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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
26/43

FPS episode.25

episode.25――

2014/3/21 クリミナの街


 大地達と別れ村を出た俺は森にある小さな街道を道なりに降り、途中で何度か休みながらも半日でクリミナの街に着くことが出来た。おおよそ1万人程度が生活を営む豊かな街の中央には大きな河が流れており、メインストリートには商店が数多く並び、人々の活気で満ちあふれていた。


「すいませーん。冒険者の登録したいんですけど!」


 街に入りすぐにギルドの場所を聞いた俺は真っ先にその門を叩いた。想像よりも大きな建物には剣とコインと酒のレリーフが掛けられており、中はアットホームな雰囲気のバーを兼ねていて人で賑わっている。


 その中でギルドの受付と思われるカウンターで事務作業をしている頭の上に猫耳が生えている亜人の女の子に俺は声を掛けた。この世界に亜人が居るとは聞いていたが、本物を見るのはこれが初めてで、ちょっと感動したのは内緒だ。


 また、亜人と言っても髪の毛と同じ色の小さな猫耳としっぽが付いている以外には、外観的な違いは特に無く、元の世界でもコスプレだと言われれば気づかれないだろう。むしろナチュラルなチャームポイントして、かなり魅力的と言っていいかもしれない。


(しっかし、エレナさんと言い……この世界の受付嬢は皆、こんな美人ばかりなのか?)


「……冒険者志望の方ですか? では、この書類にお名前と必要情報の記入をお願いします」


「――しょ、書類っ!?」


 そう、皆に言葉が通じるからすっかり忘れていたが、俺はこの世界の文字は読み書き出来ない。つまり、こういった書面での手続きさえもする事が出来なかったのだ。これはどうしたものか……


「あの……どうされたんですか?」

「えっとさ、実は読み書きが出来ないんだ……」


「えっ?」と少し驚いた表情で彼女は眼鏡を掛けたちょっとクールな印象の猫目で、俺の様相をマジマジと見定めると困った様子で口を開く。

 

「アナタ……もしかして、異世界の人?」


「あぁ、異世界人でも冒険者になれると聞いて来たんだけど、ダメなのかな?」


「いえ、異世界人でも冒険者にはなれますけど、最低限の読み書きが出来ない場合は登録が難しくて……」


「マジか!どうしよ、他に行く宛なんて無いんだが……」


「弱ったなぁ……」とボヤく受付嬢に俺もどうしたものかと考えて、とりあえずエレナさんが書いてくれた紹介状を渡してみることにした。すると彼女はそれを受け取り封を開け内容を見ると何かに驚いたのか、しっぽをピンっと逆立たせて、その表情を一変させる。


「嘘……コレって、エレナさんの紹介状じゃない!!」

「うん、彼女には色々とお世話になってね。それで、その紹介状を貰ったんだよ」


「ちょっと、こういうのは先に出しなさいよね!?」

「あ、あぁ……悪かったよ」


(アレ? 何か紹介状を見せたら、いきなり雰囲気が変わったな……)



「君、エレナさんを知っているのかい?」


「知っているも何も……ギルドで彼女を知らない者なんて居ないわ。彼女は数々の優秀な冒険者を排出した伝説の受付嬢で、私の憧れの人でもあるのよ!」


(伝説って……そんなに凄かったんだ。エレナさん、流石です!)


「それにしても貴方がねぇ……本来なら代筆はしないんだけど、彼女の推薦なら私が特別に書いてあげるわ」

「――え、良いのか?」


 彼女はそれに頷くと書類の記載内容を読み上げてゆき、俺はそれに1つずつ答えていく。その内容は主に名前や現在の所在地や特技・職歴等、まるで履歴書の様な感じで自分で書いたとしても大変な量だった。それを時たま猫耳をフリフリと動かしながら慣れた様子でスラスラと書いていく姿が何とも愛らしい。


「……ふぅ、これでOKね。申請が通れば、明日にはライセンス試験になるわ」


「ありがとう、助かったよ! そういえば君の名前、まだ聞いてなかったね」


「私? ルーシェ・カールトンよ。ルーシェで良いわ。それよりジャクソン、もう宿は決まってるの?」


「いや、まだ全然だ。クリミナに来てから、真っ先にここへ来たからね。出来ればあんまりお金が無いから安く収めたいんだけど、この辺でオススメの宿とかはあるかい?」


「ふふ、やっぱりね! なら、私もう直ぐ仕事が終わるから後で案内するわ。うちの家、宿をやってるのよ」


 俺はルーシェのその提案を受けるとバーのカウンターに座って、この街の名産だという少し高いクリミナの天然水(河の水)を大事にチビチビと飲みながら、彼女の仕事が終わるのを待った。


