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雷の空襲

────────────


「──見つけた! あれだ!」


 詩乃音の肩の辺りにしがみついている俺は、彼女が跳躍し数十メートル跳び上がっている最中に奴を見つけた。

 骸と神崎をその目に捉えた。

 俺の目に映るその状況は、つい最近神崎が骸に跪いていた時のシーンと重なった。


「ぶっ飛ばせ詩乃音!」


 電話で朽木さんから伝えられた居場所は小さなビルが建てられようとしている工事現場だったが、俺達がそこに向かっている間に少し移動したみたいで、今は人気の少ない道路に居た。


「了解!」


 俺の指示に詩乃音は了解する。

 地上より二十メートル、それ以上あるかもしれない位置から詩乃音は、骸の攻撃である極太レーザー並の規模の電撃を繰り出した。

 超肥大電撃は骸へと直撃する。

 着弾時の大きな音と凄い煙で骸にどれ程のダメージが入ったのか、視覚で確認することができない。

 聴覚的にはかなりの損傷を与えていても不思議ではないのだけれど。


「どうだ……」

「足止め位にはなるんじゃないの?」


 俺達は道路に着地する。神崎がこちらに気付いた。


「神崎大丈夫か?」


「大丈夫なら私は助けなんて求めないわよ。それにしても随分と遅かったわね? 後もう少し遅かったら殺されててもおかしくなかった……」


 余裕の表情で強がるようにして、弱気に言う神崎。


「それは悪かった、生きてるから良いじゃないか」


「それって結果論?」


「そうとも言うよな」


「それ以外に言いようもないわよ」


 どうやら精神的には無事のようだ。


「神崎、こいつは俺の友達……妖怪友達の詩乃音だ。ああ神崎の事は伝えてあるから自己紹介は無しでいいぜ。て言うかしてる暇がない」


「私の名前は夏川詩乃音。よろしくね、神崎さん」


 手を軽く振って笑顔で挨拶する詩乃音。


「こちらこそ、私は神崎禊って言うの」


 と、返す神崎。自己紹介は無しと言ったそばから自己紹介してる二人に少し呆れる。そんな暇ではないぞ。


「にしても良く生き残れていたと思ったよ。ああ言うのは死亡フラグだろ?」


「そうね、そんなフラグをへし折るのが私の役目だから仕方がないよ」


「サイコキネシスってところか? お前の能力は」


「それに近いわね。一つ違うのは視認できるものなら、どんな物体、物質でも動かせるって事。普通のサイコキネシスって炎とか霧とかそう言うのは操れないイメージがあるじゃない」


「確かにな、上位版って言っても差し支えない力だ」


 本題に移ろう。

 神崎に今からやることの目的を伝えなくては。


「それじゃあ神崎、早速だけれど戦うぞ。いいか、骸を倒す方法は一つ、この前俺と朽木さんがやろうとしていたのと同じで、惡ノ宮にある朽木さんの造った術式に引っかける、それだけだ。つまりはそこに誘導していくってこと」


「なるほど、ここから惡ノ宮まで大体百メートルそこらかしら? 詩乃音ちゃんがいるから、難易度は一人よりもかなりの低いと思う、だからこれはイージーなミッションね」


「神崎さん、私をそこまで過大評価するのは……」


 詩乃音が焦りながらそう言う。


「いいえ、今の電撃は正直驚いたわ。びびったわ。敵じゃなくて良かったと心底思うくらいの威力よ」


 ──もっとも、骸にはそれが通用していなかったのだが。


「悪いけど二人とも、早くしないとヤバイと思うんだが」


 俺が確認のために徐々に晴れてくる煙、見ていたら中にいた骸が見えてきた訳なのだけれど、奴は全くの無傷で、新品同様の人骨模型のようだった。


「分かった! 千九咲早く、背中に」


「お、おう」


 女の子の前でその視線を浴びながら、他の女の子の背中に抱き付こうとするのは正直気が引けた。

 気が引けたっていうか、単純にやりたくなかった。


「何ともシュールな図……」


「う、うるさいな。神崎も早く行くぞ! 鬼ごっこの要領で骸を連れていくからな!」


「はいはい」


 と、その瞬間、俺の背中に悪寒が走る。

 もしかすると詩乃音も神崎もこの悪寒を感じていたかもしれない。

 ……少なくとも詩乃音は感じていただろう。

 惡ノ宮に向かおうと走り出し、骸に背を向けた瞬間。

 奴は詩乃音の電撃に勝るとも劣らない超巨大な規模のレーザーを放ってきたのだ。

 悪寒を感じて間もなく放たれた光線に俺は反応することしかできなかったが、詩乃音はそれに反応して対応した。


「くっ!」


 咄嗟の対応。

 詩乃音もその光線と何ら遜色のない電撃を放ち、それにぶつける。

 つばぜり合いのような光線と電撃のぶつかり合い、火花のような綺麗な物を散らし、数ミリ前を特急列車が通るかのような轟音が鳴り響く。


「神崎!」


「分かってる!」


 神崎が助けに入る。のだが……。


「駄目……威力が強すぎて……ぶつかり合いの力が凄すぎて私の能力じゃ」


 俺を逃がす際に光線の軌道を逸らしたりしたが、恐らくそれで既に限界だったのだろう。詩乃音の電撃の力も合わさるような形になり、それを押さえ込めるほどの力は出せないということだと思われる。


「詩乃音行けるのか?!」


「た、多分……」


 苦しそうに詩乃音が言うと、前に鬼と戦った時に使った技を発動させた。

 空中に雷の球体……衛星が出現する。

 それはだんだん大きさを増し、そして骸に向かって一気に槍が伸びるようにして電撃を発射された。


 命中した骸は衝撃で道路横のブロック塀へと激突。そして破壊、ブロック塀が崩れていく。

 ぶつかり合っていた電撃と光線は、それと同時に相殺して消えた。


「今のうちだ!」


 俺達は惡ノ宮方面へと走りだす。

 

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