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FPS  作者: N19
第2章 ダークファンタジー編
22/43

FPS episode.21

episode.21――

2014/8/19 帝国第9騎士団本部 医務室


「ほらっ、じっとしてなさ~い!」


 白衣の天使たちに怒られながら自分のベッドから逃げ出そうとするジャクソン。しかし、彼女たちの数の暴力によって捕まると3人掛かりでねじ伏せられ、大の男が尻を向けて四つん這いにされてしまう。


「いや、だからってコレは、アッーー!?」


 そして、その抵抗虚しくジャクソンの肛門にブスリと内視鏡が突き刺さった。



――あの事件から1週間後、ジャクソンはウィルスに感染した被験者として、マリーネさん率いる帝国医師団に身体の隅々まで精密検査をされていた。幸いにもジャクソンはワクチンのお陰でゾンビ化を間逃れはしたものの、ゾンビ化ウィルスの対抗手段確保の為に様々な実験が繰り返されていた。


 自身もワクチンの必要性を重要と考えていたジャクソンは特に抵抗もせずに騎士団の研究施設に入ったのだが、監禁される際の条件に「色々されるなら、美女で無けりゃゴメンだね!」と言ったら、本当に美人な女医やナースばかりだった所にキャスターの気遣いを感じた。


 だが、現実は非情で彼女たちによる遠慮の無い実験の数々によって、ジャクソンは日々羞恥と消耗に晒されていた。何故なら担当してくれる全員が美人なのは良いのだが、なぜかみんなドSだったからだ……。



 それから1週間、彼女たちによる天国の様な地獄のモルモット生活を無事に過ごしたジャクソンは、いよいよワクチンが完成したという報告を受けて、マリーネさんによる最終診断を受けていた。


「うん。左腕の一部にはまだ違和感があるだろうけど、特に問題無さそうだね」


「よ、良かった……やっと終わるんですか?」


 ようやく開放されることに涙目で喜ぶジャクソンにマリーネさんは苦笑する。


「最終決定はキャスターがするけど、まぁ大丈夫じゃないかな。それに君のおかげでこうやって、ワクチンも出来たからね♪」


 アタッシュケースの中から小さな瓶を取り出すとマリーネさんは嬉しそうに「どう?どう?」とにじり寄って見せてくる。だが、ワクチンよりもその先にたゆたう豊満な2つの丘の前にジャクソンの視線は自然とそちらに釘付けとされてしまう。マリーネさんはやっぱり素晴らしい女神様(ヴィーナス)です。


「って、こらこらっ……そっちじゃなぁい!」

「――ハッ!俺としたことが、ついっ!?」


「もぅ……君はホントにお子様だなぁ~」


 出来の悪い生徒を見る様にマリーネさんは笑うと「ほら、こっち!」とジャクソンの顔にペチペチと当ててきた。気を取り直して完成したワクチンに再び目を向けると以前にシャーリーが作った赤色のワクチンとは違う青色をしていた。あの時のとは別の種類なのだろうか?


「……えーと、色が……違う?」


「そう、これは血液から精製した後に不純物を取り除いたモノなんだけど、君の証言にあったワクチンは血液そのものだよ。恐らく自分を被験体にして急造でワクチンを精製したんだと思うけど、感染のリスクを負ってまでワクチンを作るなんてのは医者としてはタブーなんだよね」


「……また彼女への借りが増えてしまったかもしれません」


「そうかもね、でもそういう犠牲のお陰で後の世の人間が救われるんだよ。それは無駄なんかじゃないわ」とマリーネさんは珍しくシリアスに答え、ジャクソンもそれに頷いた。その後、しばらく診察は続いたがジャクソンが背中を見せている時に、ふとマリーネさんの手が止まる。



