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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
34/43

FPS episode.33

episode.33――

2014/5/27 帝国南方のダノン砦


 前回の作戦から一月。俺たちは帝国打倒の大義名分を得る為に国内で悪名が高い組織や勢力を討伐する事で人心を得る事に成功し、今では各領主の圧政や差別に苦しむ反帝国の象徴として人々に多く知られるまでになっていた。


「――コイツら、あの“ヘイト”だ!逃げろーー!!」

「――ヒッ! 俺達じゃあ勝てる訳がねぇ!?」


 武装した騎士達が持っていた剣を投げ捨てながら逃げていく様を唖然と見つつ自らの部下に取り残された第8騎士団の隊長ガディスは血が溢れるほど歯を噛みながらこちらを睨む。


「――くそぉ……化物どもめぇ………」


 騎士とは名ばかりの傭兵達を集めて作られた第8騎士団ではあったが、身の丈程もある大剣を振るう屈強の戦士であるガディスだけは帝国一の切り込み隊長として有名であった。


「投降しろ…それが嫌なら、さっさと逃げるんやな」


 そんな帝国の5本指と歌われ、それに違わぬ実力を持っている彼を苦もなく倒した大地はそう言うとガディスは目を丸くさせた。


「貴様……俺に情けを掛ける気か?」


「いや、アンタみたいなヤツは嫌いじゃないんでな。もっとイーブンな状況で戦いたいだけや」


 大地の思わぬ言葉に驚いたガディスはしばらく考えた後に「ふざけた奴らだ……しかし、次はこうはいかんぞ!」と踵を返し去っていった。


「なぁ…良いのか大地? マクベスは姿を見られたら、生かしておくなと言ってたろ?」


「構わんて。逃げた奴らがオレ達の悪名を高くしてくれれば、他の仲間から敵視(ヘイト)が逸れて安全に活動させる事が出来る筈や。それにあんなデカイ大剣を振るうヤツなんて、男なら憧れるやんか!」


 元々、主人公気質な大地は今ではすっかりリーダーらしくなっていたが、今のヘイトがこれほど人々に受け入られているのはそんな大地の人柄と行動方針による所が大きい。また、帝国の英傑といっても過言では無いガディスを圧倒する実力を、この短期間の修練で身に付けた大地はやはり天才だと思い知らされる。


 昔からイケメンでスポーツ万能な大地はゲーム以外は何をやっても人並み以上に出来たが、もしゲーマーの道を突き進まなければ、他の分野でどれ程の名が残せただろうかとその才能を惜しまれた。まぁ、そんな残念な所が大地らしくもあったりもする……



「オイオイ……それじゃ、これからどんどん敵が多くなっていくってことじゃないか!」


「あぁ、それがオレ達“ヘイト”の役割や。それにお前が居れば問題ないやろっ……なぁ、相棒?」


 そう自信満々に言う大地にタメ息を吐く。


「ったく、気軽に言ってくれるよ……」


 大地の言っていた通り“ヘイト”の名声は大きく広がり敵は増えたが、それにより守られている勢力からは表立ってでは無いが協力者も増えていった。それにより潤沢な後方支援を受けられるようになった事で大地とマクベスはかねてより計画していた、未だにヴァラクーダに捕らわれている他の異世界人達を開放する為の大規模な作戦を実行に移す。



 そう、あの忌まわしき記憶が残るヴァラクーダの収容所に再び赴くこととなったのだ。


『―――ヌアォオオオオオオオオオオオッ!!!』


『出たぞぉー! バッドマンがでたぁーーー!!』

『ギャ、ギャーーーっ!?』


 悲痛な悲鳴と絶叫が木霊するとその奥に大きな戦斧を2刀持ちしたバッドマンの巨体が聳え立っていた。その光景は俺たちがここから出た時に見た血の風呂(ブラッドバス)を彷彿とさせる。



