FPS episode.20
episode.20――
2014/8/12 世界教研究施設 脱出口
「野郎……さっきよりも早くなってやがる………」
先の戦闘で、あの巨人の動きは見切れたと思っていたが、変わったのは見た目だけでは無かったらしい。復活したノスフェラトゥはジャクソンの想定を遥かに超えた早さで巨大化した大きな爪を鎌のように振るった。
「――そうそう当たるかよ、お返しだっ!」
そして、その巨体が体制を戻そうとした所にグレネードランチャーを直撃させるとその榴弾が爆散する。辺りには黒煙が上がり焼けるような臭いが漂う。だが、普通であれば即死である筈の一撃はまったくと言っていいほどに手応えが感じられなかった。
――――グゥルルルル………
黒煙に包まれた一帯から姿を表したノスフェラトゥは一部が焼き焦げているものの、ほとんど無傷に近い状態だった。その様子はさながら地獄からの使者といった感じだろう。
まずいな。これじゃあ、そう長くは持ちそうにないぞ……
シャーリーに大見得を切った手前もあり何としても時間を稼ごうとしたのだが、頼みの綱であるグレネードランチャーでも効果が無いとなると打つ手が無い。
「化物め……」とジャクソンは愚痴を零しながらも自分自身の焦りを何とか押し留めようとする。しかし、更に追い込むようにこちらへ迫って来る……と思われたが、何かに気づいた巨体は急遽その進路を変えた。
「……なっ――マズイっ!」
シャーリーのいる方向へ突進を始めたノスフェラトゥにジャクソンは残りのグレネードで足止めする。だが、先と同様にその本体にはまったく効いている様子が見られない。
――っ、こうなったら……
足を止めたその巨体にジャクソンは自分の脚に一時的な強化付与を行い背中に飛びつく。そして、腰のバリスティックナイフを抜くと手首を返し、ノスフェラトゥの左眼に突き刺した。
――――ギィウォォォオォォォォォ!!!!
片目を潰されたノスフェラトゥが血が吹き出し悲鳴を挙げるが、それには唯では済まさないといった様子で背中に取り付いたジャクソンの髪を掴むと渾身の力でそのまま地面に叩きつけた。
「―――がはぁっ!!」
地面にヒビが入る程に叩きつけられたジャクソンは意識が飛ぶを辛うじて堪えたものの、口からは大量の血が滝のように溢れだす。
クソ……内蔵をやられたか……せっかく治してもらったのに……
脳震盪のせいで上手く立つことも出来ないジャクソンは這いずるようにその場から逃げようとするが、ノスフェラトゥは雄叫びを挙げると、止めとばかりに足を踏み上げる。
「――ちょ!マジかよっ!?」
あの巨体に踏まれれば、今度こそ死は間逃れない。ジャクソンは迫りくる自分の死を必死になって横へ転がり避けたが、次の追い討ちまでには反応が出来ない。
くっ、やられるっ――!!
――――ウォォォオォォォオォォォォォォ!!!!
羅刹の如く殺意を込めたストンプがジャクソンを一直線に襲う。もう、成す術が無い……
――――ズガァンッ!!!!
だが、もの凄い激震の後にいつまで待っても来るはずの痛みが来ない。ジャクソンは恐る恐る目を開けてみるとノスフェラトゥの足はジャクソンの僅か横に逸れて外れていた。
……助かった…のか?
「――あきらめるのが早い、バカッ!!」
「犬死にする気か、バカが!」
「……バカ」
ジャクソンは後ろに振り返るとそこにはボートから降りて助けに来たルイとザックとベイダーの3人が見えた。彼らは再び弾幕を貼ると巨体は後退りをして動きを止めた。やはり持つべきは戦友だと心底思ったが、バカは余計だ……。
「――サンキュ、助かったよ!」
ジャクソンはこの機会を逃すまいと感覚が麻痺する身体を無理やり立ち上がらせ、ノスフェラトゥと距離を取る。それを見たベイダーはどこから持って来たのか、背に担いでいたRPGを構えるとそのまま化物に撃ち放つとロケットは暴れるような軌道でノスフェラトゥに襲い掛かった。
「――むっ!」
しかし直撃と思われたその瞬間だった。ロケットは突如軌道を変えて、横の壁にぶつかって爆散する。その異常な光景は普段は無口のベイダーですら驚かせた。何故ならば、確実に仕留めたと思われたその一撃は着弾の寸前にノスフェラトゥに振るわれた爪によって薙ぎ払われ、軌道を無理やり変えたからだ。
「――どこまでデタラメなんだ、アイツ!」
「――化物めっ!」
「むぅ……」
「狼狽えるなっ! ――第二射、放てっ!!」
呆気に取られていた面々にルイは叱咤し弾幕をノスフェラトゥに浴びせる。だが、その一発一発はまるで小石を当てているかの様に巨人のボディに弾かれてしまう。
「このままじゃラチが開かんぞ。どうする……ルイ」
「……やむ得ないか。使えジャクソン!!」
ルイは胸ポケットから1発の光る弾丸を取り出すとそれをジャクソンへ向かって投げる。
――なっ、アレはまさか!