「……どうしたんです、俺の背中に何かありました?」


「ふむぅ。前にも聞いたけどさ……。君、まだ本気出せて無いでしょ」


「えっ、いや……そんな事ないですよ。でもマリーネさんは何でそう思うんです?」


「こう見えて医者として色んな人間の身体を診てきたからね。見ればその人間がどういう職業なのかとか、どういう経験を積んできたのかは大体わかるんだよ」


 鏡越しに見える彼女の表情は全てお見通しと言わんばかりにジャクソンをじっと見つめている。正直、マリーネさんみたいな美女に直視されるのはキツイので、ここは誤魔化す事としよう…。


「今が俺の実力なんです。昔にそれが過大に騒がれただけですって」


「ふふふ……まぁ、今はそういうことにしておくね」と、マリーネさんは見透かす様な目で笑う。


「ア、アハハ……」


 彼女には色々とバレてるかも……思いつつジャクソンはそれを笑って誤魔化した。何故ならばマリーネさんの言う通りジャクソンは騎士団に入る前のポテンシャルはまだ出せていない。それにはとある事情があるのだが、そんな個人的な問題は彼女に話す必要は無いだろう。




――翌日。多少の制限は付きでジャクソンは無事に帰宅することを許されたのだが、久しぶりに帰った我が家は目も当てられない状況となっていた。多少の覚悟をしていたもののコレは酷い……。


「なぜ、1週間でこうなる………」


 家に帰って早々の任務は家中の掃除からとなった。


 ジャクソンはこんなに散らかし放題で外出中の同居人に毒を吐きながら、手慣れた様子で屋敷を隅々まで片付けていく。放置ができない自分の性格が恨めしいと思いつつ夢中で進めていると、ちょうどテーブルの下を片付けていた所で「あーっ!」という声と共に誰かに思いっきりタックルを食らった。


 ジャクソンは結構いい勢いで、ゴンッと椅子に鼻をブツけたが、こんな事をするのはひとりしか居ない。


「――くらっ!何すんだっ!!」


 鼻を抑えながら後ろに振り向くとクレアが、猫の様にじゃれついて来た。未だにクリフには戻れていない様子だが、またいびられないだけマシだろう。その後ろには一緒に帰ってきたルイも居ただが、クレアとは対照的に不機嫌そうな表情をしていた。その手には大量に食料が入った紙袋も持っている。


「ジャクソン。おかえりーーっ!?」

「まったく……先に帰るなら、連絡くらい寄越しなさい」


「……すまない。帰れるのが嬉しくて、忘れてたよ」


「ハァ……せっかく今日は外で食べる予定だったのに誰かさんのせいでキャンセルよ。しょうがないから、適当に食べるものを買ってきたわ」


 不貞腐れた様子のルイだったが、綺麗に片付いた部屋に気づくとその気分も少し晴れた様だ。


「へぇ……随分と片付いたじゃない」

「まぁね。ところでたった1週間で、あんなに散らかった理由を教えてくれるかい?」


 と一転して、今度は反撃に転じるジャクソンにルイは誤魔化すように目を逸らす。


「うっ、それは……クレアが………」

「えーっ!クレアだけじゃないもーん!?」


 お互いに罪を擦り付け合う生活破綻者2名はまったく悪びれる様子が無く、これは嫁の貰い手が大変そうだ……とジャクソンは深くため息をついた。


 そして、その日はルイとクレアが買い込んできた、出来合いのオードブルに囲まれて、ジャクソンの帰還祝いという小さな晩餐会が夜遅くまで行われた。




――習慣というものは怖いもので、翌朝はいつも通り目覚めてしまった。来週までジャクソンは非番扱いの為、こんな早朝に起きる必要は無かったのだが、気がつけばキッチンでいつも通り朝食を作っている。


「あれ、醤油が切れてるや……」


 まだ1週間前には潤沢にあった筈の貴重な醤油が無くなっていた。急遽、だし巻き卵から甘い玉子焼きに変更しながらその要因について推理を始めるジャクソン。そして、状況証拠から出した答えは恐らくクレアだろうという結論に至った。


