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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
33/43

FPS episode.32

episode.32――

2014/4/28 世界教の聖堂近くの野原


―――ダァン!――ダァン!―――ダァン!!


 遥か遠方に立てられた標的が銃弾で吹き飛ぶ。


「……やっぱり……感が良いとかじゃないな………」


 先日の件から3日。次の作戦までの準備期間を利用して、以前から感じた違和感を確かめる為に聖堂近くの野原で1人狙撃の練習に励んでいた。


 結果は見ての通り、左撃ちに変えたからというのもあるが、スナイパーライフルの有効射程ギリギリに配置した標的を難なく射抜く事が出来るまでになっていたが、それが特異な事だと言うのは自身が一番良く分かっている。


 それは本来はカンが良いとかそういうレベルでは成し得ない代物であり、空気抵抗や重力による距離減衰に加え、対象との距離があれば自転の影響を考えてコリオリの法則すら熟知する必要がある。


 それをまるで歴戦の兵士の様に身体の感覚だけで成し得てしまえるのは、とても異常だと言えるだろう。


 今の状態を例えるなら"レベルは低いのに最初から高レベルの技能が使える感じ"といったところだろうか。普通であれば、こんな規格外の能力を手に入れられたら手を挙げて喜ぶべきなのだろうが、先日の男爵の一件などまだまだ得体のしれない部分が多過ぎるというのが大きな問題だった。


 また、色々と試して分かったのはこの不可思議な現象は変質したドッグタグに魔力を通した時に使えるという事と使用時のプラーナの消耗が激しすぎて、今の俺では常時使えるものでは無いという事だろう。



「―――よっ! 何してるんや、ジャクソン?」


 そんな、自分の変化を考察してボーっとしていた俺は大地の呼びかけでハッと意識を戻す。


「あぁ、ちょっと考え事をしてたんだ……」


「そっか……それよりも聞いたかジャクソン。何でも 今朝、男爵が改めて処刑されたらしい」


 バスティーユ男爵拉致の報は帝国中を驚かせ、虐殺の真実が公表されると反帝国を掲げる勢力や保守派の政治家達は挙ってそれを批判し、世論は現政権や皇帝への不信を募らせるに至った。


 そして今朝、スフィーダ伯爵によって男爵の公開処刑が行われるとそれに乗じ、男爵に虐殺を命じたのは元老院議会を掌握している皇帝やカミノ教の革新派であると糾弾した。皇帝や革新派らは事実無根であるとそれを否定したが、今回の一件により国内の対立勢力の状態は内戦寸前にまで冷え込む事となる。


 また皇帝が押し進めていた融和政策も無に帰す形となり、もはや仮初めの平和が何時までも続かない事を知らぬ者はいなかった。



「――あぁ、今朝に聞いたよ。"死んでいる人間をまた処刑する"なんて、まるで茶番だけどな……それに教団の連中はいったい、どんなトリックを使って男爵が生きていると偽装したんだ?」


 特に疑問に思っていたのは偏にその部分だった。


 例え一時的であっても死者を蘇らせた様に見せる術があると言うことだろうが、この剣と魔法の世界でも人を生き返す魔術などは聞いたことが無い。



「それはオレも気になってたんで、さっき神父に聞いてみたんやが“神の御業ですよ”と誤魔化された。多分、何かの魔術なんだろうが、どうにもオレ達の知らない裏が教団にはありそうやな」


 大地はそう言うと腕を組んでタメ息を漏らすと難しい表情を浮かべる。



「……裏…ねぇ………」


 ジャクソンは空を見上げながら、その言葉の意味を考える。この世界の何が本当で何が嘘なのか……それはまだ分からないでいたが、自分が知らぬ間に大きな流れの中に居ることを嫌でも感じずにいられなかった。




 しばらくして聖堂に戻ると自分の部屋に戻る途中でプレートに盛られた料理を運んでいる神父を見掛け、俺は思わず声を掛けた。


「――なぁ、神父さん!」


「貴方でしたか。訓練の調子はいかがでしたか?」

「まぁまぁ…って所かな。それよりその食事……」


「えぇ、貴方が連れて来た男爵の娘……名前はミリアムと言いますが、彼女へ持っていく所ですよ」


 神父の言葉で俺は先日、彼に託したあの少女の事を思い出す。この3日間、自分が気にするべきじゃないと考えない様にしていたが、このまま目を背けていても前に進めないだろう。それなら……



「………あのさ……俺も行って良いかな?」


「えぇ、構いませんよ。ですが、今の彼女は精神的に不安定になっていますので、気を付けて下さい」


 神父に連れられる形で聖堂の離れにある鍵の掛けられた客間に入るとそこに彼女は居た。その姿は先日にナイフを振りかざしてきた時とは明らかに違い、痩せ細り少女の目には生気が感じられなかった。


「まだ手をつけて無いようですね……少しでも何か食べないと身が持ちませんよ」


 テーブルに置かれている一口も手の付けられていない料理を神父は新しいものに交換しながら話しかけるが、少女はまるで人形の様にうわ言を話すばかりで、反応する様子が無い。


「………お父様は……そんな筈…ない………」


 窓から外を見据えたままの虚ろな表情は酷く病的であり、彼女の手首には最近付いたと思われる生々しい切傷が見受けられた。



「ずっと……こんな感じなんですか?」


「えぇ、彼女は自らの父がどの様な事をしていたのか、それらの真実を知りました。その後からはずっとこの状態ですね」



「――事の…真実?」


「はい。自分の父親がどの様な罪を犯したのかを知りたいと望んだので、私は第3騎士団が密かに所持していた虐殺の証拠を見せました」


「そんな事が……」


「えぇ、我々も証拠無しには断罪する事など出来ませんからね。酷だとは思いましたが隠し事をしては彼女の為にならないと考えました。しかし……」


 少女を見て、神父は眉をひそめる。


「余りにショックが大きかったのでしょう……無理もありません。以前の男爵は公明正大で民にも慕われる人物でした。それがまるで人が変わった様に虐殺を行うなど、彼女でなくても信じられないのは頷ける話です……しかし、この状態では解放して家に帰すことも出来ませんし、困ったものです」


