FPS episode.24
episode.24――
2014/3/19 世界教の教会広間
「――よくぞお出でになりました。収容所での生活は大変だったでしょう。今日はゆるりとお休みなさい」
教会の神父だというトーマス・ライアーという男は1ケ月以上の収容所生活で疲弊した俺たちを温かい食事と柔らかなベッドで向かい入れてくれた。こんな当たり前のことを酷く懐かしく幸せに感じながら、俺はようやく得た自由をベッドでゴロゴロしながら噛み締めた。
――翌朝。俺たちは教会のシスターが用意してくれた朝食を取りながら、この世界の事についてトーマスに訪ねた。右も左も分からない状態の俺たちに何より必要なのは今、情報だったからだ。
すると彼は自身の身の上のことを話しながら順々に説明してくれた。驚いたことに彼も7年前にこの異世界へ召喚され、俺たちと同じように帝国に捕まっていたらしい。当時はまだ戦時中だった為、今よりも酷い状況の中で家畜の様に扱われていた所を世界教という教団に救われたそうだ。
それ以来、彼はその教団に所属して、この世界に召喚された同胞の手助けをしているらしい。教団には他にも同郷の人間が多数所属していて、人々に圧政を敷く帝国の侵略からこの地域を守っているそうだ。
しかし、まだまだ人手が足りない状態の為、彼は俺たちに力を貸して欲しいと提案してきた。
「――どうでしょう。悪い条件では無いと思うのですが」
彼の話では元の世界に帰る方法については基礎研究が既に完成していて、帰れる日もそうは遠くは無いそうだ。しかし、そういった研究を良しとしない帝国に教団の関係者は次々と殺されており、それに贖う人間を日々集めているらしい。危険はあるものの元の世界に帰るまでの衣食住を保証してくれるというのは、決して悪い話では無い。
「……確かに悪くないね。でも、俺は辞めておくよ」
だが、皆が同意する中で一人、俺はその提案を断った。
「――ジャクソン。貴様、何故なのだっ!」
マクベスはその答えに驚き声を上げる。
「何故も何も、俺には戦う理由がない……」
「――理由が無いだと? フン、この臆病者めっ!」
そう言うとマクベスは席を立ち、自分の部屋に戻ってしまった。正直、奴が俺の事であんなに怒るとは思っていなかったのだが、たとえ臆病者と言われようとも、夢を果たして代わりに全てを失った俺には危険を冒してまで元の世界に帰る理由が、残念ながら見当たらない。
そんな中途半端な奴が正義の味方を気取るのも違う気がするし、例え知らない場所だとしてもこの世界で細々と第二の人生を歩むのもそうは悪くは無いだろう。それに何事も臆病なくらいがちょうど良いって言うしね……。
場が静まる中で唯一難しそうな表情を浮かべていた大地が一間開けて、ゆっくりと口を開いた。
「悪いなジャクソン……オレはこのまま残るわ。こんな状況でもオレは元の世界に帰りたいんだ。それに帝国のやり方も気に食わんしな」
大地は申し訳無いと頭を掻きそう謝る。
「謝るなよ、大地。別にこれが今生の別れって訳じゃないんだ」
「……そやな。お前が居ないとイマイチ盛り上がらんけど、それはまぁ…我慢するさ」
「オイオイ……俺はコメディアンか?」
大地はニっと笑い、俺はそれに同じように返す。こんな他愛もないやりとりが出来なくなるのは惜しいが、俺には俺の人生がある。それに大地だったら、マクベス達とも上手くやるだろう。
「……残念ですね。では、せめて旅の支度くらいは私共でさせて頂きましょう」
「助かるよ、神父さん。お礼を返せないのが残念だ」
「いえ、これもサーヴェイン様の思召しですから」
これ以上は俺の意見が変わらないと悟ったのか、トーマスはそう申し出るとさっそく準備に取り掛かる。この世界にも良い人も居るもんだと関心に浸った。
最終的に他のメンバーは教団に残ることになり、俺は旅の支度が出来るまで教会に滞在する事になった。大地とマクベスは新たな部隊を作る為に日々トーマスと打ち合わせを重ねる中、暇を持て余した俺は教会から少し離れた場所にある小さな村を1人散歩していた。
「しっかし、この風景だけ見てるとここが異世界だと思えないな……」
「おぅ、兄ちゃん教会に来た異世界人だな。何も無い村だが、ゆっくりしてけや!」
