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FPS  作者: N19
第1章 サバイバルホラー編
19/43

FPS episode.18

episode.18――

2014/8/12 スフィーダ伯爵邸 研究ラボ


 ザックはジャクソンの腕の包帯の一部を外すとメイド長に貫かれた肩から下は明らかに壊死した様に色を変えていた。それをザックが険しい表情で見る。


「馬鹿な……浸食が早過ぎる」

「侵食って、まさかウィルスのか……」


「あぁ、聞いた話だがウィルスに感染してゾンビ化が始まるのは1日〜2日後かららしい。おそらくはドッグタグで再生されたことで代謝が早まり、ウィルスの侵食が広がったのだろう」


「ハハッ……マジかよ………」


 薄々感ずいていたとは言え、自分の具体的な死の進行がこうも早く進んでいた事にジャクソンはショックを受けた。正直、ドッグタグの再生能力を当てにしていた部分が大きかったこともある。


 恐らく左腕が治る頃には、もうゾンビだろう。


 更に利き手である左というのが致命的でもあった。本来、ジャクソンの様に利き手と利き目が左である場合は右利き用に作られた銃の構造上、スナイパーとしては大きなアドバンテージがある。一般的に左利きというだけで、スナイパーに向かないとされる中でジャクソンは工夫を凝らし、薬莢が自動で排出されないボルトアクションのスナイパーライフルでのみ左撃ちとあの狙撃の精度を実現させていた。


 マズイ……非常にマズイ………


 今では潰された左腕の感覚はほとんど無く、下手な射撃やショットガンならまだしも、これではまともに狙撃が出来ない上、このままではスナイパーとしてもジャクソンは廃業確定だろう。何とかして、ワクチンを出さなければならない。



「……ワクチン、持ってないよな」


 ジャクソンは思いついた様に近くで死んでいたスティングレーのポケットを調べてみるが、それらしい物は見つからない。その代わりに研究所のマスターキーと思われる鍵は見つけることは出来た。


「そんなに美味い話は無いか……」とジャクソンはうな垂れる。そんな状況に見兼ねたザックはジャクソンを叱咤すると無理やり立ち上がらせる。



「手分けをして別の場所を探すぞ。まだ、諦める様な時じゃ無いだろう」


「そう……だよな」と頷くとスティングレーからマスターキーを拝借しザックと共にラボを出た。


 来た道を遡る途中で通路にはまだベルセルクがいた筈だと警戒したザックが先行して進んでくれたが、そこにその姿は無かった。それどころかアレだけ猛獣の様に暴れていた筈のベルセルクは胴体を真っ二つにされ黒煙を上げながら、突っ伏していたのだ。


「嘘だろ、アレだけ頑丈な化物をどうやってあんな風に出来たんだ……」


 その信じられない光景にジャクソンは目を見開いたが、驚く事にその側には見知った女性がそれを調べており、こちらに気がづくと笑顔で走って来る。


「――先輩、探しましたよっ!」


「……君も無事だったんだな。それよりシャーリー、ソイツは君がやったのか?」


「いえ。ここに来た時にはこの状態でした。それよりもっ――」



――――カチャ!


「……ジャクソン、その女から離れろ。そいつもスティングレーと同じ"世界教の人間"だ」

 

 何かを取り出そうとしたシャーリーにザックは突然銃を彼女に向け構えると思いもしない事を口にした。


「――き、急に何言ってるんだザック!」

「……事実だ。スティングレーと話ている所を見たからな」


 そんなザックにジャクソンは信じられないと疑問の声をぶつけるが、彼は表情を変えない。


「あれは彼と口論をしていただけで……」


「――ウィルスの機密保持についても話していたな。お前はスティングレーの失敗の尻拭いをさせられて、ここに来たんだろう?」


 もう全て分かっているとばかりにザックがシャーリーに対してそう引導を渡すと、彼女はゆっくりと目を閉じて観念した様に口を開いた。


「そこまで聞かれていましたか、迂闊でした……」

「今の話は本当なのか、シャーリーっ!」


「……事前に立てた計画とは多少ズレてしまいしたが、仕方がありませんね」


 もはや言い逃れが厳しいと彼女自身も判断したのか、シャーリーは懐から何かガラス玉の様なモノを取り出そうとしたが、それを遮るべくザックのマグナムから銃弾が放たれた。



――ザァン!!


