらの資料をバックパックに詰めると部屋を出て、教団の聖堂へと向かった。
35話目です! 今回も何回リテイクしたことか……(ノД`)シクシク
さて、教団の様々な悪事を知ってしまったジャクソンはひとり動き出します。
ネタバレをしない様にネタバレをするのって、こんなに大変だとは……
本当はあと1.5倍くらいの文章あったのですが、分かりやすくするためカット!次はもうちょいツラツラと伏線とか考えずに書こうと決めた回でした(;´・ω・)
PS
更新スピード落ちてますが、気長に読んでいただけると嬉しいです!
これからもFPSをよろしくお願いします!




