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もしもの時

「こっちであってる? 一応地図は見てるけど自信ないなぁ」


 神崎がウーンと悩んでいる。


「あってるよ、ここら辺りは少し記憶にあるんだ。昔……いや、昔という程前のことじゃないかもしれないけど……来たことがあるからな」


 うろ覚えと言った感じだけど、こうやって周りを見ながら歩いていると記憶がはっきりしてくる。


「……天狗を追っていたゴーストバスターか……、天城くんはその人の家に何か手がかりが残されていると思う?」


 神崎は指を唇に当てながら言った。


「どうだろうな、そいつが何を目的に天狗を追っていたかによるんじゃないのか?」


「目的ねぇ……、天狗に何かさせるとしたら何があるかな」


「そうだな……例えば、……人を生き返らせるとか」


「……まあ、有り得ない話ではないよね」


 そう、有り得ない話ではない。それにそう考えてみると……、


「天狗は人を生き返らせる事ができるほどの力を持ってる。それほどの力があるなら、他のこと……大抵のことを思い通りできるかもしれないとは思わないか?」


「あぁ……なるほど。確かにそれはあるかもね、私も多分それを考えると思う」


「まぁ、全部この住所の場所に行ってみないとわからないことだけどな……、分からない可能性もあるし……」


 にしても……妙に既視感があるな。ただの既視感ではなくて、心の底に残っているような感覚だ……。


「神崎、ちょっと地図を見せてくれ」


「はい。どーぞ」


 神崎から地図を受け取り簡単に見通してみる。そこで俺は思ったのだ。


「もしかしてこの住所って……」


 朽木さんから受け取った紙を、ポケットから取り出して見てみた。


「地図を見た感じじゃ、もうすぐ着くよ」


 神崎が横から言う。

 俺は紙をポケットに戻し、少し早歩きで向かう。


 そこからせいぜい一分程度だろうか、短な時間が経ち目的地へと到着した。

 そこはボロボロの空き家であった。

 数年前に来たときよりもっと雨風で大変なことになっている様子だ。周りの住人はどうとも思わないのだろうか?


「ねぇ、天城くんここって……」


 神崎はこの空き家に住んでいた人物の名前を示した表札を指差しながら言った。


「うん、そうだな……。これは……ここは──」


 俺は拳に力を込め、歯軋りさせながら言う。


「──刈谷の家じゃねえかよ」


 俺は、火紅涅とここを訪れたときの事を、神崎に話したときよりも鮮烈に鮮明に思い出していた。ここが現場なのだから、思い出すことも不思議ではないと思うけれど。

 少し俯いた俺を見て何かを思ったのだろうか、神崎が俺に言う。


「天城くん……、中に入りたくないのなら、私だけでも行くけれど?」


 気を遣われているような。

 たしかに中に入りたくないとは思ったけれど、さすがにそうやって言われてしまっては、入ることに躊躇を覚えたとかそして、そんなことは言えない。

 て言うかこんなところに女の子一人で行かせるのが男としてどうかと思うのだ。

 いや、確かに小さな一軒家なので、そんなビッグでインパクトのあるホラー要素はないと思うけど。


「いや、全然大丈夫だ。昔のことなんだし、今は怖いとか思うよな事じゃないからな。行こう」

「ん、わかった」


 神崎は笑顔で俺の肩を叩いて言った。

 刈谷の家に入る前に、俺は一旦深呼吸をして体の強張り、緊張を無くそうと試みる。

 何度か深呼吸をしたところで、刈谷の家へと入っていく。


 家の門を開き、ゆっくりと歩を進める。

 玄関のドアを開けようと手をかけると、壊れていたらしく、少し力を入れただけで大きな音を立てて、枠内から外れた。


「あーあ、壊しちゃった」

「ま、まぁ、あれだ。もともと壊れかけていたんだし、俺のせいではない。それにここに住んでる人はもう居ないだろうから大丈夫だろ……」


 俺は外れたドアを持ち上げて、近くに立て掛ける。

 玄関部分の空間が空き、家の内部が見えるようになった。

 ここで俺は思ったことをそのまま口にした。


「ただの空き家じゃなくて、どちらかと言うと、本当にホラー要素のありそうな廃屋だよな」


 前に来たときもこんなことを思っていたような気がしないでもない。


「にしても、こんなぐちゃぐちゃな場所に手がかりなんてあると思うか? 壁や天井は雨風でボロボロだし、割れたガラスが散乱してるし、手入れはもちろんされているはずがないから植物が根をはってる。カビも凄いなー、臭いもひどい。やばいよここは」


 とりあえず目に見えるもの、鼻で臭うもの、触れて分かるもの、手当たり次第に言ってみた。

 そんな言葉に対して神崎は答える。


「だけど、探してみないと手がかりがあるのかないのか分からないでしょ?」


 全くその通りである。


「まぁ……否定はできないけれど……」


 俺はしぶしぶと了解する。


「ここ一階と二階があるみたいだから、俺は二階を見てくるよ。神崎は一階を調べてみてくれ」


「わかったわ。先に調べ終わった方は、終わってない方の調査を手伝うということで」


「うい、了解した」


 俺はそう言って二階に上がる。

 どうも木材が朽ちてきているようで、階段の軋む音が大きい。今にも壊れてしまいそうだった。


「いや、マジで壊れそうだ。俺は階段から落ちたくなんかないぞ」


 一歩一歩に時間をかけて、足場が崩れぬようにゆっくりと足を動かしていく。


 ──時がほんの少し流れ……最後の段に足をかける。

「あぼぁっ!」


 最後の一段を踏み抜いた瞬間、アホみたいな声と一緒に、文字通り見事に床を踏み抜いてしまった。

 とても脆くなっていたのだろう。穴が空き、俺の右足がすっぽりはまっている。


「くそっ、抜かないと」


 俺は両手で右足首を掴む。そして生きてる左足を軸に力付くで引っ張った。

 