 何故なら前科があるからな……



「わー、今日はジャクソンの朝ごはんだぁ~!」


 噂をすれば何とやら……その容疑者が自らこちらに姿を表し、朝の獲物を見つけて目を光らせている。


「おはよう。なぁクレア、醤油を知らないか?」

「えっ、えーと。もう食べちゃった。えへへ…」


 まだ1リットル近くはあった醤油を数日で使える筈もなく、明らかに嘘であるのは分かったが無邪気なその笑顔にジャクソンも毒気を抜かれてしまう。だが、お仕置きは必要だろう。


「ほぉ〜、嘘を言うのはこの口かい?」

「ふぅあぅ……ごめにゃンなひゃい……」


 仕方ないと嘘を吐いたクレアの頬っぺたをギュッとジャクソンは引っ張ると彼女はすぐに降参に至った。まったく……自分でも甘いなとは思う。


「ヨシ!今日は非番だから後で買い足しに行くけど、クレアも一緒にいくか?」


「――うんっ!」


 相変わらず寝起きの悪いルイを起こし朝食を済ませて送り出したジャクソンは、約束通りクレアと共に首都アルダートの歓楽街にある市場を目指した。住んでいる貴族街からは比較的に近い場所にあり、移動はもっぱら徒歩になる。アルダートの市街は城下町でもあり、その情緒あるレンガ造りの街並みは差ながら中世のパリを思わせる。


 また、歓楽街のメイン街道は街を象徴する時計塔から放射状に8つに別れていて、市場はその2つ目の街道のあった。そして、ジャクソンが行きつけにしている異世界物を専門に扱っている謎の店はそこから更に奥まった路地にあるが、一見してそこが何の店なのかが分からない隠れ家の様な所だった。


 ジャクソン自身もこの街に来たばかりの頃、道に迷って道を聞くために偶々入ったのがこの店だった。それ以来、度々来るようになったのだが、クレアを連れて来たのはそういえば初めてかも知れない。


「……ここに入るの?」


 店の前に着くと案の定、クレアが不安そうにジャクソンの袖を掴んで、身体を寄せて来る。


「あぁ、見た目は怪しい店だけど、色々な物があって楽しいぞ?」

「だってぇ…何かお化け出そうなんだもん」


 クレアの率直な感想にジャクソンは笑うと先導して気にすることなく店の扉を開ける。


「あー、まってよーっ!」


 それにつられたクレアもジャクソンの背中に隠れる様に店内を覗く。店の中は本当に色々な物があった。その様子は中世のドン◯ホーテを彷彿とさせる程、元居た世界の雑貨や調味料などで溢れている。


「ラジーヴ、居るかい?」


 ジャクソンは慣れた様子で店内を進むと荷物で埋もれたカウンターから、頭にターバンを巻いたこの店の店主が顔を出した。彼はラジーヴと言って、ジャクソンと同じ元の世界の人間だ。出身はインドのムンバイだと以前に聞いていたが、謎の輸入ルートで色々な物を店に揃えている。


 見た目は怪しいが気さくな人柄で、この異世界でも上手く商売をしているらしい。


「オー、坊主。しばらく見なかったな!今日は可愛いお嬢ちゃんを連れてデートかい?」


「まぁ、色々と忙しかったからね。それと、この子は下宿先の子で妹みたいなものだよ」


「うぅ…妹ぉ……」と1人イジけるクレアに気づく様子も無く、ジャクソンはカウンターでラジーヴと積もる話に舌鼓する。


「おぉ、そういえばお前に頼まれてた物が手に入ったんだ、持っていくだろ?」


「――オイッまさか、アレが手に入ったのか!」

「そうだ。大分時間は掛かったがな……」


 思わせ振りなラジーヴはカウンターの裏の戸棚を開けると何かを取り出す。そして、ドンッとカウンターに出されたのは中世の雰囲気には似つかわしく無い、プラスチック製の容器に入った黒いソースだった。