 だが、それは斜めに一閃された刃によって遮られる。


「穏便に済まそうと思っていましたが、無粋な真似をしてくれましたね……」


 シャーリーの手には赤い光を帯びた細身のサーベルが握られていたが、彼女自身はそれを抜かせた事に対して静かな苛立ちを見せていた。


「ぬっ、魔術を付与したサーベルで切り払ったか……」


「……入団試験の時には言ってませんでしたね。私、銃は苦手ですが、剣は得意なんですよ」


 ザックに対して威圧的に言い捨てるとシャーリーは今度こそ持っていたガラス玉を砕いた。



――――ワーニング!自爆装置が起動されました。総員はただちに退避して下さい。繰り返します。自爆装置が起動されました。総員はただちに退避して下さい………


 けたたましいアラーム音と繰り返される避難警告。彼女が何をしたのかは聞くまでも無いだろう。


「……残り20分。間もなく、研究所の動力源であった魔石が臨界に達し、ここは跡形も無く消える事になるでしょう。さて……どうします、ザック副団長?」


「俺たちを道ずれにするつもりか……」


「そうではありません。私も犬死はゴメンですから、逃げる手段を私は用意しています。まぁ、アナタ方に邪魔をされなければですがね……どうでしょう、ここは一時休戦としませんか?」


 そう提案を持ち出したシャーリーは先程までの冷徹な表情を和らげた。


「……ジャクソン。お前はどう思う」


 交渉の上では彼女の方が有利な筈のこの状況で何故こんな提案をしてくるのだろうか?その矛盾点に気がついたジャクソンはシャーリーの意図を読んだ。恐らく、彼女は何かを意図的に隠している。だが、どう足掻いたとしても、助かる方法は今の提案を呑むしか無いのも事実だ。


「……俺はシャーリーを信じるよ」


 ジャクソンはお手上げっという降参のポーズをすると彼女へ敵意がないことを示した。するとシャーリーが、先ほどの戦闘で潰されて無惨な状態になったジャクソンの左腕に気づき口を開いた。



「その腕……先輩にはもう既にゾンビ化の初期症状が出ていますね。先程に言いそびれましたが、ワクチンの精製に成功しました。急造なので、効果の程は保障できませんけど……」


「本当なのか、シャーリーっ!」


 シャーリーの話に驚くジャクソンへ彼女は腰のポシェットからピンク色に光る小さな瓶を出して見せる。


「えぇ、すぐに治療をすればまだ間に合うかもしれません。それを許して貰えればの話ですが?」


 そんな2人のやり取りを横で見ていたザックだったが、あからさまに「先輩をこのまま見殺しにするのか?」と言う様な目をシャーリーに向けられ諦めた様に銃を下げた。


「……いいだろう。治療の間に俺はリックとベイダーを連れて来る」


「懸命な判断ですね」


 ザックはシャーリーから警戒を解くと背中を向け、ジャクソンに声をかける。


「ジャクソン、すまんが治療が終わり次第、ルイはお前が迎えに行ってくれるか。今の俺はアイツに顔向け出来る立場じゃ無いからな……」


「あぁ、そこら辺は任せてくれ」


 そう言うとザックはルイが捕らえられている部屋と合流ポイントをジャクソンに伝えて、リック達を探しにそのまま通路を駆け抜けていった。


「先輩、あまり時間がありません、さっそく治療を初めましょう」


「悪いな、頼むよ……」


 ジャクソンはボロボロに潰れた左手を差し出したが、先ほどよりも血の気を失って悪化しており、無意識に震える手が止まらない状態だった。だが、それを気にする様子も無く、シャーリーはその手を取る。


