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FPS  作者: N19
第1章 サバイバルホラー編
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FPS episode.01

episode.01――

2014/7/30 エルディス首都近郊 ――


『――こちらジャクソン、狙撃ポイントに到着。人質とテロリストを確認した』


 愛用のスナイパーライフルを構え、遠く離れた場所からターゲット達が居る部屋をスコープで覗く。そのスコープ越しに見えているのは、黒い布で顔を覆ったテロリストと縄で縛られた人質達だった。


『1分28秒……遅いんだよ、ヌーヴ(新兵)』

『……お前達が早過ぎるんだっての』


 同じ部隊の仲間であるクリフから嫌味を言われたジャクソンは思わず愚痴をこぼす。彼は少年兵として各地の戦場を回っていた傭兵であり、若干14才ながらにして兵士としての技量は既にベテランだ。


 しかし、装備に身を包んだその横から見える顔は、まだあどけなさを残す子供とそうは変わらない。


 唯一違う点と言えば、その並外れた力と引き換えに老人の様に真っ白になった彼の髪ぐらいだろう。


 まぁ、中身はまだまだお子ちゃまだけどね……。



『――二人とも無駄口を叩くな。いいか、30秒後にジャクソンの狙撃と同時に突入を開始する』


 そして、この部隊の長である彼女、ルイ・デ・アンティラーシュ卿はそのクリフでさえ敵わぬ強兵(つわもの)だ。彼女はこの世界で過去にあった言われている戦争の英雄らしく、今はとある経緯で自分の直属の上官でもある。


 深紅の瞳と黒髪が特徴的な信じられないような美人だが、一転してその中身は映画に出てくるアクションヒーロー張りの男勝りでタフガイだった。


『――返事は?』


『……了解。精々僕の足引っ張るなよヌーヴ』

『へいへい、お前モナっ!』


 作戦開始前の軽口を含んだ打ち合わせ終えて、ジャクソンはスナイパーライフルに弾を装填すると人質に一番近い犯人の1人を照準に入れる。


「ターゲットロック。ヨーイッ……どんっ!」


 そして、緊張感の無い掛け声と同時にライフルから放たれた銃弾は窓際に居たテロリストを見事に射抜くと大掛かりな人質の救出作戦は開始された。


『――よし、いくぞっ!!』


 突入の声が掛かり、部屋の扉が爆破されるとルイとクリフが中に突入する。ジャクソンは後方支援として別の建物でその光景を観察しながら、構えたライフルで確実に次の獲物を狙い撃つ。



「相変わらず人間離れしてんな、アイツら……」


 ジャクソンの様な凡人から見れば、それは信じられないような的確な射撃と立ち回りであり、部屋に突入してからたったの数秒で中を制圧するに至る。それは実は義体化した某サイボーグなのでは無いかと本気で疑う程だ。そして複数居た筈のテロリスト達はあっという間に制圧され、リーダー格の1人のみとなる。


『――手をそのまま上げて、投降しろ!』


 2人の手際に圧されたテロリストは人質達に手を出そうとするが、それも目にも止まらない早業で2発、銃でその腕と脚を撃ち抜いて静止させた。


「くっ、化物め………」


 これ以上は状況が悪いと察したテロリストは、血だらけになったその手を静かに上げる。



『これで一件落着……かな?』


 あまりに呆気ない内容ではあったが、無事に役割を果たしたジャクソンは肩を撫で下ろす。


 歴戦を経験している彼女たちの技量にジャクソンは感心しているとクリフが生き残ったテロリストを捕縛して、機嫌が悪そうに床へと押さえ付けている。


『――手間を掛けさせるなクズ。お前にはまだ色々と聞くことがあるから生かしてやってるんだ!』


 その幼い見た目に似合わないスラングを吐き捨てるとクリフは掃除当番をさせらている子供の様に嫌々とテロリストの腕に手錠を掛けるようとする。



 だが、その瞬間だった。



『――なっ!』


 腰のベルトに付けていた手錠に手を掛けたクリフのほんの一時両手が使えなくなったその隙を突き、テロリストは裾に隠していた小型のナイフを取り出すと、クリフの首に押し付けた。


 その一連の様子を見ていたジャクソンでさえ奇異に感じる程の素早い動きだった。それを目の前でやられたクリフ自身は、恐らく何があったかも気づくことが出来なかっただろう。


『――くっ、コノッ!』


『……所詮はガキだな……我と共に皆ここで、サーヴェイン様の生贄となるがいいっ!!』


 今回の主犯である彼らは名目上はテロリストだが、実際は世界教と呼ばれる宗教教団の信者だ。


 彼らは自己犠牲を問わない狂信的な連中であり、自爆テロなどをこの国の各地で繰り返していた。そして、ご多分に漏れずクリフを人質に取ったテロリストも不敵な笑みを漏らし懐から赤く光る魔石を取り出す。


