後日談ならぬ後日談
この話の締め。という後日談的な物。
鬼を見事に追い返した、俺たち二人は、互いに称賛の言葉を交わしあっていた。でも、それは仮初めの言葉に近かった。
それは、ただ追い返したところで、根本的な解決にはならないからだ。何故なら目的は、追ってきた妖怪が、二度と来ないように追い返すことだからだ。今回は妖怪が悪役がよく使う、『よくもやったな! 覚えてろよ!』みたいな言葉を残して、鬼は去っていった。つまり二度と来ないように追い返せてない。
まあ俺はそこに不満は持ってない。だって、明らかに鬼より詩乃音の方が強かったし。
またあの鬼が、この町に来たとしても、今日のように追い返してしまうのだろう。そして、また悪役の如く言動を見せて去るのだろう。
これではループだ。可哀想なループだ。どうしようもなく残念なループだ。鬼はただ負け続けるだけのループだから。
と、鬼の話はここまでにしておいて、その後の経過をそろそろ話そう。
ここで表すべきは、一言で言うなら、【詩乃音はしばらくこの町に滞在する】。ということだけ。
少し詳しく話すと、俺の無駄な力のせいで、詩乃音はこの町にいないといけないからだ。居なくて良いと言えば良いのだけれど、それでは妖怪が襲ってきた時に対応できないのだ。俺が近くに居なければ、彼女は戦えないからだ。
そして、翌日。俺は詩乃音と、近所の公園にて今後の話し合いをしていた。
「──結局今回の話は、めでたしめでたしだったよな。良かったよ。とりあえずこの事件は完って感じだな。じゃあ終わろう」
「全然めでたくないよ! 全然良くないよ! 全然完結してないよ! 終わっちゃいけないよ!」
終わらせようとしたところを、しっかりと突っ込んで止めてくれる。こんな、健気なところに好感が持てる。
「まだまだ問題は山積みなんだからね」
そう言って詩乃音は続けた。
間違ってない。疑問はたくさんある。
詩乃音が言うに、俺が天狗に会った後だ。雰囲気や力の感覚が全く変化していたそうだ。俺が天狗に何かされたのではと言われたが、もう天狗と何を話したのか、あまり覚えてない。つまり、何かしたかされたかなど欠片も覚えていない。ただ、詩乃音を助けるために質問したことは覚えているが。
でも、そんな問題より、一番の問題は詩乃音の力の事だ。
「──とにかく、まだまだ夏休みだし、時間はあるから。何か力を取り戻せる方法を探してみよう。まあ、簡単に見つかるものではないと分かるけど、何もしないわけにはいかないからな」
「と、思ってくれてると思って、霊能関係に詳しい人の連絡先とかまとめてみたよ」
詩乃音は、ベンチに隣り合わせに座る俺たちの間に、メモを置く。
「手際がいいな……」
「そうでしょ? だてに何度も妖怪と張り合った訳じゃないから。それと──」
詩乃音が俺に何かを放り投げてきた。
キャッチすると、ペットボトルの感触。中身が入っている。これはもしかして──
「──グリーンDAKARAじゃないかこれ」
「そう。ありがとう、的な物だから。お礼って言うか……ね?」
奇遇だ。DAKARAに何の恨みがあるというわけではないが、皮肉じみたように、視界に映りこんでいるDAKARA。奇遇だ。
「奇遇だな。俺も……ほらよっと」
俺も同じく、DAKARAというラベリングの施されたペットボトルを、詩乃音に放り投げる。そして互いに苦笑を浮かべた。
「これはあれだ。倒せてよかったね的なあれだ」
「DAKARAといって、だからを選ぶのはどうなんだろうね……」
「お前もじゃないか。後、何かおかしかったぞ」
詩乃音は、受け取ったペットボトルを開けて、中身を少し飲む。そして俺に言った。
「──これからよろしくね、千九咲」
笑顔と共に放たれた言葉に、他意がないと分かっているが、他意を感じさせたその笑顔は凄いものだ。
俺もまた、今できる最大級の笑顔で言ってやった。余りにもしつこいDAKARAのネタに、イラっときたせいで、ちゃんとした笑顔になっているかは分からないが。
「ああ、これからもよろしくな、詩乃音」