FPS episode.17
episode.17――
2014/8/12 スフィーダ伯爵邸 研究ラボ
3メートル近い体躯に異様に発達した筋肉組織と継接ぎにされた全身の皮膚。そして、口が裂け剥き出しになっている凶悪な面構えを見て、ジャクソンが真っ先に思いついたのはフランケンシュタインであった。
「どうだ、素晴らしいだろう……この圧倒的な威圧感。まさに強者の頂点に立つ存在だとは思わんか」
誰も思わねぇよ、こんな化物……と思いつつ。そう言う如何にも小物な発言が出来るスティングレーに、ジャクソンは呆れてタメ息を吐いた。
「どこがだよ……こんな出来損ないを作って喜んでるなんて、最高にセンスが無いぞ?」
趣味の悪さをひけらかすスティングレーにジャクソンはそんな馬鹿にした言葉を返す。すると奴は興奮し息を荒げながら、目を見開いてニヤリと口元を歪めた。
「……よろしい、ならば実験だ。ノスフェラトゥの力……証明してやるっ!」
スティングレーは興奮し息を荒げながら化物の入ったビーカーに備え付けられた、文字の映る液晶画面の様な水晶盤に指を触れ、食い入るように何かを入力し始める。
「クク……思い知るがいい……思い知るがっ――」
――――ダァン!!
だが、それはジャクソンの背後から放たれた1発の銃弾によって止められた。
「――ぐぁ!貴様ぁ……何をするっ!?」
スティングレーが仇を見る様な目で睨む先には、銃を構えたザックがそれを睨み返していた。
「悪いが、こんな化物を野に放つ訳にいかん」
「……くそっ……やったな。死んだぞ、お前の妻も娘も、お前が殺したんだぁーー!!」
背中に銃弾を受けスティングレーは血を吐きながらザックに憎悪の言葉をを吐く。しかし、ザックは決心した様に目を瞑ると再び銃を構えた。
「……アリシア、ミラ……すまない」
――――ダァン!!
放たれた銃弾を追う様に大きな銃声が部屋に轟く。
「……がっ、アぅ…っ……」
それを受けたスティングレーは声にならない声を出すと胸から大量の血を流し、口から泡を吐いたまま化物の入ったビーカーに縋り、動かなくなった。自業自得とは言え、何と無様な死に方だろうか。
「……ザック、良かったのか?」
「あぁ、2人も分かってくれるだろう。今更こんな事をしても遅いのは分かっている。
だが、この様な化物を見てしまえばな……俺はダメな父親だ………」
苦虫を噛むようにザックは複雑そうな表情を浮かべると愛用のマグナムを力無く降ろした。
「俺を責めないのか……ジャクソン」
「……まぁね。逆の立場だったら俺もオッサンと同じ事をしていたかもしれない。
それに最終的にはこうやって、また助けてくれただろう?」
自分の大切なモノとその他の大勢の命。その片方を切り捨てなければならない時、果たしてどれだけの人間がザックと同じ選択が出来るだろうか。それを考えれば、彼を責める事など出来無い。そう思った。
「……すまない」
ザックは眼を細めると歯を食いしばり頭を下げたが、
ジャクソンは気にするなと彼の肩に手を置いた。
「らしくないぜ、オッサン。それにまだ、2人を助ける方法が
あるかもしれ……って、なっアイツ!!」
――ガチャン!!
完全に話に気を取られていた2人の目を盗み、死んでいたと思っていたスティングレーがその隙を見て、ノスフェラトゥと呼ばれた巨大な化物を解き放った。
「――くそっ、お前っ!!」
「クク……お前達にも地獄を見せ―ぐげっ――」
――――ウォォォオォォォオォォォォォォ!!!!
眠りを覚まされた化物は地面を揺らす物凄い雄叫びをあげると、
足元に居たスティングレーをまるで蟻の如く踏み潰した。
そして、側にあった鉄のパイプを壁から引き剥がして、
ジャクソンを目掛けてユックリと近づいてくる。
「……これは洒落にならなそうだ」
即座にハンドガンを構えるが、そのまま撃とうとして躊躇う。
先程にベルセルク相手にも効かなかったショットガン以下の威力では、
あの分厚い筋肉に致命傷を負わす事など出来ないと考えたからだ。
「――来るぞ!」
ザックの叫びを聴いたジャクソンは突如振るわれた鉄パイプを目に収める。
斧の如く振るわれたソレの速さは常人に反応出来るレベルを超えていた。
――――――ブシャァッ!!