「……ぶるどっくの絵が描いてあるよ、何これ?」


「俺の故郷では最強のソースの一つだよ。コレが有れば、俺のレシピを3倍くらい増やす事が出来るんだ」


「――凄ぉい。ねぇねぇ、後で舐めてみていい?」

「あぁ、明日のメニューも楽しみにしてて良いぞ」


「え、本当? ヤッタァ~!!」


 初めて見るブ◯ドックソースに喜ぶクレアをラジーヴも気に入ったらしく、その後も様々なコレクションを披露されることになった。


「――じゃ、また来るよ」

「ばいばーいっ!」


「インシャラー」



――ラジーヴに陽気に見送られた2人は意気揚々と店を後にする。店に入った時はまだ日も登り切っていなかったが、既に外はお昼過ぎになっていた。


「もうこんな時間か……何か食べて帰るかい?」

「うん!クレア、屋台のケバブが良い~♪」


 いつに無くはしゃぐクレアに引っ張られるジャクソンだったが、その動きが突然止まる。不思議に思ったジャクソンはその道の先を見ると長髪の目立つ出立をした男が道を塞いでいた。


「……随分と楽しそうじゃないか、ジャクソン?」

「―――お前っ!!」


 その姿を見たジャクソンは咄嗟にクレアを隠すように前へ出ると険しい表情でその男に対峙する。


「何の用だよ……マクベス………」


 男はマクべス・キャンヴェル。ジャクソンと同じ地球人であり、世界教の暗殺部隊“であるヘイト”のリーダーだった。……そう、CODでジャクソンが倒した、あの”hate”だ。


「相変わらずつれない奴だな、私とお前の仲じゃないか」

「……悪いが俺にそういう趣味は無いし、そもそも、お前と仲が良いわけでも無いだろ」


「フン、相変わらずノリの悪い奴だ。オレ様がここに来た理由は分かっているだろう」


「知るかよ、そんなの……」


 しかし言葉にはしないがジャクソンは焦っていた。マクベスが伴っている兵士達は間違いなく世界教の中でも精鋭と言っていい。そんな奴らに包囲されている事に気付かなかったとは闇上がりとは言え、迂闊だったとジャクソンは舌を鳴らす。



 せめて、クレアだけでも無事に帰す算段を巡らせるとジャクソンは奴らにとってのメリットが何かと考え一つの案を採用する。そして、元々効率主義の奴らに悪い条件では無いだろうと口を開けた。


「先に条件がある……この子には手を出すな」


「ほぉ……まぁいい。オレ様はそんなガキに興味は無い。欲しいのは”お前”だけだからな」


 だから、そういう勘違いされれる発言は止めろ!とジャクソンは心の中で叫んだが、ここは我慢だ。


「……ジャクソン…………」


 背後に隠れていたクレアは表情を強張らせると強くジャクソンにしがみ付く。おそらく彼女なりに奴らの危険性を感じているのだろう。


「行くんだクレア。心配しなくていい、必ず帰るよ……戻ったらお姉ちゃんにそう伝えてくれ」


 最後は小さく耳打ちして、そっと彼女の背を押す。


 その意図を察したクレアは何度も後ろを振り返りながら、1人路地を掛けて行く。その間、マクベス以外の連中は要求通り動いていない。


 さて、ここからどうするか…だな………


「……で、俺はどうすればいい。土下座でもして、許しを乞えば良いのか?」


「それも良いがね……目的は違う。本来のタグは何処にやった?」


「……さぁね。そんなものとっくに忘れたよ」


「そうか……なら、お前が望む通り思い出させてやろう。たっぷりの苦痛と時間を掛けてな……」


 マクベスは不敵な表情を浮かべると後ろに居た兵士に指示した。すると次の瞬間、抵抗する間も無く後頭部へと拳銃を打ち付けられ、ジャクソンの意識はそのまま闇に落ちた。

 

2章開始です! 区切るタイミングを逃し、いつもの3倍くらいの長さに。。


今回は間章的な扱いになりますので、次回からがヨーイどんになります!


これから、ちょくちょくジャクソンの過去のお話になってきますので、

箸休めにプロローグをもう一度、見直していただけると楽しめるかもです?


PS

ブクマ増えてました!感動です(´;ω;`)ブワッ 次回もFPSをよろしくです♪


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