『―――ガハハハハッ!どうしたその程度かゴミ共、掛かってこい! くびき殺してくれるわぁーーっ!!』


 尋常じゃない力によって、歩を進めていた世界教の部隊を半壊させたバッドマンは猛り叫ぶ。


「野郎、相変わらず化け物ジミてやがる……」


「やむ得ん…ジャクソン、オレ達でやるぞっ!」


「――あぁ、ここでヤツに借りを返す!」


 凄まじい雄叫びが周囲を揺らしている状況の中で、ジャクソンたちは逃げる教団の兵とは相対して、バッドマンの面前へと足を進め立ち塞がる。


「おっと……ここから先は通せないぜ?」


『ほぉ……キサマらは逃げた大地とジャクソンか……わざわざ殺されに戻ってくるとはいい度胸だ』


「まぁ、2度と会いたく無かったけどな……」


 残念だとジャクソンが首を竦めていると大地が前に出て銃をバッドマンに向けた。


「お前を始末して、ここに捕まっている異世界人を解放させてもらうぞ!」


 たった二人で2メートルを超えるバッドマンの巨体に対峙するとジャクソンも同じく銃を構える。



「ホザきよる……ここでオレ様に鍛えられなければ、羽虫以下の存在だったキサマらがぁーー!!」


 そして、バッドマンが轟きを挙げるとそれ同時に2つの戦斧が恐ろしい勢いで振るわれ、俺たちに襲いかかる。以前であれば、たったその一撃だけで2人とも胴を真っ二つにされていただろう。


 だが、今ではその軌道が容易に見て取れる。


「―――悪いが、以前の俺たちとは違うんでね!」


 戦斧の軌跡が風圧となり髪を揺らしたが、ジャクソンは後方に引くと同時にサブマシンガンを撃ち尽くす。だが、弾丸はバッドマンの強靭な身体に喰い込みはしたものの致命傷には至らない。



「――ちっ、相変わらずバカみたいに頑丈なヤツ」


『フン……小癪な奴らめ。少しは出来るようになった様だが、まだまだ甘いわっ!』


 容赦はせぬとバッドマンが更に勢いを増して戦斧を振るうが、俺は息を合わせ紙一重でそれを避けてゆくと辺りの柱や物が代わりとなって粉砕されていく。


「ヒュー、アッブねぇ〜!」


「――ジャクソン、それじゃバッドマンは倒せない。オレがライフルで牽制する。止めは頼んだでっ!」


「ヨシッ、任せろ!?」


 大地はライフルを構えると目にも止まらぬ速さで、初段を命中させバッドマンの動きを止め、次弾が装填される前に詠唱を口ずさむ。


『―――主よ、我を恥からお救い下さい―――』


―――ダァッン!!!


 大地は狙い澄ました様にヘッドショットを決めるとバッドマンの顎を砕いた。


『―――ヌゥオァァァァッ!!!』


 そして、動きが止まったその隙を突いて、今度はこちらからバッドマンの懐に突っ込み、ゼロ距離に近い位置で剥き出しになった頭蓋にスナイパーライフルの照準を合わせトリガーを思い切り引い絞る。



「――――貫けぇぇぇっ!!」


 刹那、赤い飛沫が飛び散り岩盤の様に頑丈だった、バッドマンの左頭部が弾け飛ぶ。



『―――グゥゥオオオォォォォォッ!!』


 奴がどれだけ人外レベルの硬さを持っていたとしても、これだけの損傷を受ければ死を免れないだろう。


「やった、これでくたば……って、嘘だろ!」


 だが、そう安心したのも束の間、朽ちるどころか破裂した筈の頭部は徐々に再生されその形が元に戻っていく。その、あまりに異常で信じられない様な光景に俺は身を凍らせ、呆然と立ち尽くす。



「―――避けろ、ジャクソン!?」


 しかし、その大地の声が響いた頃には既に遅い。


 人の枠を大きく超えた化け物と化したバッドマンは巨大化したその豪腕を振りかざすと先程とは比べ物にならない速さで拳を振るわれる。


「――がはっ!!」


 しかし、目では来ると分かっていても、避ける事は出来ずに数メートル先の壁へ叩きつけられた。


 痛みで意識が飛びそうになるのを辛うじて堪えるが最早、マトモに立つ事も出来ないジャクソンにバッドマンが地響きを鳴らしつつ近づいて来る。そして潰れるのでは無いかという程の握力で頭を掴み持ち上げる。


