FPS episode.27
episode.27――
2014/4/21 クリミナ 冒険者ギルド
それから1ヶ月の間、俺はルーシェに有無を言わせぬ勢いで、次々とハードな依頼を受けさせられた。それは最初は薬草摘みなんていう甘っちょろいものではなく、ベテランの冒険者でも躊躇する様な依頼の数々で、それを毎日の様にこなして行くのだ。
ゲームで言えばレベル1からレベル10や20のクエストをチュートリアルも無く強制的に受けさせられている感じだろう。まさに難易度ベリーハード状態だ……。
「い、依頼完了……し、死ぬかと思ったぞ………」
「あら、もうこなして来たの?。それじゃあ、次の依頼はこの巨大コモドドラゴン退治ね。ランクはAクラス相当になるんだけど、特に問題ないわよね?」
「よっし、任せっ……って、ふざけんなぁー!?」
「ふふ、ゴメンゴメン……嘘よ。これで晴れて本試験ね、Cクラス昇格おめでとう!」
イタズラっ子の様に舌をペロっと出しルーシェは笑う。
「……へっ? ホントに終わったのか!?」
「えぇ。だから、そんな情け無い顔してないの……変わりに私からありがた〜い、Cクラス達成のご褒美をあげちゃうわよ?」
「おっ、マジ? それは期待させて貰おうかな!」
たったの1ヶ月という短期間でCクラス到達という苦難を乗り越えた俺はいつもの様にルーシェの仕事が終わった後に合流すると、その足で連れられたのはいつもと違う豪華なレストランだった。ドラゴンステーキというのが名物らしく、遠慮なくそのコースをウエイターに頼むとルーシェが嬉しそうに話をする。
「でも、ホントに驚いたわ。この短期間だけで本当にCランクにまで上がっちゃうなんて」
「あぁ、それもルーシェのお陰かな……」
「えっ……何でよ? 私なんて、ジャクソンの依頼を選んであげただけじゃない?」
「ルーシェさ。あんだけ無理難題を言いながら、さりげなく俺がこなせる内容かを下調べしててくれただろ?」
「べ、べつに……ジャクソンにだけしてる訳じゃないし……出来るギルドの受付嬢はみんなやってるわ」とは反論するもののルーシェは「えへへ〜」としっぽをフリフリしながら嬉しそうに照れる。
実際、本来は早くても3ヶ月は掛かると言われる冒険者のクラスアップをこの短期間でこれだけ上げることが出来たのは彼女の手助け無しには実現出来なかった。それに加え、首に下げたドッグタグをここに来た時よりも随分と扱えるようになったし、読み書きに至っては時間の合間を縫ってルーシェに教われたので、日常生活レベルにまで上達する事が出来た。彼女から学んでいて思ったのはルーシェが教師としても非常に優秀であるという事だった。
「それより……どう、冒険者の暮らしには慣れた?」
「まぁね。 誰かさんには扱き使われてるけど、感謝しているよ」
「ふふっ、そうそう……もっと感謝しなきゃダメよ?」
ルーシェはクツクツと笑いながらドラゴンステーキを美味しそうに食べる。ちなみにドラゴンというのは本当にドラゴンの肉では無く、ステーキ肉の等級の意味らしい。確かにここのステーキがいつもより高級なモノであるのは、一目見た目でも分かる程だ。
「そういえば、本試験はどんな感じなんだ? って……聞いちゃマズイんだっけ」
「一般に公開されている情報なら問題ないわ。そうねぇ……詳しくは知らないけど、魔物が巣食う森でのサバイバル生活とか、毎回結構な死者が出る程に過酷な試験らしいわよ?」
「サバイバルかぁ……自信ないなぁ〜」
「まぁ、大丈夫よ。ジャクソンはいつも惚けてるけど、やれば出来る子だし!」
「オイオイっ、俺は子供かよ?」