(ちっ、アレはマズイな……)


 それを見たジャクソンは軽く舌打ちをする。あの魔石にはあの辺り一帯、数十メートルを一瞬で灰に出来る程の爆発を起こすことが出来る、いわば携帯式の爆弾と言ったところだった。



『―――ジャクソン!』


 そして、ルイのその一言を聞いたジャクソンは条件反射的に反応する。あのテロリストはクリフや人質達を巻き込んで自爆でもしようと考えているのだろうが、この他称“変態スナイパー”がそうはさせない。


 スナイパーライフルの照準をテロリストに合わせ、ワンチャンスだけの狙撃タイミングを見計らう。


――クリフの奴、無駄に動くなよ……


 ただ、仕留めるだけならそれは数秒も必要無いが、クリフが人質にされている状況ではそうもいかない。そもそもあのテロリストにはまだ聞くことが山程あり、奴を生かして捕らえてこそ意味がある。


(それでも……やってやんよ!)


 冷静にそして静かに息を止めるとジャクソンはクセのある、スナイパーライフルの重い引き金を指に掛け、そのトリガーを一気に引き絞る。



――――ダァン!


 周囲に広がる乾いた銃声と共に撃ち出された銃弾はテロリストが魔石を持っている腕を正確に射抜き、臨界寸前で赤い光が漏れる魔石を床に落とした。そして、その瞬間を待っていたとばかりにクリフは男の腕から逃れると素早く身を翻して、そのままの勢いを乗せてテロリストを床にねじ伏せた。



『ヨシ、作戦完了。ケガは無いかい、クリフ先輩?』


『――っ!お前……後で覚えてろよ……』

『お~、怖い怖い………』


 いつもは姑のようにイビリ倒してくるクソ生意気なお子ちゃまには良いお灸となるだろうとジャクソンは戯けてクリフをからかう。


『よくやった、ジャクソン。クリフは減点1ね…』


『まぁ、天才ですからね、これくらい余裕ですよ?』

『ちっ……何が天才だ。死ねばいいのに……』


 珍しくルイからお褒めの言葉を貰ったジャクソンは偉そうに高笑いするとクリフはバツが悪そうに1人、そう毒づいた。



 さて、それはさておきとして……


 ここは元の世界である地球とは違う異世界である!……なんて言ったら、ただのキチガイ?などと思われてしまうだろうか。


 でも、それはゲームでも妄想でも無く紛れもなく、本当の事だからタチが悪い。自分の部屋で力尽き意識を失ったあの後、ジャクソンは"世界教"と名乗るテロリスト集団にこの異世界へ召喚……いや、誘拐されてしまったのだった。


 正直、自分でも何を言っているのかと思うのだが、全て事実であり、恐らくあの最後のアップデート画面が原因なのも容易に想像がついた。



 ワンクリック詐欺召喚とはよく言ったものだ……


 何でもこの異世界で悪の枢軸と揶揄される世界教は特定の才能を持った人間を集めて強制的に兵士として利用していて、ジャクソンは運が良いのか悪かったのか分からないが、衰弱死寸前であった所をタイミングよくこちらに召喚されたらしい。


 ある意味ではラッキーであったのだが、それからの数ヶ月間、ジャクソンは彼らの実質的な奴隷となり、最初はただ生き残る為にやっていた事が気がつけば、教団の犬と同然の兵士となっていたのだ。



――そして数ヶ月後。ある出来事によって過ちに気付いたジャクソンは教団から命からがら逃げ出した。


 だが、以前の仲間から追われ、これまでの敵にも追われる。そんな状況の中でジャクソンは各地を彷徨い、スラムで野垂れ死にしそうになっていた所をルイ達の“黒騎士団(ブラック•ナイツ)”と呼ばれる部隊に拾われ、今に至るという訳だ――――。



『むぅ、ジャクソンのクセに生意気だし……』


 先程の失態が余程悔しかったのか、クリフは不貞腐れた様子で遠く離れた建物にいるジャクソンを睨む。


『へいへい……命を助けた礼がそれですかい?』


 でも、それは我々の業界ではご褒美ですよ?とドMなジャクソンは心の中で返す。


『それくらいにしておけ。キャスター、テロリストのリーダーを確保。こっちは粗方片付いたわよ』


『――そうか、皆よくやった。これで無用な戦争をせずに済むだろう。別働隊のザックからも拠点制圧の報告があった。あとは捕らえた賊を尋問して、次の“巣”を炙り出すとしよう』


