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吸収と不思議

────────────



「よう、ただいま」


 俺は天狗との謎の雰囲気やら何やらに満ちた談話を済ませ、自宅へと帰宅し、そしてそのまま自室へと。

 体調が治ったのか寝たきりが疲れたのか、どちらかは分からないが、寝かせていた詩乃音はベッドに腰かける状態に変わっていた。


「気分はどうだ? 悪くないか?」


 詩乃音は首を振って答える。


「うん、大丈夫だよ。……あの、ありがと…… なんて言うか助けてくれて」


「当然だろ、助けるなんて当たり前の事だ」


 ちょっとかっこつけて、微妙に声を変えて言ってみた。

 詩乃音にそれと言った反応はない。ちょっと、ほんの少しだけ…………いややっぱりすごく空しく感じた。


「ところで詩乃音。わざわざ追いかけてきて、お前のような女の子を襲ってこようとする、物好きな鬼の居場所は、分かったりしないものなのか?」


「あれ、何か鬼について、変な意味のニュアンスで聞こえた気がするよ。後、私に対しても……」


「気のせいだ、両方とも気のせいだ」


 別に狙ってなんかない。鬼を含めた妖怪達を、ちょっと小馬鹿にしたつもりはない。

 ふーんと言った感じで、こちらを見つめてくる詩乃音。


「鬼の場所は分からないんだよね、困ったことに……。だからいつ襲ってくるかも分からない」


 それは困った問題だ。早く鬼を追い返したい思いから、天狗とのトークショーをカットしたというのに。

 それはそうと天狗の力によって、天狗に対して何の不思議も思えないように、感情……脳を操作されていた俺。カット部分より、完全にフレンドリーな関係に至っていたのだが、それに対しても不思議と思えない。不思議と思えないことを不思議と思えない。まるで、本当に謎だ、不思議でなく謎だ。不思議と謎は同じと言えるのだが、場合によって、微妙に意味合いが変わってくると俺は思う。


「場所が分からないのか……それは結構困る事だぞ」


「んー、ごめん。でも、私が休んでいた場所の近くの山の中、そこに鬼は潜んでいると思うんだ」


「何でだよ?」


 疑問をもった俺は、詩乃音に聞く。すると、詩乃音がはっきりと答える。


「鬼と戦った場所DAKARAだよ」


「えっ、ダカラ?! グリーンダカラ?」


 妙にDAKARAというか、ダカラというか、……だからが強調された気がした。きっとこれもまた気のせいだろう、ダカラ……じゃなくて、だからがDAKARA。みたいなローマ字で表されてるなんて恐らく気のせいだ。

 仮にギャグだとするなら、何故このタイミングでぶっこんできた。


「気のせいだ、そう、気のせいさ」


「何が?」


「何でもないよ。ところで、さっき天狗に会ってきた」


「ええっ!? 随分とさらっと言うね!」


 何か随分と驚いている。そう、不思議に思うことでもなかろうに。


「聞いてきたんだ、お前を助けるために。その方法」


 語る。

 方法を。

 聞いたことを。


「実は……困ったことに驚いたことに、俺には妖怪の妖力を吸収する力があるらしい……」


 俺自身、驚きのあまりズッコケそうだった。だが、そこまで凄いと言ったものではなかった。


「だけどこれは、俺とお前が人間と元人間という関係からくるものであって、他の妖怪には関係ないらしいな」


「何その特別感……いらない特別感だね」


 不満そうに呟く詩乃音。


「簡単に説明すると、俺が詩乃音の妖力を吸いとったせいなんだよ」


「……」


 不思議な会話が不思議に感じれない。お得だな。……何がお得なんだよ。


 黙った詩乃音に続けた。


「詩乃音、それでも方法はある。俺が近くに居ればいいんだ……行くぞ」


 リンク。

 天狗の言った俺の力。この力は妖力を吸収する能力なわけだが、この力にメリットはなかった。実際、詩乃音はこの力により妖力を吸われ、まともに戦うことができなくなっているし、俺に何かいいことがあったわけでもない。


 強いて言うなら、妖怪が見えること。吸収した妖力は、俺の体内に蓄積されていて、その妖力が視覚的に影響を与えているのだ。


 今回の問題である、詩乃音の能力について。それは天狗によると、解決方法が二つあるらしい。

 一つ目は俺から離れること。俺から離れることで妖力の吸収を防ぐ。ことなのだが、天狗が言うには、吸収された妖力が元に戻ることはない、と言うことでこの案は却下となる。当然の事だ、いくら力の低下を免れても、戦闘能力低下状態で戦わねばならないなら、意味なんてない。

