FPS episode.26
episode.26――
2014/3/22 カールトンの宿
翌朝、いつもより早く起きてしまった俺は朝から少し身体を動かしていた。そんな姿を見かけたのか、ルーシェが焼き立てのパンのいい香りをさせながら声を掛けてくる。
「おはよう、朝は随分と早いのね?」
「情け無いけど、緊張して全然眠れなくてさ」
「ふふっ、なるほどね!」
ルーシェはそう笑うと洗いたてのタオルを俺に投げてくれた。ミントのいい香りを感じつつ顔を拭いていると彼女は少し言い出しにくそうに口を開く。
「……昨日はゴメンね。首、大丈夫?」
「何回か死にかけたけど、まぁ…なんとかね」
(本当はまだ首の位置がおかしいけど……)
「多分、貴方の事を気に入ったのね。あんなんだけど、 普段はあそこまで騒がない人なのよ?」
「それなら嬉しいけどさ……昨日親父さんが言っていた世話になった冒険者って、どんな人だったんだ?」
昨日は直接聞けなかった質問にルーシェは少し考え込むと、しばらくした後に彼女は少し表情を和らげてゆっくりと話し始めた。
「そうね……ジャクソンになら話をしても良いかな。実は今から10年程前にね、私、人攫いに誘拐された事があるんだ。その人攫いは当時の私みたいな亜人の少女や幼い子供ばかりを誘拐して、裏で貴族に売っていたらしいの」
「奴隷商人っていう奴か……」
「えぇ……小さな子供を狙う分、タチが悪いけどね。ただ、組織化されていて、そのバックには有力な貴族も多く居たと噂されていたわ。だから当時はギルドも安易に手出しが出来ず、攫われた子供の親達は泣き寝入りするしかなかったのよ」
「ひどい話だな……」
「うん……そんな時だったから私が攫われた時も父さんが必死で色んな人に掛け合っても、誰も動かなかったらしいわ。でもね、当時ギルド本部からちょうど異動してきたばかりだったエレナさんは自分の立場が危うくなるのを承知で、その依頼を唯一受けてくれたんだ。そして、彼女の友人だと言う一人の異世界人をこの街に連れて来たの。
彼は“名無しのジャック”なんていう素性もよく分からない人だったんだけど、ギルドでも受けることが出来なかった子供達の救出依頼を彼個人として、請け負ったらしいわ。
誰しも最初はそんな彼に対して半信半疑だったみたいだけど、その翌日。信じられない事に彼はたった一人で人攫いのアジトに乗り込んで組織自体を潰してしまったの。更にどういう訳か、裏で牛耳っていた貴族達も彼に怯えるように手を引いたらしいわ……」
「それ、本当に一人でやったのか?」
「うん……すべて本当の事よ。 だって私、助けてもらった時に彼の戦いをこの目で見たもの。ホントに見惚れちゃうくらい凄かったんだ。その後に色々と縁があってね、ウチの父ともよく交流があったの」
「なるほどな……」
「そして、まだ小さかったけど、そんな彼とエレナさんに憧れて、私も彼女みたいな受付嬢になりたいと思ったんだ」
(まさか、そんな過去があったとは……エレナさん、流石です! それにしてもくそぉ〜、そんなイケメン全開なヒーローが相手じゃ、俺なんか勝負にもならないじゃんか……トホホ………)
「……因みにさ、俺と似てるってホント?」
「う〜ん、うろ覚えだけど確かに似てはいると思う。でも、雰囲気とかは全然違うわね。彼は歴戦の兵士という感じで渋くてカッコ良かったけど、ジャクソンはコックとかの方が似合いそうじゃない?」
「ヘイヘイ……どうせ俺は英雄なんて柄じゃないさ! 」
(正直、情けなくて泣きそうですが……)
「イジケない、イジケない。ジャクソンにはジャクソンの良さがあるわよ? それにもし試験がダメでも、そうね……調理場見習いの口利きでもしてあげよっか?」
「――死んでも受かってみせます!」
「ふふっ、期待してるわね」
ルーシェのお陰でより一層プレッシャーが掛かった俺のお腹はすこぶる調子が悪くなると、その後はしばらくトイレで過ごすハメになった……。
――朝食を済ませ宿を出た後、俺はルーシェの案内を受けてクリミナのギルドマスターと対面した。浅黒い肌に鍛え抜かれた腕と眼光が異様に鋭いオッサンが俺を見定めると意外な程気さくに口を開いた。
「ほぉ~お前がエレナが紹介してきた異世界人か…」
「――よろしく頼みます、オッサン!」
「まったく……礼儀正しいのか、失礼なのか分からん奴だなお前は……」
「ハハッ、よく言われますよ」
そんな雑談をしばししていると、他の受験者達も集まり俺を含めた4人が彼の前に並んだ。