「そう……ですか」


 男爵の昔の人となりは知らないが、思い詰めて衰弱した様子から彼女にとってそれは耐え難い事だったのだろう。もし自分があの時に連れて来なければ、こういう結果にはならなかったかもしれないと考えると、まだ人並みには残っている罪悪感が己を責め立てる。


 何か……出来る事は無いんだろうか……


 自分が変えてしまった人間のその哀れな姿にふと、そんな考えが過ぎるが、それこそ偽善に過ぎないと首を振る。だが、ジャクソンの姿を目で捉えたミリアムは光を無くし虚ろだった瞳を復讐の色に変える。



「―――っ!? 」


 そして、少女の手はこちらに伸び、ジャクソンの首を絞めた。



「―――全部……なたのせいよ……あ…たの………」


 だが、ただでさえか細いその腕では、大の男の息の根を止めるには到底足りない。



「……うっ……えぐっ……なん…でよぉ………」


 自分の非力さが悔しいのか、少女は泣き崩れると首を締めていた手をゆっくりと離した。



 そっか……そういう方法もあるよな………



 そして、覚悟を決めたジャクソンは悪役の様に彼女の頭を掴むとその額に触れ前髪を退かし……


「――お返し……だっ!」




―――ペチンッ!?


 と会心のデコピンを額にお見舞いする。



「――あぅぅ……いったぁ〜」


 直撃を受けた額を真っ赤にして少女は手で抑えると突然な事に驚いたのか目を見開いたまま動かない。その表情から報復に殴られるとでも思っていたのだろう。


「お前さ、そんなんじゃ仇を討つなんて出来ないぞ? 悔しかったら俺を殺せるくらいには鍛えてみろよ」


 貴族らしくプライドが高そうな彼女だ。せめて復讐に気が向いていれば自殺願望などは抑えられるのでは無いだろうかと考え、ジャクソンは彼女をバカにする様に言い捨てるとそのまま客間を後にした。


 そして案の定、さっきまでの憔悴はどこへやら、「――覚えてなさいっ!!」と激怒した少女の叫び声が辺りに木霊したのだった。



 そんな感じで一段落が着いて自分の部屋に戻ると、ベルがベッドの端にちょこんと座りながら古ぼけた本を読んでいた。別に鍵などを閉めていないので構わないが、彼女はイフリーと相部屋にしている筈なのに最近は気がつけばいつもこの部屋に居る気がする。


「あっ――おいたん、おかえりなさい!」

「おぅ、何を読んでるんだ?」


「神父さんに貸してもらたの。まほうの本なのっ!」


 自分の体格に合わない大きなサイズの本を嬉しそうに見せるベル。その手に持ったいかにも魔術書といった感じの本のタイトルは、現在のこの国の言葉とは随分と違うのか読み取ることが出来ない。


「どれどれ……って、俺には全然読めないぞ。ベルはこんな訳わからない文字が読めるのか?」


 横から内容を覗き見るとアラビア文字の様な文章がギッシリとインクで記載されていたが、俺には一説を読むだけでもギブアップという状態だった。それを見たベルは得意気にそれを読み上げていく。



「うん。ここはね、ときのみち…びきてよ……えと、…なんじみわざをたまわり……しゅく……めいのちに…いざない……ぜつぼうのときより……われをすくいたまえ………だよ?」


「――お前、凄いな!!」


「あのね……同じみたいな本がお家にもあったから、お母さんに教わってたの……えへへ〜」



 なるほど……エレナさんが教えていたのか。


 まだ、辿々しくではあるが、ベルが書かれている内容を読めている事に驚きつつヨシヨシと褒めていると何かに気づいたのかベルは嬉しそうにしていた表情を一転させる。


「――あれっ……イフリーじゃない女の人の匂い……おいたん……ドコ…行ってたの?」


「ん? いや……それはだな………」


「あやしいの……」


 そして、ジトっとした目とふくれっ面で問い正してくるベルに「さっきまで首を絞められてました!」とも言えずにそれから半日程もその事を追求されることとなった……。




 翌日、神父の言っていた通りミリアムは解放されると自分の屋敷へと無事に戻された。また、彼女は解放される際にジャクソン宛ての手紙を神父に預けていたのだが、その内容に思わず苦笑いする。


――アンタは私が必ず殺してやるから、それまで死なずに生きてなさいよね。勝手に死んだら許さないんだからっ!! ミリアム・フォン・バスティーユ――


 という物騒な内容だった。


 風の噂によるとその日からバスティーユ男爵家当主の座を受け継いだミリアムはその権力を使い第3騎士団の団長を更迭すると自らも入団して「殺したい奴がいる」と狂った様に訓練を始めたらしい。


 正直、あぁは言ったものの次に会ったら本当に殺されそうなので、実はもう怖くて近づけなくなったのはここだけの秘密としておくとしよう……

 

32話です! 更新すごく遅くなりましたー申し訳ないです(ノД`)グスン


初期はあまりにも鬱展開になってしまった為、最終的に7回程書き直しするハメとなりました。。


ホント、こういう何気ない繋ぎのお話が一番むずかしいのです……

次回はもっと早く更新したいですわ~


PS

遅くなっても少しづつ続けますので、これからもよろしくです(*´ω`*)ノ

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