 と言うことで、今回使用する案は二つ目。それは逆に俺の側にいること。俺の側にいることで、力は低下していくが、……人間と元人間の微妙な繋がり、リンクによって俺に蓄積された妖力を使用できるらしい。流用みたいな。


 つまりは、俺に蓄積された妖力を使うことで、詩乃音は通常通りに戦えるということだ。まぁ、それには俺が常に側にいることが、条件であって、俺も鬼と戦うことになるのだろう。全くもって恐ろしい。


 という話を詩乃音にしながら、鬼との大々的戦闘を繰り広げたという山へと向かっていた。


「私が千九咲を抱えて戦えって事だよね。それって」


 自転車の後ろに座っている詩乃音が言う。

 現在自転車で二人乗り中だ。


「そう……なるのか? でも無理だろそんなの。てか嫌だよ俺、かっこ悪すぎだろ」


「かっこ悪いとかは置いといて、私は一応妖怪だし、千九咲ぐらいなら余裕で持てるよ」


 何それ、怖い。圧倒的怪力じゃないか。


「何それ、怖い。圧倒的怪力じゃないか」


 思ったままに、そのまま声に出して言うと、ドンッと背中を叩かれる。自転車のバランスが崩れかけた。


「おいおいおいおいおい。危ないって! しかもかなり痛い!」


 かつてない、ヒリヒリとした痛み。


「女の子にそう言う事は言わないもんでしょ!」


 ちょっと怒ってるかも……。

 もう言わないから、DAKARA許してくれと……乞いたい。……DAKARAじゃなくてだからだ。


「ところで、鬼と戦う前に遺書を書いておきたいんだが……」


「大丈夫だから! そんな、俯きながら悲しそうに言わないで!」


 正直、俺には詩乃音のような妖怪的な能力などがないので、言うなれば、手袋VS金属バットに近い……。分かりにくい? いや、確かに例えが悪かった。──子供が大勢の大人に立ち向かうようなもの、とでも言っておく。なので、割と大真面目に遺書でも書いておくレベルなのだ。


「千九咲は近くで隠れてればいいから」


 詩乃音はそう言うが、俺が助けるとか言っておいて、何もしないのは、流石にいろんな意味で心が痛い。


「そんなこと言っても、俺はお前を助けるって決めたのに!」


「ごめん、千九咲。私の言い方が悪かったみたい」


 詩乃音が反省したように言った。そしてそのまま俺に告げる。


「多分、鬼と戦う中で千九咲は役に立たないと思うから。あっ、それに危険だし」


 言われた。言われてしまった。

 対人間ならまだしも、対妖怪での戦闘能力は皆無のこの天城千九咲である。少し前ぐらいから懸念していた、役に立たないというレッテルを見事に貼られた。しかもフォローとは言えないフォローをもらった。

 兎に角、そんな役に立たない俺の目の前に山が見えてきた。


「山だ、山だ、山田、山だ、山が見えてきたぞ!」


「一つ何か違うものが混ざってたような……」


 詩乃音、きっとそれはまたまた気のせいなんだと、俺は思うよ。


「駐輪場に止めるか」


「駐輪場なんかあるの?」


「あるよ、ここには神社があるからな。善ノ宮っていう神社が、山を少し登った所にあるんだ。まあ、そういうことで駐車も駐輪もできるんだよな。今回はそこには用は無いけどな、駐輪場くらい貸してもらおうぜ」


 俺はそう言って、駐輪場へと自転車をこぐ。駐車場と駐輪場には、数台の車と自転車が見える。俺は自転車を駐輪場に止め、自転車から降りた。


「ほら詩乃音、降りろよ」


「よっと」


 詩乃音がピョンっと自転車から降りた。

 すると、詩乃音は山の方を向いて言った。


「行こう」


 ほんの一言。

 詩乃音はそう言った。

 鬼との戦いがついに始まろうとしている。俺の握った手の中が少し湿ってきた気がする、緊張の汗だ。


「ちょっと深呼吸……すぅー、はぁー」


「だから千九咲は隠れるだけでいいというのに……」


 隠れるだけとは言っても、それでも緊張しないわけではない。それに。


「それでも、ただ隠れてるってわけには行かないだろ。もしもの時は俺が助ける、絶対に。囮になってでも」


 そう言って俺は山の中へ進んでいく。

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