「――ゴメンね、お待たせっ!」

「全然。それよりも悪いな、案内までさせちゃって」


「気にしないで、こっちが好き勝手にやっているだけだもの」


 仕事を終えたルーシェに声を掛けられマスターにお代を払い席を立つと、俺たちの様子に気づいたルーシェの同僚と思われる男女がこちらに声を掛けてきた。


「おっ、何だよルーシェちゃん、ソイツ彼氏か?」

「あ! その人、確か今日来た冒険者志望の人よね?」


「ち、違うってっ! ウチの宿のお客さんなんだから!?」


 ルーシェは耳を真っ赤にしながら俺の手を引っ張るとそのままギルドの外に連れ出した。


「さぁ、面倒くさいのが集まる前に行くわよ!」

「あ、ちょっとオイ……」


 彼女に強引に手を引かれながら着いたのは、ちょっとした屋敷の様に大きな木造の宿だった。元の世界でもこんな宿に泊まったら、数万円では済まない金額になるだろう。


「なぁ、ルーシェ……俺、ホントお金無いよ?」

「300ディールあるんでしょ? ウチは冒険者割引が効くから、そんな心配しなくても大丈夫よ」


 そういうと彼女は気にする様子も無く、大きな扉を開けると宿の中に俺を招き入れた。


 因みに“ディール”と言うのはこの国の通貨だが、300ディールは日本円に換算すると3万円程になる。教会を出る際に旅の資金として神父に渡されたのだが、職ナシの俺には目下の所この資金が命綱だ。


「いらっしゃいませ! ようこそカールトンへ……って、ルーシェ姉さんじゃない。その(かた)は?」


 宿の中に入ると広いロビーで出迎えてくれたのは、クラシックな白と黒のメイド服を着た可愛らしい少女だった。確かにその猫耳や鼻の特徴がルーシェに似ている気はするが、姉妹だろうか?


「彼、明日ライセンス試験なの、適当な空いてる部屋に案内してあげてちょうだい。チェックインは私が済ませておくわ」


「まぁ! 私はルーシェの妹でアリアと言います。では、お部屋にご案内しますね。えっと……」


「ジャクソンだ。よろしく頼むよ、アリアちゃん!」

「はい、よろしくお願いします!」


 ペコっと頭を下げる猫耳のメイドさんに癒やされていると、それをルーシェがジトっとした目でこちらを睨んでくる。


「もぅ、私の時とは随分とリアクションが違うじゃない?」

「まぁね。美人と可愛い子とは別腹って言うだろ?」


「う~ん、何かはぐらかされた気がするけど……まぁ、良いわ。 食事の時間になったら声を掛けるから、それまではしばらく部屋で休んでてちょうだい」


「あぁ、頼むよ!」


 そうしてルーシェと別れるとアリアちゃんに案内された部屋で、俺はその素晴らしさに歓喜した。窓辺からは街を象徴するクリミナ河が一面に広がっており、どう見ても貧乏冒険者が止まるような所では無い。


「あのさ……コレって、何かの間違いとかじゃないよね?」

「ふふっ…今日"偶々空いている部屋"なので、間違いありませんよ」


 その反応が面白かったのか妹ちゃんはクスっと笑うと「明日の試験の為に今日はゆっくりなさってくださいね」と可愛い応援をしてロビーに戻って行った。最高の景色に最高のメイドを揃えたこの宿は、ある意味で完璧と言っても良いだろう。異世界恐るべし……俺はそんな事を一人で語りながら、半日以上歩いた疲れを癒やす為に一時の幸せな眠りについた。




――コンコンコン!!


「……ジャクソン起きてる? 夕飯が出来てるわよ」

「あぁ、ちょっとウトウトしてた。今行く!」


 ルーシェの声で起こされた俺は自分の頬を叩き目を覚まして扉を開ける。すると先程のアリアちゃんと同じ宿のメイド服姿に着替えた彼女が居た。その姿はさしずめメイド長と言った感じだろうか。


「ほぉ……メイド服も似合うな、ルーシェ?」

「へ? ち、ちょっと何言ってるのよ! 忙しい時間だから手伝ってただけだし……でも、ありがとう」


 少し照れているルーシェに連れられ一階にあるダイニングに行くと、さながら老舗のレストランと言った感じの雰囲気だった。だが、一足遅かったのか既に皆が先に食事を終え、食後のお茶に舌鼓をうっていた。


「ゴメンね。混雑してると料理の取り方も説明も出来ないから、空いたタイミングで声掛けたの。こうやって、好きな物をお皿に取って食べるのよ!」


「いや、逆に助かるよ。それにしても……この世界でもバイキングがあるんだね?」


 パスタやサラダにハンバーグなど、大皿に盛られた色とりどりの料理がテーブルに並べられており、自分で好きな物を好きなだけ皿に取って食べる事が出来た。また、不思議な事にその姿形はどれも元に居た世界の料理とそうは変わらない感じだった。


 ルーシェはいくつかの皿にひと通りの料理を取ると空いている席に俺を座らせて、向かいに座る。


「そっか……ジャクソンは異世界人だもんね。元々このバイキングのアイディアは異世界から来た冒険者が考えたものなの。こんなパーティみたいな料理と出し方するのは世界でもウチの宿だけでね、おかげさまでもう10年連続で“帝国で泊まりたい宿 No.1”なのよ?」


(なるほど、猫耳メイドにコレだけの美味い料理とは……確かに納得だな)


「えっ、何か言った?」

「いや、別に……」


「それよりさっ!エレナさんの事をもっと教えっ――」



――ガシャン!!


