FPS(ファンタジー・プレイ・ストーリー) Prologue
※ iPhoneでの参照を推奨しています。
--------------------------------------------------------
Prologue――
「――クソ!スマンやられた!!」
遠く離れた建物で激しい銃声と共に親友である、大地の断末魔が鳴り響いた。
あと部隊で残っているのはこれで自分1人だけ。まだ3人も敵兵が残っている今のこの戦局は絶望的な状況と言える。だがそれも無理は無い。相手はあの悪名高い“hate”という名の部隊なのだ。
彼らは勝利の為にどんな手段でも使うと有名で、これまでも幾多の汚い手で最強の座を欲しいままにしてきた連中である。
そんな連中を相手に5人居た味方達は戦闘が開始されて間もなくに反則まがいのエゲツない方法で、皆アッサリと殺されてしまった。
この戦場での勝利条件は敵の部隊を全員殺すか、所持している携帯爆弾で相手の本部(HQ)の爆破することなのだが、既に味方がいない自分はこの広い敷地を1人で防衛しなければならないというのが、今のおおよその状態。
まぁ、簡単に現状を表現すれば”絶体絶命”といった感じだろう。普通ならこの状態から勝利するのは当然諦めると思う。負けたとしても別に恥では無いし、早々に死んだ味方達を恨めばいいだけのこと。
――でもさ、男なら負けられないよね!
このCall of Dirty (コール・オブ・ダーティ)は、近年流行しているFPSと呼ばれるジャンルの有名なネットゲームで、アメリカを始めとして世界中に1億人を超えるプレイヤーがいるといわれている。
しかし、人が増えれば問題も起こる訳で……。
ゲーム性を損なう違法ツールやボイスチャットを使った誹謗中傷行為など、今では巷でも“民度”の低いゲームとして卑下されてしまっていた。
そんな混沌とした中でもジャクソンがこのゲームにのめり込んだ理由はひとえに、他のゲームと違い個人差があれどやればやる程、自分が強くなっている事が実感できる点にあった。
だが、このゲームを始めて1ヶ月くらいの時に、目の前の奴ら“hate”達に遭遇してしまったのだ。
当時、まだ新兵だったジャクソンは彼らと偶々対戦することになり、彼らの狡猾で圧倒的な強さの前にまるで蟻を潰しているかの様に幾度なく殺され、ジャクソンは自分自身の無力さを知る。
――0キル 119デス
恐らくこのゲームをやっている者であればこの、悲惨な数字の意味が分かるだろう。
その時の光景は既にゲームと呼べるものでは無く、まさに一方的な虐殺といえるものだった。同じ部隊に居たフレンドなどはそれがトラウマとなり、対人恐怖症になってしまったらしい。
だが、ジャクソンはその悔しさを糧に決意した。
「俺より強い奴に会いに行く」と勤めていた会社を辞めると、このゲームをひたすらやり続けたのだ。
気がついた頃には既に飲み食いすら忘れ、現実でもスナイパーの狙撃を警戒して、窓から頭すら出せなくなっていた時期さえもある。
まさにネトゲ廃人。もしくは中毒者といった例えが正しいだろう。それでも確かめたかったのは才能の欠片さえ無い自分が努力だけで、“いったい何処まで強くなれるのか”だった……
そして、月日が経ちジャクソンは世界でも5本の指に入る程のランキングプレイヤーになっていた。
今では彼が新兵狩りをする連中を逆に狩る立場となり、ひたすらに彼らへ”分からせる”だけの作業を続けた。最初はちっぽけな正義感だけで始めた筈の”弱きを助け強きを挫く”なんていう行動はいつの間に形を変え、ジャクソン自身も彼らと同じ様に狩りの快楽を貪るようになっていた。
そんな日々を続けていると、もちろん反感を買うわけで……他のプレイヤーから妬みや嫉みは激しさは増していくのは当然だった。