「あ、え~と、はい……ありがとうございます」
収容所で着けられたドッグタグの自動翻訳機能のお陰で、村人達は言葉の壁も無く俺を気軽に迎え入れてくれた。どうやらここの村の人は皆世界教の信者であるらしく、あの神父から俺たちの事を聞いていた為というのもあるだろう。観光気分で村の雑貨屋や鍛冶屋などを見て歩き、中世にトリップした様な情景を堪能していると、気がつけば既に昼を過ぎていた。
「腹減ったなぁ……朝、あまり食えなかったから、まだ残ってると良いんだが……」
俺は空腹を覚え居候先の教会に戻ろうと村に隣接する深い森の中に入る。森には教会にまで繋がる細い一本道で繋がれていて、迷うことは無いが問題は昼食が残っているかだ。森を抜ける為に足早に進んでいると入って少しの所で突如、人の叫び声が木霊した。
「キャーーー!!」
何事だと声のする方向へ向かうと森の茂みの中に小学生くらいの兄妹が何か騒いでいるのを見つけた。俺は声を掛けようと脚を進めるが、兄妹の前には大人と同じ位の体長がある巨大な野犬が今にも飛びかかりそうにしていた。
「――ガァルルル……」
「く、くるなよ……この野郎っ!」
「あちいって!!」
幼い妹を後ろに隠し兄と思われる少年が必死に木の棒で威嚇しているが、野犬はそれに動ずることもなくゆっくりと間合いを詰めてゆくと一気に飛び掛かった。俺は護身用に持っていたバリスティックナイフを咄嗟に握りしめると離れた場所から野犬に狙いを付ける。
(――この距離で、間に合うかっ!)
距離減衰を意識し角度を調整すると俺は飛び出し式のギミックを作動させる。するとナイフの刃は柄から勢い良く飛び出し野犬に突き刺さった。
――ギャャウンッ!!
野犬は血を流しピクピクと身体を痙攣させながら横に倒れる。まぐれ当たりではあったもののナイフの刃は野犬の首元を上手く捉え即死させていた。
「――だ、だれっ!!」
「おっと、警戒しないでくれ。俺は偶々通りかかっただけさ。2人ともケガは無いか?」
俺は尻餅をついた幼い兄妹に手を差し伸べると2人は泣きベソを掻きながらその手を取った。
「う、うん。ありがとう、僕もうダメかと思った……」
「おいたん、あいがと〜!」
「おう! って、誰が“おいたん”じゃい!こう見えてもまだ20代なんだから、お兄さんと呼びなさい!それよりお前らこんな所で何やってたんだ?」
無邪気にお礼を返す兄妹に質問を返しながら、俺は野犬に刺さったナイフの刃を引き抜く。変えがないから、本来なら消耗品であってもここでは貴重品だ。血を丁寧に刃を柄に戻していると、警戒を解いた少年がようやくこちらの問いに答えた。
「えっと……この辺りに生えるキノコを取ってたんだけど、突然この犬に襲われたんだ。いつもはこんな所に野犬なんて出ないから、僕たちも驚いちゃって……」
「なるほど、そりゃ災難だったな。だが、何事にも例外はあるもんだ。次は気をつけろよ!」
「うん。それより、兄ちゃんもしかして異世界人?」
「んっ……あぁ、そうだけど?」
「その飛び出す変なナイフ、凄いね!」
「変なのって、言うな!まぁ、珍しいナイフだから、そう言われてもしょうがないか……」
「ねぇねぇ、兄ちゃん。お礼したいから家に来てよ!もっと異世界の話を聞かせて欲しいんだ!」
「あたぃも、きぃたあ〜い!」
「ちょ、オイオイ……引っ張んなって!」
兄妹はキャッキャと騒ぎながら、俺の袖をグイグイと引っ張りそのまま彼らの家に連れて行かれてしまった。村の外れにあるその家はまるで童話に出てくるお菓子の家の様な小さく可愛らしい家だった。
「母さん、ただいまぁー!」
「たぁいまー!」
「もう、あなた達、遅かったじゃない! 心配したのよ!」
その家の扉を兄妹が開けるとそれを迎い入れたのは、グラマラスで赤髪が印象的な随分と美人な彼らの母親だった。
「ごめん母さん、僕達さっき森で野犬に襲わたんだ。でもね、そこの兄ちゃんが危ないところを助けてくれて……ホント凄かったんだ!」
「たぁけてくれたのー!」
「えーと、どうも。ジャクソンです……」
まるでヒーローを紹介する様に大袈裟に話す兄妹に俺は苦笑しながら挨拶すると、彼女は子供たちのヒーローに深々と頭を下げた。