ジャクソンはそれを見て前に飛び出す。あの弾丸は以前の一件で既に使ってしまっていたスナイパーライフル用のFMJ弾で、顛末書の提出をサボっていたせいでまだ支給されていなかったものだ。恐らく何かあった時の為にルイが持ってきていたのだろう。団長ナイス! 後でちゃんと顛末書を提出しますよ!
――――ヌォヴォゥゥ!!!
「あっ……」
「アーーーーーっ!!」
だが、運悪く投げたFMJ弾はノスフェラトゥの振るった爪の先端に当たり、せっかくの希望がジャクソンへ届く前にまたあの巨体の絶望の足元に落ちてしまう。
「――ぬぅ仕方ない……みんな援護、頼んだぞ!!」
最早あれ以外にこの状況を打開する手立ては無い。ジャクソンは覚悟を決め、再びノスフェラトゥの足元に落ちているFMJ弾に向けて走り出す。しかし、それを待っていたとばかりに近づくジャクソンに対して、巨大な爪が振るわれる。そのスウェングの早さは到底、人間に避けられるものでは無い。
……と、思うじゃん?
ドッグタグを握り締め、そのリミッターを解除するとタグは底無しの穴の様にジャクソンのプラーナを喰らい尽くし、辺りを白と黒の世界に塗り替えた。同時に視界の全てがコマ送りの様に鈍くなる。
――着弾まで、3秒ってところか……もってくれよ………
そして、本来は0.3秒しか使えない筈のバレットタイムをジャクソンは止まらない消耗と共に使い続ける。プラーナは言わば人間の生命力でもあり、その枯渇は死を意味する。つまり、これは一か八かの掛けだ。
刹那、猛烈な速さで振るわれたノスフェラトゥの爪をすり抜け、足元にあったFMJ弾を握り締める。
――あと2秒……
即座に担いでいたスナイパーライフルに弾を装填すると、そのままノスフェラトゥの真下から頭上に向けてスコープを合わせる。そして、時間切れと同時に引き金を引き絞った。
――1秒。視界は色を取り戻し、全ては動き出す。
「うぉぉぉぉぉ――!!」
――――バシュン!!!
ライフルの砲身から放たれた弾丸が光の柱となり、ノスフェラトゥの右半身と頭を貫き消滅させる。そして、身体だけとなった巨体は倒れると二度目の死を迎えた。
「………ハハッ、やったぞオレ……」
常軌を超えた化物退治を成し遂げたジャクソンは、全身の力が抜け、そのまま大の字に倒れる。
「――バカッ、惚けているな。もう時間が無い!」
「――えっ!?」
――――ドヴァァン!!!
次の瞬間、研究所の中で物凄い音を立てながら内部爆発が始まった。その爆発音で、思わず我に帰る。
「――っ、ヤべッ!」
仲間たちは既にボートに走り出しており、ジャクソンだけが取り残されていた。更にすぐに脱出が出来る様に残ったリックがボートを岸から離していた。確かにこのままモタモタしていれば乗り損ねて、ボスを倒したのにジ・エンドになりそうだ。ジャクソンは未だ入り口付近に残っていたシャーリーを呼びかける。
「シャーリー、タイムリミットだ。早くっ!」
「もう少し待ってください……あと少し………OKです!」
既に真近まで迫った誘爆の中で水門が開き切るのを確認したシャーリーはようやく走り出すも激しい水流によって既に岸からボートが大分離れてしまっていた。ジャクソンは勢いを付けてギリギリでそれに飛び乗ると後ろを走っていたシャーリーに向け手を伸ばした。
「こっちだ、早く掴まるんだっ!」
「――ありがとうござい、きゃあ!?」
だが、シャーリーが岸を踏み切りジャクソンの手を掴もうとしたところで、彼女の動きが止まった。 ジャクソンは慌てて彼女の手を掴むが、シャーリーの後ろには信じられないモノが取り付いていた。
――――ォォガァァァスゥガァアァァアァ!!!!