「……大丈夫、何とかなりますよ」


 彼女はゾンビの様なジャクソンの手に優しく自分の手を添えると静かに詠唱を始めた。


「――我が祈り、水の精霊ウンディーネの力を賜わり、汝の傷を癒やさん………ヒーリング」


 彼女の声が辺りに響くと淡い水色の光が広がり、見る見るうちに潰された腕が形を取り戻していく。


 この世界の魔術は確かに存在するがそこに住む人間達のプラーナ量が年々と少なくなり、次第に詠唱による魔術が出来る人間も少なくなったと以前に聞いた事がある。そして、次第に廃れていった魔術に変わり、今では効率の良い魔石を利用した錬金術がメインとなっていると言う。錬金術にはルーン文字を発展させた様なアーリィ文字というものが使用されており、物に呪文を刻み魔力を通す事で魔術的な効果を起こす事が出来る。ジャクソンが所持しているドッグタグもその効果を応用して作られたものだ。


 それもあり実際に詠唱による治療魔術をまじかで見たのはジャクソンもこれが初めてだった。


「すごい……これなら、医者要らずだ」


「いえ、それは違います。医療魔術は魔法とは違い、見た目ほど万能ではありません。人体構造を理解し、損傷している組織を的確に再生させなければ、内出血や機能不全で逆に死を招きますから」


「……つまり、手術より難しいってことかい?」


「はい。未熟な魔術師に不完全な治療をさせるよりも、医者が外科的な手術で治す方が遥かに安全で効率が良いです。これは両方を学んで得た私の結論です」


 そんな高難易度の魔術を慣れた手つきで適切な処置を進めるシャーリーは、ジャクソンに初心者向けの魔術理論を楽しそうに饒舌に語る。立場上では敵対している筈の相手とこんな話をしている彼女にジャクソンはひとつの疑問を投げかけた。


「なぁ……君は何故、世界教に組みしているんだ?」


 ジャクソンの口から出た言葉にシャーリーは驚いた様子を見せ苦笑すると、彼女はそれまで見せなかった表情でその問いに答えた。


「……昔、ある人に一生返せない程の恩を受けました。それを返す為に今、私はを生きています」


 まるで自分に言い聞かせる様なシャーリーの返答にジャクソンは諭す様に続ける。


「……このまま、騎士団に残る気は無いのか?」


「先輩の気遣いは嬉しいです……でも、それは無理ですね。私は自分の望みの為に世界教で人を殺め過ぎました。団長が私の正体を知れば決して許さないと思います」


 ジャクソンの誘いに微笑み返すシャーリーだったが、それはこの世界に来て幾度なく見た諦めた人間の顔だった。恐らく彼女にも何かの足枷があるのだろう。


「そっか、無理強いはしない。でも、君が居て助かったよ。もう少しでまた職を無くす所だったからね」


「そう言って頂けると治療の甲斐があります……さて、この話はもうお終いにしましょう。腕も7割程は戻りました。残りはウィルスの影響で変異していますので、後はワクチンの効果次第ですね」


「十分だ、ありがとう。まるでシャーリーは白衣の天使だな」


「ふふっ、先輩は口が上手いですね。白衣を着てなくても天使なんですか?」

 

「まぁ、例えだよ。ヨシッ、大分時間を食っちまった。急ごう!」


 ジャクソンはまだ違和感が残るもののすっかり原型を取り戻した左手を握り締めるとシャーリーを連れ、ルイが捕らえられている尋問室へと向かった。

 

18話目、やっと完成ですー。更新がめっちゃ遅くなってしまいましたが。。。


今後のお話に繋がる要素を入れていたのですが、後々まで整合性を取るのが

結構大変でした……(今、次章のプロットを書いている最中だったりします)


予定では、あと2話くらいで今のサバイバルホラー編が完結します。


その後、もうちょいFPSっぽい要素をインスパイアした方向でお話を進める

予定ですので、いつも通りマッタリ読んで頂けると嬉しいです!


PS

いつもFPSを読んでいただいて、ありがとうございます!Σd(゜∀゜d)

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