 黒騎士団の団長であるルイの報告に無線ごしで答えたのは本部に居るキャスターだった。彼は黒騎士団(ブラック•ナイツ)の司令であり、同時にこの国の皇帝でもある。見た目はトボけた感じのハゲ親父なのだが、一介の地方貴族から皇帝にまで成り上がった切れ者だ。


『む、誰がハゲだと…ジャクソン、またお前か?』

『――って、何で聞こえてんだよ!』


『聞こえてはおらん。そんな感じがしただけだ』


 ……と、こんな感じで人の考えを読むことに長けた、何とも頼りになるハゲ親父だ。


 ちなみに一国の主である皇帝を何故、キャスターと呼ぶかと言うとそれが前の戦争で、その知略を世界に知らしめた彼の通称となっているからだそうだ。


 そして、戦後の未だ安定しない情勢へ対処する為に彼は自らの私財を使ってこの黒騎士団(ブラック•ナイツ)を組織し、国内外のテロ対策や治安維持活動を行っている。


 国で一番偉いはずのキャスターも正規で軍を動かすには頭の硬い元老院の承認が必要となる。だから何かと対応が後手に回ってしまう事態を避ける為、あえて黒騎士団は皇帝直属の独立部隊となっており、現代で言えばアメリカのCIAに近い、対テロや情報戦などが出来るこの異世界で唯一の組織と言えるだろう。



『なぁ、団長。奴らの目的は何だったんだろうな』

『――さぁね、何か気がかりな事でもあるの?』


『……奴らが目的も果たさず、これで終わらせるとは思えない。何かまだネタを隠してるんじゃないかな』


 世間から邪教という表現がされている通り世界教はサーヴェインという神への信仰を広める為、その過激な思想で無差別なテロ行為をこの世界で行っている。


 それもあり世界教の信者達は目的達成の為に人間の生死や犠牲などは問わない。それがあのクリフを手玉に取った程の奴が殉ぜず捕縛を許したのだ。そのことに、ジャクソンは大きく違和感を覚えていたのだ。


『――なるほど、ジャクソンの言うことには一理あるかもしれんな。別働隊のザックから報告があったが、情報にあった魔石がもう一つ見つからんそうだ』


『奴ら、まだ何かを隠してるわね……』

『そういう事だな』


 ルイとキャスターはジャクソンの話に頷くとその意図を読んで、そう付け加えた。次の調査方針は決まった様だ。テロ対策は先を読んでナンボだしね。


『――ヨシ、クリフはジャクソンを連れて、教団が行動を起こす前後の動きに不審な点が無いかを調べろ。私とキャスターは明日の首脳会議に備えるわ』


『えぇ~!そんなの、僕1人で充分だし……』

『これは命令、文句は聞かないわ。それにジャクソンも今日はちゃんと役に立ったじゃない』


『そうそう。今日は俺もって、オイーっ!』


 そもそも中身が普通の一般人であるジャクソンは、本来は狙撃も疎か常人以下の身体能力しかない。それなのにどうして、彼女らの様な“特別な”人間に着いていけるかというと、それはこの世界にしかない特殊なアーティファクトによる補正があるからだ。


 ドッグタグの形をしたこのアーティファクトは召喚された人間用に作られた物であり、プラーナと呼ばれる体内の生命力を魔力へ変換することが出来るらしい。その変換された膨大な魔力を身体能力の強化へと利用することで、常人では考えられない動きが出来たり、多少の傷ならば自己修復することも出来る。


 更にPerk(パーク)と呼ばれる各人固有の潜在力を強制的に引き出してくれて、それを自分の力として利用が出来るという何とも優れものだ。


 そして地球人はこの世界の人間より潜在的に多くのプラーナを持っているらしく、一般人でも大魔術師並の潜在能力があるらしい。だからこそ、世界教は態々地球人を召喚してまで、俺たちの様な人間を利用しているという何とも酷い話だった。


まぁ、お陰で今の職にありつけた訳だけどね……


「ちぇ、せいぜい僕の足を引っ張るなよ!!」

「先輩の優しさには涙が出ますわ……」


 そんな有難いクリフ先輩のお言葉に嫌みを返して、教団の拠点があった村へと向かった。

 

2回目です。ここから異世界ファンタジーが始まります?


お話的に時系列がプロローグから少し進んでいますが、

その間の話は後々のお楽しみにということで(*´ω`*)フッフッフ


行き当たりばったりなので、更新も早かったり遅かったりですが、

チマチマ書くので、気長に読んで頂けると助かります~♪


PS

読んで頂いた方、ブクマと評価して頂いた方に感謝ぁ~Σd(゜∀゜d)


――――――→

2月15日 読みづらかった部分を大幅に修正しました!

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