天狗と終わり
天狗が黒い球体を作り出し、それを俺に放つ。
俺は二つの刀を巧みに操り──いや、二つの刀が俺を巧みに操り、球体を切り裂く。
「うおおおおおおおお!」
天狗がいくつもの球体を生み、それを俺に飛ばしてくるが、その全てを切り伏せる。
奴に走り込みながら球体を防いでいるので、少しずつ距離は縮まり、防御が難しくなってくる。
「でも、関係ねぇ!」
やがて、距離は数メートルの間合いになり、俺は跳んだ。刀の力が加わり、五、六メートルは跳躍することに成功。
「ここで殺せたとしても……何も変わりはしないぞ」
天狗が言う。
「何も変わりはしない? そんなことは絶対にない! 今ここでお前を倒せば、少なくともこれから苦しむ人たちはいなくなる!」
そして、
「俺が救うよ。お前のせいで悲しい思いをしている人達を、みんな救ってみせる」
救おう。俺が全部救うんだ。
詩乃音のときのように、ただの話し相手くらいにしかならないかもしれない。
神崎のときのように、俺ではなく他の人間のお陰で助かるのかもしれない。
火紅涅のときのように、何もできぬまま隣に居ることしかできないかもしれない。
それでも必ず俺が見つけて、助けよう。
天狗によって作られた悲しき化け狐達を。
「終わりだよ、これで」
俺の両手に握られた、二本の刀が、天狗を斬った。
圧倒的なまでの斬殺。微塵切りのようだった。
俺の体が全自動殺人マシーンのように、最適な動きで、天狗を最小になるまで、最速で切り刻む。
僅か数秒の出来事。
俺が跳躍から地面に着地したとき、後ろにあったのは、天狗の残骸、細やかになった亡骸だった。
「…………」
俺は振り向き、残酷な死体を見る。
「!」
悲惨な死体から紫に光る光球が飛び出してきた。
「な、なんだ!?」
光球はその場に留まることはなく、小鳥のようにどこかへと飛んで、空に消えていった。
「なんだったんだ…………あっ、朽木さん!」
俺は思い出したように名を叫び、倒れている朽木さんの元へと駆け寄る。
ついに、戦いは終わったのだろうか……。
それは分からないが、今はとにかく………………。
待つしかあるまい。
何かが分かるまで────。
そして、今やるべきことは朽木さんを助けることだ。
「病院に連れて行かないと……」
天狗に吹き飛ばされた神崎と詩乃音……。
無事だよな……。
俺は、意識を失っている朽木さんを背中に背負い走り出すのであった。