化物によって横に振り下ろされた鉄パイプはジャクソンの頭を捉えたが、
それを咄嗟にしゃがんで躱すと後ろにあったビーカーを粉々に粉砕して、
中で眠っていたベルセルクは一瞬で肉塊となった。
「ひぇ〜、なんて馬鹿力だよ……」
「ジャクソン、お前の得物ではコイツに勝てん。
1秒で良い……奴の動きを完全に止めてくれ!」
ザックは続け様にマグナムを撃って化物の動きを牽制し、ジャクソンを逃す為の時間を作る。そして使い切った薬莢を捨てると信じられない早さでシリンダーに弾をリロードした。
その中の1発には淡い緑色に光る弾丸を仕込んだのを見たジャクソンは、
彼が何をしようとしているかを理解した。
「――了解。ったく、無茶言うぜ……」
一見、デカイ図体でノロそうに見えなくも無いが、化物のキチガイ染みた腕力はそれを補う程に凄まじく、動きを一時的に止めるだけでも至難の技だろう。
更に貴重な魔石から削り出して作るFMJ弾は日本であれば1発で数千万円はする程高価なので、団員は1人1発しか所持していない。つまりチャンスはたったの一度きりという事だ。
しかし、他にあの化物に対抗する手は無い。
「――なら、やるだけやるってみるさ!」
ジャクソンは意を決してハンドガンを握り直すと、下手な射撃を化物に何発か当て、注意をザックから逸らそうとする……が、そんな豆鉄砲には興味がないと言わんばかりに無視される。
「にゃろう、無視するんじゃねぇ!」
華麗にスルーされたジャクソンは手短にあった鉄製のプレートを化物に投げつける。すると見事にそれが顔面に当たり、化物が恐ろしい形相で振り向いた。
――――ウォォォオォォォオォォォォォォ!!!!
アレ……、なんかヤバない?
予想以上に注意を引きつけてしまったジャクソンに化物が突進する。その様はまるでブレーキが壊れ暴走したダンプカーの如く、猛スピードで迫ってくる。
「くっそ、たかが顔に物が当たったくらいで、そんなに怒んなって!」
まるで嵐の様に振るわれる鉄パイプは部屋の中にあるあらゆる物を破壊し尽くし、化物が近づいた場所は瞬く間に廃墟と化した。その様な状況でジャクソンはひたすらに避けることに専念しながら、たった1秒のチャンスを伺う。
……落ち着け、チャンスは必ず来るはずだ。
ジャクソンは鉄パイプが振り下ろされるタイミングを見極め、既に十を超える回数を避け続けた。だが、床に散らばったガラスに足を取られ僅かに回避が遅れたのと同時に化物がジャクソンの左腕を掴んだ。
「――しまっ!!」
その次の瞬間、腕はグシャっという鈍い音を発して空き缶の様に握りつぶされた。辺りには鮮血が吹き出したが、ジャクソン自身も自分の身に何があったのか認識することが出来ない。
――――グォォォオォォォオォォォォォォ!!
だが、化物はそれに満足せず追い討ちを掛けるべくジャクソンを引き摺り引き寄せるとその動きを止めて鉄パイプを持った巨大な腕を振り上げる。
――――ダダダァウ!!!
しかし、それは1秒にも満たない一瞬の閃光により化物はジャクソンを手放し、膝をついて倒れた。
注視していなければ一体、何が起こったかも分からない程のザックの早業。ジャクソンに気を取られ動きを止めた巨人の化物の心臓に向け、1発目は強靭な皮膚に傷を付け、2発目で傷口を開き、3発目の本命で魔弾を直撃させたのだ。
まさに老練なザックだからこそ出来る神業であり、例えジャクソンが真似したとしてもマグナムの反動を抑えきれず、当たるかさえも怪しいだろう。
だが、そんな事を冷静に考えているジャクソン自身にはもっと別の問題が起きていた。
「――お前。その腕、大丈夫……なのか」
まるで干しトマトのように見るに堪えない状態になった左腕。それを少し戸惑いの表情を見せながらも、ジャクソンは不自然な程、平然と眺めている。
「……それが、ほとんど痛く無いんだ。一体どうなってるんだ……俺」
「お前、まさか……」
そう。本人は痛みを感じないその本当の意味をまだ知らずにいたが、
ザックは悟っていた。それがウィルスの侵食によるものだと。
17話目です!更新が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした(ノД`)シクシク
最近、少しづつ書き方を変えてるのですが、中々うまくいかないのですね。
もっと読みやすく文章を書くのはどうすればいいんだろうと悩み中です。。
毎日アップしてる人とか、本当にすごいと思いますよ、ホント……
PS
ブクマありがとうございます。FPSは皆さんのおかげで続いております!