「皆、集まったな。では早速だが試験内容を説明する。内容は簡単だ……オレからこのナイフを取ってみせろ。手段については問わない……常識の範囲でな」
「何だよ、簡単じゃねぇか!」
「俺たちを舐めてんのか!?」
「――そうよ、そうよ!」
他の受験者からそんな野次が飛ぶ中で、俺はそれが言うほど簡単では無い事を悟っていた。今は隠してはいるが、あのオッサンが相当の手練れだという事は俺自信が収容所で培った感で分かる。
「諸君らも知っての通り、今回は事実上の仮試験だ。本ライセンスはCクラス以上にならなければ、登録する事は出来んし、死者も多数出る程に危険なものだ。仮試験も通らない奴を早々に諦めさせるのが、この試験の目的だと先に言っておこう」
今回が仮ライセンスの試験であるとはルーシェから聞いていたが、本試験は死者が出る程に過酷である事は知らなかった。ちょっと自信無くなってきた……。
「では、これより試験を始める。さぁ、来い!」
試験は受付をした順に行われ、受付が遅かった俺は最後となった。最初に受けるのはいかにも駆け出しの冒険者といった風情の剣士だった。
「ヨシ、制限時間は3分……何時でも良いぞ?」
「――おう、やってやるぜ!」
余程の自信があるのか、最初の受験者が前に出るとそのままマスターのオッサンに飛び掛った。
「ヨシっ!これくらい楽勝って――なんだっ!?」
それは早すぎて集中していなければ、気づくことも出来なかっただろう。男がナイフに手を伸ばした時にその軌道をあらかじめ読んだオッサンが、ナイフの位置を僅かにずらし避けたのだ。言えば簡単に聞こえるが、相手の動きを完全に読まなければ出来ない芸当であるのは間違い無い。
(なるほどな……アレは難しいな……)
1人目の男は結局、そのまま指一本さえ触れる事も出来ずに時間切れとなった。その次の拳士と3人目の女性も1人目の男よりは健闘はしたものの、それは変わらずだった。
「――お前が最後だ……掛かってこい」
「じゃあ……遠慮なくいかせてもらうかなっ!」
俺は言葉の通り最初の一手からナイフを取りには行かず、マスターに足払いを掛けた。だが、それは苦も無く回避される。見た目に似合わず、何とも身軽なオッサンだ……。
「ほう、意図は読んだと見えるが……まだ甘いな」
「さぁてね……それはどうかな?」
俺の考えが正しければ、おそらくこの試験の目的は格上の相手に対してどう立ち回り、その目的を達成するかという事だろう。実際の依頼には常に自分が有利な条件で戦えるとは限らない。だから、あのナイフという目的を正攻法以外で取ってみせる必要があるから“手段は問わない”と彼は言ったのだろう。
(なら、先を読ませなければ良いってことさっ!)
もう一度、まったく同じタイミングで俺はスライディングの様な足払いを掛けると先程と同じようにマスターがそれを避ける。
だが、その俺の行動に彼は「何だ、見込み違いか……」とガッカリした様子で詰まらなそうに口を開く。
「どうした、お前の読みはその程度か?」
「――って、思うじゃん?」
「――なんだとっ!」
そして、マスターがナイフを動かす寸前の所で、俺は腰に差したバリスティックナイフの刃を飛ばして、それをナイフの先に当てる。勢い良く弾かれたナイフはそのままこちらの手元に転がり、俺はそれを掴んだ。
「まさか、その様な奇妙なナイフがあるとはな……」
「……手段は問わないんだろ、オッサン?」
「あぁ、そうだ。この試験の趣旨を正しく読んだ様だな……合格だ。先程に言ったが、これはまだ仮試験の様なものだ。これからお前はCクラスを目指す訳だが、実は本試験まで1月も無い。だが、ルーシェ。お前ならコイツを上げることも出来るだろう?」
試験の様子を側で見ていたルーシェに、マスターはそう問い掛けると彼女は自信を得た笑みで答える。
「えぇ、もちろん……でも、相当ハードですよ?」
「だ、そうだが……お前はどうするジャクソン」
「お、お手柔らかに……」
2人のその笑みに何だか嫌な予感を覚えたが、どうせ選択の余地などは無いのだろうと俺はその提案に乗り、地獄のベリーハード難易度となった冒険者生活をスタートさせた。
26話目です。アップが遅れてしまい、申し訳ありませぬぅー!!
今回は猫耳幼女だった頃のルーシェが、ギルドの受付嬢を目指すことになったキッカケのお話でした!(※昨日、入れれなかった部分を新たに追記しました)
実はコレ以外にも色々と要素を書いていたら1話で2話分くらいのボリュームになっており、残りの半分は次話に回しましたとさ (´・ω・)=3
ということで、次話は早めにアップする予定ですΣd(゜∀゜d)