『――まさか、ここでこの姿を晒す事になるとは……オレ様がお前達を甘く見ていたという事か……』


 伝記などで言えばまるでミノタウロスかという程に人外の化け物に変わったバッドマンはその見た目にそぐわない流暢な言葉でそう呟く。


「―――離しやがれ…この……ぐあぁあ……」


 凶悪な笑みを浮かべながら徐々に力を込めていくがバッドマンに抵抗も出来ない。圧迫され過ぎた自分の頭蓋が軋む音が耳に直接響き、迫り来る自分の死を覚悟させられる。



『フンッ、面白いではないか…もう少し時間があればキサマらも良い素材にっ――ぬっ!』


 意識を手放し掛けたジャクソンは最後の抵抗にと腰のバリスティックナイフを手に取りバッドマンの腕に突き刺すと、僅かではあったがバッドマンの動きが止まった。



『―――主よ、耳を傾け私の砦となり、力をお貸しください―――』


 それと同時に聞こえた大地の詠唱と共にスナイパーライフルから放たれた淡い光の弾丸がヤツの頭に勢いよく喰い込んだが、それでもバッドマンは全く動じた様子も無く、ニヤリと口を剥いて野獣の様に笑う。



『人間風情が……良くもやる。ここで殺すにはちと惜しいかもしれんな』


 その一撃に関心したのかバッドマンは片手で掴んでいた俺を投げつけた。まるで物の様に投げられた俺を大地が倒れ込みながら何とか受け止める。



『――ここは見逃してやる。次に会った時はもう少しオレ様を楽しませろ。もしそれがでなければその頭、完全に握り潰してやろう』


 そして、信じられないほどの跳躍で収容所の高い壁を越えるとその姿を消した。



「………大丈夫か、ジャクソン?」


「何とか生きてるよ……それにしてもあんな化け物は冒険者をやってた時でも見た事がないぞ」


「あぁ、ホント生きた心地がしないな……」


 あまりに信じられない出来事に俺たちは呆然として、しばらくは立つ事さえ出来なかった。



「ちょっと何コレ……アンタ達いったいここで何してたのよ?」


 ジャクソンたちが戻らない事を心配したイフリーが、まるで災害でも起きた様に破壊されて酷い有様になっている辺りを見回しながら、唖然と口を開ける。


「まぁ、ちょっとな……化け物と戦ってただけさ」

「そう…やな。まったくフーバーな世界やで」


「はぁ?ふーば?…何それ………」


 こうして、ヴァラクーダ収容所を占拠した俺たちは囚われていた異世界人を解放し部隊に取り込み、最初は6人しか居なかったヘイトは新たな重火器のアドバンテージとメンバー増員によりひとつの騎士団と同等以上の戦力となる事に成功する。


 更に公式には政治犯の収監に利用され戦後に解体された筈のヴァラクーダ収容所の存在を公表された事は帝国の政治家にとっても大きな痛手となった。これにより“ヘイト”の存在を問題視した帝国議会は本格的に世界教の掃討作戦に乗り出す事になる。



「――ジャ、ジャクソンさん、大変です!帝国騎士団が教団の魔術研究所に侵攻を開始したそうです。我々にも応援要請が来ています!」


 ヴァラクーダ解放後の間も無く、各騎士団によって教団の施設が一斉摘発されると関係者達が次々に捕縛されていった。そんな状況の中、魔術研究所が帝国の第9騎士団に強襲されたという情報が舞い込む。


 世界教が極秘に営んでいた魔術研究所には大地達が元の世界に戻る為の転送技術が研究されていた。もしそれらが帝国に潰されてしまえば、彼らの希望を断たれてしまう事になるだろう。そうならない為にジャクソンたちは研究所を防衛するべく、急ぎ出撃することになった。


 そこで想像だにしない教団の実態を知ることになるとも知らずに――

 

33話目です。またまた更新遅くなってしまいました~すみませぬぅ(ノД`)


今回は人外の化物という正体を現したバッドマンとの戦闘がメインのお話でしたが、ココらへんから徐々に第1話へとお話がつながっていきます。


実は最初の方の話が1年前くらいになってしまい見直しつつ書いておりますので、気が向いた方は以前のお話を読んで頂けると更にお楽しみ頂けるかも?


また、さり気なく大地の必殺技もお披露目しましたが、バッドマンが異常過ぎたみたいでせっかくの見せ場が……


PS

本話の内容がまだ詰められていない部分が多々ある為、後日修正予定です!


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