そんな他愛もない話をしながら美味い料理をつついていると一人の見知ったオッサンが、ワインの瓶を片手にこちらへ近づいてくる。最近には随分と世話になり、その顔には俺にもよく見覚えがあった。
「――ようっ、こんな所で逢い引きか?」
「ち、ちがいまっ――て、マスターじゃないですかっ!」
「ハハッ……まぁ飲め、俺の奢りだ!」
「えっと、ありがとう…ございます……」
何時もより異様にテンションの高いマスターはそう言うと、俺のグラスにワインを注ぎながら隣の席に座った。そして、周りには聴こえない程度の小声で俺たちに話を始めた。
「……悪いな、お前達にちょっと用事があってな」
「……用事?」
「あぁ、実はな……先程ギルドに対して、お前を捕らえて寄こせと騎士団が圧力を掛けて来やがった。もちろん、そんな奴は知らぬとシラを切ったが、あの分だと奴らが直接動くのもそう時間は掛からんだろう。 お前さん、一体何をやらかしたんだ」
「そう言われてもな……せいぜいヴァラクーダの収容所から脱獄したくらいかな?」
俺の答えに驚いたのか、ルーシェもマスターも口を開けて驚いた表情を見せるとタメ息を吐いた。
「――まさかっ、あのヴァラクーダから脱獄したのか? どうりで騎士団が騒ぐ筈だ。 あそこは帝国にとって政治的な仇敵を収容する謂わば都合の悪い部分だ……有り体に言えば、お前はこの国にとっての脅威と認識されているってことさ」
「……この国の脅威?」
「そうだ。“異世界人はその存在だけで脅威となり得る”……俺もガキの頃からそう教えられた。つまりお前が悪人であろうと無かろうとそれは関係無いのさ」
「なるほど……ね」
「話を戻すぞジャクソン。おそらくギルド本部からお前のプロフィールが既に騎士団へ渡っている筈だ……。所在地に記載していた場所に戻れば、お前は捕まるか殺されるかの2択になるだろう」
「嘘っ…そんな……私、そんなの知らなくて、そのまま本試験の申込みを………ごめん…なさい」
その話にルーシェは顔を蒼ざめさせ俯くと手を震わせる。彼女自身に落ち度は無いのだが、俺なんかより頭の回りが早い分、責任を感じてしまっているのだろう。
「気にすんなよ、ルーシェ。 俺が気づいておけば良かったんだからさ。それより、あの村には他の仲間が居るんだ。このまま放っては置けない……」
「そうか……なら急ぐんだ。既に騎士団の連中が動いている、すぐに街を出た方が良いだろう」
「そうするよ。 色々とありがとな、マスター!」
「ふん、お前の様な奴をギルドから手放さなければならないのは残念だ……。道中も気をつけろよ、相手は異端者狩りで有名な第3騎士団だ。奴らは異世界人と異教徒に対して、血も涙も無い連中だからな」
「ここ最近で多少は立ち回れる様になったからね……無理はしないさ」
俺は2人に目配せを送るとせっかくの料理を残したまま席を立つ。
「………ゴメンね、ジャクソン。でも、また……戻ってくるよね?」
「……もちろん。この借りは必ず返す、約束さ」
普段のクールな表情は身を潜めルーシェは目に涙を貯めながら複雑そうな表情を浮かべる。そして、唇に柔らかい感触が触れるとそっと彼女は離れ、笑顔に戻った。
「いってらっしゃい……私、待ってるね」
「……あぁ、またな!!」
正直に言えば無事に戻れる保証なんて無い。それでも、いつもと変わらない調子で俺は別れを告げるとそのままクリミナの街を後にして大地達の居るクロネ村へと向かった。この先に想像もしない凄惨な光景を目の当たりにするとも知らずに……。
27話目です! この話でひとまず、ジャクソンの冒険者生活は終了となります。
本当はもうちょい書きたかったのですが、本筋のストーリーから外れてしまうので、次話から駆け足で話が進んでいく予定です。 お楽しみに(*´ω`*)