ある時からジャクソンはチーターと呼ばれる違反者ではないか?という噂がネット掲示板で酷く流布されるようになり、どんなに頑張ったとしても「チート乙」の一言で片付けられてしまう様になった。
何をしても違反者と罵られて評価さえされずに、これまでの努力すらも否定されてしまう。
そんな状況に困り果てたジャクソンは大地にその事を相談すると「実際に操作してるところ見てもらえば良いんじゃね?」と言う彼の思いつきの一言でこの事態は解決することになる。
パソコンとかに疎いジャクソンは大地に頼みソフトの設定をしてもらい、インターネット上で実際にプレイしている画面を人気の動画サイトで配信することにした。
大地が勝手に付けた放送名は“じゃくそんの奇妙な冒険”という変なタイトル。
ちなみにジャクソンの本名は“鈴木 ジャクソン”で、ハーフなどではなく純粋な日本人である。
「っていうか、本名出すなよ!」とツッコミを入れたけど「大丈夫。気づかれへんから」とそのままで続行され、彼の言われるがまま配信は開始された。
既にネトゲ廃人となっていたジャクソンは社会人としてのコミュニケーション能力さえ失われていたのだが、今考えると良くやったな……と思う。
最初は見てくれる人がいつも2、3人だけという感じで有難いけど少なかった。でも地道に試行錯誤を続けていくと常連さんも増えて10人、30人、50人とその数は徐々に増えて賑わっていった。
それから間も無くそのリスナー達のお陰で違反者の汚名は払拭することが出来たのだが、その代償としてチーターを凌駕する変態的な強さから“変態スナイパー”という名誉か不名誉か分からない呼称で呼ばれる様になっていた。
そして、ある程度の人気配信者になってくると、横の繋がりも次第に広くなってくる。それは国内外問わず同じで、Call of Dirtyファンやプレーヤー達にもジワジワと伝わっていく。
そんなある日、いつも通りに“じゃくそん放送”をしていると“Mr.Dirty”というプレーヤーから一通のメールがジャクソンに送られてきた。
――Kick your ass!――
メールの内容はたった一文だけだったが、名前の割に英語が分からないジャクソンは「どういう意味?」と、リスナー達に聞いてみると意外な答えが返ってきた。
――たぶん「勝負しろ!」って言ってる
――"Mr.Dirty"って、確か'hate'のリーダーだよね。今、ランキングの何位だっけ?
――'hate'は今、世界で1位のクランだお!
――じゃあ、世界最高のクラン対世界最強プレイヤーじゃん。スゲーな!!∑(゜Д゜)
と教えてくれた。
突然の招待から始まったこの戦いは"最強クラン"対"最高のプレイヤー"という構図となり、世界中へと配信される事になった。
恐らくは連中が炊きつけたであろう世界中からのリスナー達の数は既に数十万人を超える規模となり視聴数の上限に達した。そして、今に至るという訳だ……。
「――さて、借りを返させてもらうかな……」
ひと息ついてから愛銃である"L96"というスナイパーライフルを構え直し、大地が殺られた時に銃声が聞こえた建物をライフルのスコープで覗く。経験上になるけど、待ち伏せされ易い正面の入口から出てくるとは考え難い。つまり相手の行動は自ずと推測が出来る。あとはタイミングの問題。
建物の裏口はここからかなり距離があり、ゲームの画面だと僅か1ミリ程の隙間しか見えない。だが、よく訓練されたジャクソンにそれは些細な事だ。
息を止めて、敵が建物から出てくるのを待つ。
そして1ドットに満たない僅かな変化に反応し、ジャクソンはコントローラーのトリガーを引く。
――ドゴォン!!