聞き覚えのある不快な叫び。吹き飛んだ本体の頭に変わり取り込まれた筈のスティングレーが地獄の形相で、シャーリーを引き込もうと彼女の脚を掴んでいたのだ。その様子はノスフェラトゥの身体と融合して、既に化物へと変わり果てていた。
「――っ、野郎。往生際が悪いんだ!」
ジャクソンはハンドガンを抜いて残弾を全て使い、スティングレーの頭を何度も撃ち抜くが最早、人の枠を通り越した奴にはほとんど効果が見受けられない。
――クソ、このままじゃ持たない……
そうこうしている内にもシャーリーの手が滑り徐々に離れていく。更に負傷した左腕はノスフェラトゥの重さを支えきれずミシミシと腕の筋が裂ける。
「――ぐっ……く……ぁ…………」
「……もぅ……ムリです、離して下さい………」
「――ダメだ。頼む、あきらめるなっ!」
だが、口ではそう言っていてもジャクソン自身が既に限界を超えているのは明らかだった。
「………先輩、お会い出来てよかったです」
彼女はそう言うと口惜しそうに笑みを残し、自らその手を離した。
「――――シャーリィーーっ!!」
まるで深淵に引き込まれるように様に水流が彼女を呑み込むと洞窟の崩落と爆炎の中にその姿は消えた。そのあまりにも唐突な出来事にジャクソンは事実を受け入れることが出来ずに立ち尽くした。
――それから数十分後。
研究所から脱出に成功したジャクソン達は無事に洞窟を抜け夜も明けつつある川を降った。研究所で行われていた通信妨害が無くなり、回復したのを受けキャスターから通信が入る。
『――ザザッ――えるか。この通信が聞こえたら応答してくれ』
『――こちら第9騎士団団長ルイ。教団の研究施設からの脱出に成功したわ……聞こえるかしら?』
『あぁ、聞こえたよ。そちらの位置は補足出来た、直ぐにそちらへ救援を向かわせよう。被害は――?』
『……第6騎士団全員とウチの新人2名、それとスティングレーが死んだわ。屋敷の中の住人はほとんど化物になっていたし……まったく、散々な結果ね』
これまでに無い程の酷い戦果に思わずルイはため息を漏らす。これ程の失態は第9騎士団が始まって以来のものであった。
『そうだな……しかしお前達が生きていただけでも良しとしよう。それとひとつ朗報がある』
『へぇ……何かしら?』
『――ザックはそこにいるか?人質になっていたアリシアとミラをこちらで救出した。もっと早くに気づけていれば良かったのだが、すまなかったな……』
『……そうか……恩にきる。キャスター』
ザックは顔を手で抑えると皆から顔を反らし、心底安心した様にキャスターへ感謝を口にした。
だが、それぞれのメンバーが無事に生還を実感する中で、ジャクソンだけは力無く夜空を見上げていた。そんなジャクソンを見たルイは彼の横に寄り添う様に座ると静かに口を開いた。
「……酷い顔をしているな」
「仲間を……2人も殺しちまったからね」
いつもと違って、いつになく無表情なジャクソンにルイは諭すように答える。
「今日の事は忘れろとは言わないわ。でも、貴方が助けてくれたお陰で、私は今こうして居られる。それだけは覚えておいて……」
恐らくそれは彼女なりの慰めなのだろう。今はその言葉がジャクソンにとって救いになった。
「えーとさ。それはもしかして、告白とか?」
ジャクソンは意地悪くそう答えると、ルイは自分の言葉の意味を思い返して急に恥ずかしくなったのか「か、勘違いしないでよね!そういう意味じゃ……無いんだから」と照れてそっぽを向き、そのままザック達の所へ行ってしまった。普段は澄ましているが、ああいう所は歳相応であり微笑ましい。
既に夜が明け始めた星空。そこには先程までの出来事が嘘のように澄んだ空が美しく広がり、消えかけた月が一節の終わりを告げている。まるで、あの時の夜空と同じ様に……
ジャクソンはおもむろに自分の首に下げたドッグタグを手に取るとそこに刻まれた自分のモノでは無い、その名前を見ながら一人、語りかける。
「でも、お前ならもっと上手くやってたよな、大地………」
………to be continued..
第1章完結ですー。長かった、ホントに長かったー(ノД`)
おかげでアップが遅くなってしまいました。先月中に終わらす予定だったのですが、本当にすみません。すべてはお正月ボケのせいですΣd(゜∀゜d)
さて、次回より第2章が始まりますが、アップのペースがちょっと遅れてしまいそうなので、2章は2週に1回のペースで更新していく位になると思います。
でも、永遠ることは無い様に、遅くても続けます(*´ω`*)
今年も1年FPSをどうぞ、よろしくお願いいたしますー。