「子供達を助けて頂き、本当にありがとうございございました。何とお礼をしたら良いか……」
「いえ、当然の事をしたまでですよ。お気にっ――」
――ぐぎゅるるるる………
「……あの、よろしければ何か召し上がります? ちょうど昼食の準備をしていましたの」
「アハハ……すみません………」
そんな何とも格好付かない俺を彼女達はクスクスと笑いながら家に招いてくれた。そして、空腹にしみる手作りのシチューと美味しいパンをご馳走になりながら、束の間の談話を咲かせる。兄妹の名前は兄がマークで妹がベル。そして、俺の好みどストライクな美人がエレナさんだ。彼女の旦那さんは先の帝国との戦争で亡くなったらしく、今は2人の子供を女手ひとつで育てているそうだ。
「まぁ!これからお仕事を探すんですか?」
「そうなんです……正直、教会から出ると言い出したものの何も分からない状態でして……」
「なるほど……なら、冒険者などはいかがです?ライセンスは必要になりますが、この世界で生活をするのに色々と優遇されますよ。よければギルドに昔の知り合いが居るので、私から紹介状を書きますけど」
「えっ、良いんですか!」
「えぇ勿論です。本当でしたらちゃんとしたお礼をしたいのですが……」
「十分ですよ、ありがとうございます!」
これからどうしたら良いのか分からなかった俺にはそれは願ってもない申し出であった。二つ返事で彼女にお願いすると慣れた手つきで紹介状を書きながら、冒険者についても色々と教えてくれた。
また、彼女が冒険者に詳しいのは若い頃にギルドの受付嬢をしていたらしく、その時の杵柄だそうだ。
兄妹の父親である旦那さんともギルドで知り合ったらしく、俺はあと10年程前にここに来れていれば、こんな美人さんとお知り合いになれたのか……と落胆しながら聞き入る。彼女の話ではこの世界の冒険者とはギルドに所属するエージェントの事を言うらしい。その内容は傭兵稼業からおつかいまで、何でもござれの様で、現代で例えるとすぐに仕事を紹介出来るハローワークの様な所と俺は理解した。
「森を抜けたクリミナの街に行けばそこのギルドで受付してくれる筈です。最初に簡単な試験はありますが、ジャクソンさんなら大丈夫だと思いますよ!」
「兄ちゃんなら、絶対大丈夫だよ!」
「おいたん、ガンバえー!」
「はい! ……って、だからおいたんじゃねぇからっ!」
そんな嬉しい励ましを貰い日も暮れた頃になってから、やっとこさ教会へ戻ると善は急げと俺は早々に支度を済ませた。そして、この村を発つことを皆に伝えるとそんな安易なプランで大丈夫か?と心配されたが、既に気持ちを固めた俺にはそんな不安などは些細な事であった。
(エレナさん、見ててください! 俺、冒険者になってがんばりますんでっ!)
例えそれが、色恋にうつつを抜かしていた結果だとしても……。
――その翌日、用意して貰ったボクサーバッグの様な大きな袋を肩に担ぎ、俺は教会の扉に手をかける。
「――じゃあな、みんなっ!」
「ジャクソンも気をつけてな……もし行く場所が無くなったら、何時でも出戻りしてかまへん」
「フン……臆病者には本来席は無いが、お前は恩人だ……我が部隊“ヘイト”に迎い入れてやろう」
大地とマクベスとこれまで共にしてきたメンバーは旅立つ俺をそんな風に送り出してくれた。彼らは教団内で活動する為の新たに作った部隊“ヘイト”として、準備を進めていた。既に部外者の俺には関係無いが部隊の名前についてはマクベスがゴリ押しで決めたらしい。本人に聞いても否定はしていたが、やっぱりコイツが“Mr,Dirty”なのではないだろうか……と思ったがそれ以上は聞くことをしなかった。
「あぁ、みんなの活躍も期待してるぜ!」
俺は皆に向けガッツポーズを返すといざ、冒険者となるべく1人クリミナの街を目指し教会を後にした。
24話目です!今回は教団最強の部隊発足のお話をでした(*´ω`*)
冒険者ギルドとか異世界ファンタジーもののお約束を入れてみましたが、
実はすぐに終わります(笑) 次回、お楽しみください(・ω・)ノ
PS
更新遅れて申し訳ない!でも、頑張って続けますよΣd(゜∀゜d)