銃声と共にスナイパーライフルから、一発の弾丸がジャクソンの想定通りの軌道で放たれる。
「ヒュー、何てお上手なんでしょう。僕っ!」
自分でも自画自賛出来る程の手応えにその結果は既に見るまでも無いだろう。
だが、まだ気は抜けない。残った敵は"Mr.Dirty"とその腹心であり、彼らはとことん世間で”汚い”とされている装備で完全武装している事は確実だ。
今の狙撃でこちらの場所は奴らにバレている筈。スナイパーは狙撃に特化している分、敵に近づかれてしまうと致命的に不利となってしまう。
だから普通は1度狙撃したポイントからは離れて、新たな建物で様子を伺うのが正しいスナイパーの立ち回りだ。でもそれは恐らく奴さんも想定済みの事で、何かしらの対策をしている可能性が高い。
――では、それにどう対処するか?
「ここを拠点とする!」
ボロっちい部屋で1人仁王立ちでそんな宣言するジャクソン。目には目を罠には罠をという訳だ。そそくさと入り口の1つにクレイモアと呼ばれる地雷をセットし、その裏手の入口にスナイパーライフルの銃口を向けて構える。
――さぁ、来るなら来いさ!
ジャクソンは覚悟を決めて息を潜める。そして、窓ガラスが割れる音が戦闘開始の合図となり、部屋の中へスモークグレネードが何発も撃ち込まれると、辺りは煙で何も見えなくなる。
さすがは“hate”。スナイパーの弱点を熟知していらっしゃる。一撃必殺が大前提となるスナイパーにとって、この状況は目を奪われたのも同然となる。
「コレはピンチですな……」
だが、こんな趣向を凝らすという事は奴さんからこの部屋に飛び込んで来てくれるということに他ならない。つまり、こっちは……
そのまま微動だにせず排出されるガスの音を聞きながら、敵が部屋の中に入ってくる音を探す。
そして「カモン!」と下手な英語で挨拶を交わすと躊躇なくトリガーを引いた。再び、ライフルから銃声が轟くと煙で何も見えない画面上にポイントが表示された。結果は限りなく上々だ。
これで残りは1人。だが、その安堵と同時に敵の爆弾が設置された事を知らせるマークが画面に表示され、爆発までの残り時間が刻一刻と進む。
まさにしてやられたといった感じだ。恐らく仕留めたプレイヤーは囮だったということだろう。
「アウチッ!どうしたら良いんだ!」
しかも部屋の中には煙がだいぶ残っているので、敵の居場所も分からない。けれど、この部屋の中の何処かに彼は潜んでいるだろう。
奴さんが爆弾を解除している隙を狙っているのは明白。しかし、このまま爆弾を解除しなければ敗北となり、解除中に殺されても敗北という分の悪い状態。さすがというべきか何と言うべきか……。
刻々と敗北までのカウントダウンが進んでいく中、ジャクソンはひとつの決断をする。
「クソっ、やってやんよ!」
ジャクソンは突然そう叫びながら爆弾の設置されている所まで滑りこむと携帯爆弾のフタを開けて、ピ・ポ・パと解除に励む。解除まではたった7秒……だが、その間に全神経を研ぎ澄ます。
……5…4…3…2…そして、残りはあと1秒という所で"Mr.Dirty"の消音装置付きショットガンからジャクソンの背後を完全に捉えた銃弾が放たれた。
「――殺られるって、おもうじゃん?」
パタン!と爆弾解除を最後の1秒でわざと止めたジャクソンは"Mr.Dirty”の放った散弾を無理やり身体を横に逸らして何とか致命傷を避ける。
その想定外の動きに驚いたのか、"Mr.Dirty”はその手に持っていたショットガンの次弾を装填してしまったのだ。その、たった1秒にも満たない動きがこういう時には致命的となる。
ジャクソンは"Mr.Dirty"の銃口がこちらに向く前にセカンダリー武器に切り替え、ベルトのホルダーに刺さっているバリスティックナイフという2本の飛出し式ナイフを敵兵の眉間へと突き立てた。
それはまさの神業と言える一瞬であった。
ジャクソンの信じられない逆転劇に"Mr.Dirty"のアバターである兵士は忌々しい形相のまま血を噴出してその場に崩れ落ちる。
『ヒィィィッーハァァー』
『グッ、ジョブ!?』
『ビュティフォーーーー!』
『クソが!感動して…目から汗が出たわ』
先に死んで戦闘を観戦していた味方達から、ボイスチャットで音割れがする程の歓声が挙がる。彼らもヒヤヒヤしながらジャクソンのプレイを見守っていたのだろう。でも、勝てたからドンマイだよね?