「ここ席空いてるか? いや、空いてるな! じゃあ、オレも一緒させて貰おうか!」


「ちょ、ちょっと……何の用なのよ!」


 突如、俺の隣の席に中年の大男が座り込んでくると、それを見たルーシェがあからさまに嫌そうな顔をその男に向けた。


「いや、オレの“大切な娘”にちょっかいを出す輩が見えたもんでな。少し話でもしてみようと……って、お前……以前にオレとどこかで会ったことは無いか?」


(“オレの大切な娘”?なるほど、そういう事か。それよりも会ったこと無いかと言われても……)


「いや、“お父さん”には会ったこと無いですよ?」

「“お父さん”……だと? 貴様に“お父さん”と呼ばれる筋合いはないわぁーー!?」


「ぬギャーーー!!」


 突然、ヘッドロックを完全に決められて、俺はギブギブ!とその太い腕を必死に叩く。


「ちょ! 止めてよ、このバカ親父っ!」とルーシェがそれに慌てて止めに入り、俺はあの世に逝く寸前の所で解放される。そして、親父さんは烈火の如く自分の娘に絞られるとイジけた様に口を尖らせる。


「……何だ、そういう事は最初にちゃんと言いやがれ!」

「言う前に手を出したでしょうが……」


「ア、アハハ………」


 その光景に苦笑しながら俺は親父さんから少し離れる。あんな、プロレスラーも真っ青な絞め技は、1度喰らえばで十分だからな……。


「……それにしても、本当に知らないのか?」

「はい。そもそも俺、最近この世界に来たばかりで、この街にも初めて来たんですから」


「そうか……変な事を聞いちまって悪かったな」


 余程、俺に似た人間でも居たのか親父さんは残念そうにスキンヘッドの頭を掻く。どうやら昔に世話になった冒険者に俺がよく似ていたらしい。まぁ、西洋人は東洋人の顔の見分けが付かないと言うし、おそらくは他人の空似というやつだろう。


「それよりジャクソンはね、あのエレナさんの紹介でギルドに来たのよ。凄いでしょ?」

「ほぉ……それは凄いが、あまり強そうは見えんな……」


 親父さんはこんなヘタレ野郎がねぇ……といった感じで俺を繁々と見る。だが、この親父さんでさえそう言うという事は恐らくは余程の事なのだろう。


「なぁ。エレナさんの紹介って、そんなに凄いのか?」


「えぇ、有名な話よ。だって、彼女がギルドに紹介した冒険者は一人の例外も無くSクラス以上になっているの。因みにSクラスの実力は一般的には歴史上の英雄と同程度と言われているわ」


「マジ? そ、そんなに凄いんだ………」

「……うん、正直に言うとね。あれこれしてあげてるのも、ジャクソンがこれからSクラスの冒険者になる可能性が高いかもと私が勝手に思ってるからなんだ……私の事、軽蔑するかな?」


「いや、気にしないでくれ。読み書きも出来ない俺がこうやっていられるのも君のお陰なんだしさ。でも、出世払いとかが出来なくても恨みっこナシだぞ?」


「ありがとう……そう言ってくれると助かる。明日の試験の内容は教えられないけど、私も出来るだけジャクソンの事をサポートするね!」


 その返答が嬉しかったのか、ルーシェは先程までとは違う屈託の無い笑顔を見せてくれた。


「この野郎、随分と男気がある事を言うじゃねぇか! 気に入ったぜ、坊主っ!」


「ぐぎぎ……だからって、首を締めないでぇ〜!」


 その後も時折、親父さんにヘッドロックを食らいながら、そんな賑やかな晩餐を過ごした。

 


25話目です! 今回からいよいよ、冒険者ギルドでのお話ですよ!?


今までファンタジー分が足りなかったので、急速に補給していきます(*゜ロ゜)

猫耳にメイドはファンタジーのお約束ですよね?え、違う?知りませんw


次回はいよいよ冒険者のライセンス試験ですので、お楽しみあれ(*´ω`*)



PS

先週、遅くなってしまったので、今週はアップを前倒ししましたΣd(゜∀゜d)

ブクマもありがとうございます。FPSは皆さんのお陰で成り立っています!

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