「ナッハッハーっ!まぁ、天才ですから!」
最高潮に達したジャクソンの有頂天に「………」とリスナー達のチャット欄が鎮まり変える。
そして……
『やっぱ、ジャクソンキモ~イ。サイコーw』
『さすが”変態スナイパー”ブレないね(笑)』
『ファック!自惚れんなww』
『変態という名のスナイパーさΣd(゜∀゜d)』
そんな様々な人々からドバっと批判とも称賛とも取れるメッセージやコメントが大量に送られてくる。 最初は何となく始めたインターネットでの放送だったけれど、頑張ってきてよかった。
だが、これまでひたすらに求め続けた”世界最強”という座を得たジャクソンにとって、これは夢の実現と共に”終わり”を意味していた。
――ジャクソンはゆっくりとコントローラーを置くと、それと同時に一つの決心する。
「やっぱ、ジャクソンうめーわ!」
大地からのボイスチャットで声が掛かる。
世界ランク1位を欲しいままにしていた“hate”を相手に親友と偶然マッチングした名も無きプレイヤー達と共に勝つことが出来たのだ。これは事実上、世界一のプレイヤーとなった事に等しい。
「ふっふっふ、当然!もっと褒めてくれたまえ」
「前言撤回、チート乙!」と大地がからかう。
大地は小学校からの幼馴染でこのゲームにジャクソンを貶め入れた張本人だった。
彼は俗にいうゲーマーなのだが、ゲームは下手でいつもクリアが出来ない。それでも好きなゲームが出る度に新しいソフトを買っていく作業が続いて、今では部屋に積まれたゲームソフトの山がバベルの塔の如く、天井に届くまで積み上げられている。
以前、その積み上げられて保管(放置)されているゲームを見て「全部、売れば?」と言ってみたけど、「俺はこのバベルを眺める為に生きているんだ」と、彼は一人でアホな事を言っていた。
そして、そんな大量の積みゲーの中から見つけたのが、この「Call of Dirty」というゲームだ。
大地から「めっちゃ面白いから、やってみろよ!」と勧められて嫌々やり始めたのが3年前。その日から廃人となる今に至るまでひたすらに走り続けてきたが、それももう限界だった。
会社を辞めてから既にかなりの月日が経過して、失業保険と貯金すらも底を突いたジャクソンは世界最強プレイヤーの栄光と引き換えに現実では全てを失ってしまったのだ。
「燃えたよ、燃え尽きた、真っ白にな……」
そう、もう社会復帰とか無理です。
家に引きこもりガリガリとなった身体は椅子から立ち上がる事すら悲鳴を上げて拒否してくる。そういえば、もう5日は何も食べて無かった気がする。
(このまま寝たら死ぬかもな。それも良いか……)
少しづつ失われていく意識の中でリアル廃人と化したジャクソンはボーっとゲーム画面を見つめる。
「あれ、なんだろう?」
表示されていた選択画面に一人で自問する。
――アップデートがあります。契約しますか?――
確かこのシリーズは数ヶ月前にアップデートが終わった筈だ。次のシリーズの発表でもあるのかな?と最後の力を振り絞って決定ボタンを押す。
「久々のアップデートだ。ハハっ…何が追加されるんだろう。やってみたかったな……」
思ってもない死際のサプライズにNow Lording ……と表示された画面をただ見つめ続ける。
しかし、その画面はいつまでも終わる事は無く、ジャクソンの意識も静かに途絶えた。