「全然抜けねぇ!」


 俺が埋まった足の対処に四苦八苦していると、一階からなんとも冷めに冷めきった声が聞こえてきた。


「何してるの天城くん……ギャグ漫画でもあるまいし……」


 階段の近くからそう言う神崎がいた。


「……か、神崎」


「何がどうなってそんなことになるのよ」


「ああ、そうだな、腐った木の床を踏むとそのまま貫いてはまっちまうかな」


「言わなくてもいいわよ」


 俺の冗談のつもりの言葉はてきとうに流され、神崎が階段を上ってくる。


「おい神崎来るなよ、俺が埋まってんの見えてるだろ。お前まで穴あけちまうぞ!」


「でも、抜けねぇ、なんて言ってたし。その様子じゃ一向にぬけない気がするから、私が助けた方がいいんじゃない?」


「まあ、まず時間をくれよ! 二人一緒にはまったらそれこそ本末転倒だって」


「まあ……それもそうね」


 神崎は階段を上るのを止めたようで、ちょっと安心した。本当に二人動けなくなってしまっては大変だからな。

 とにかく色んな方法を試してみよう。


「て言うか、神崎ぃ。一階の調査はどうしたんだよ? もぅ、終わったのかぁ?」


 すごく疑問に思ったことである、調べ終わったとするならば早すぎだろう。まだ家に侵入して十五分そこらしか経ってないぞ。

 力を入れて足を引っ張りながら喋ったため、声が掠れたように出たがちゃんと伝わっただろうか?


「ああ、一階の調査ね。もう終わったわよ」


「え……、おいおい、ちょっと早すぎやしないか? ちゃんと隅々まで調べたんだろうな? だってこの家はそこまで大きくはないけれど、数十分で全体を細かく探索できるほどは小さくないだろう」


「確かにそれは一目瞭然だね。だけど、家具がほとんど無かったからまっさらな状態だったの。少しガラスなんかで散らかってたけどそれらに何かが隠れた様子もなかったわ」


 そういうことらしいが気になる。案外見落としがあるかも……なんて。


「ふーん、そうなんだ。もう一度見直してみた方がいいんじゃないか? もしかして探してなかった所があるかもしれないぜ。まあ、お前に限って見落としなんてないとは思うけど」


 神崎が見落としなんてするのはよっぽど調子が悪いか、それともわざと見つけてないふりをしているかなんてものだろう。そう確信できるほど神崎の能力値は高い。

 どんな無駄な才能も極めているレベルで、全てのステータスが最低でも並の三倍はあるだろう。


「天城くんの言う通りだよ、私に限って見落としなんてありえないから」


 はっきり言いやがったぞ、この天才。こいつは自分が漫画キャラ並の天才だと自覚して上で俺に言ったのか? 何だかイラっときた……。


「というわけで少しだけ待ってあげたけれど、もう一人じゃ抜けなさそうなので手伝ってあげるね」


「ええ……ああ……うん」


 早く穴から抜け出したいのもあったし、早くこの家から出ていきたいというのもあったので、もう助力を求めることにした。


「じゃあいくよー」


 神崎はそう言って階段に足をかける。俺よりも軽快に全く時間をかけることなく、俺のところまで上ってきた。


「よーし、引っ張るよ! 天城くん!」


「おう!」


 俺が自身の足首あたりを両手で握ると、それと同時に神崎がふくらはぎを掴んだ。

 ちょっとくすぐったい、ちょっと恥ずかしい。


「それじゃあ掛け声に合わせてくれよ、神崎! せーので合わせるんだぞ?」


「わかったわ、せーのでね。オーケーよ」


「準備しろ…………せーのっ!」


 二人の力が丁度よく合わさったのか、一人でやってた時とは違い、本当にするりと

言った感じで足が床から抜けた。


「おわっ」

「危ないよ!」


 勢い余ってバランスを崩し階段から落ちそうになる。けれど、神崎と二人で何とか支えあって踏みとどまった。


「あ、ありがとう神崎。助かったよ」


「もう、気をつけてよね?」


 もう気をつけてね。だってさ、何だか照れちゃうな。ときめいちゃうよ。

 ベタな展開だったが好きだぞ、こういうの。


「天城くん程度じゃ落ちたら死んじゃうかもしれないんだから」


 俺……程度……?


「随分とひどい言い方だな……前はそんなこと言う奴じゃなかったろ。何があった……」


「いや? 特にそれといったことは。でも天城くんは床にはまっちゃうくらいドジじゃない」


「いやぁ……床が腐ってて脆かっただけでドジってことにはならない気が……」


 俺の反論に対して何も言うことなく神崎は二階へと足を踏み入れた。

 直後に吐いた俺のため息に彼女は気づいただろうか。多分気づいてない。

 俺も二階の様子を見てみることにした。


「あれ、一部屋しかないんだな二階は、大体二部屋くらいはあると思ったんだけど」


「まあそういう家屋だってあるってことよ、天城くん。覚えておきなさい」


「ん? あ、うん。役に立ちそうにないけど覚えておくよ」


「じゃあそこの部屋……行ってみようか」


 そう言ってから神崎は部屋のドアを開けた。

 半開きのドアから中を覗いてみると、そこには妙な物が一つあった。


「なんだあれ?」

「入りましょう」


 俺たちは部屋の中へと入る。

 するとそこにあった物が何だったのかはっきりわかった。


「机? 勉強机?」


 俺は呟く。部屋の中には、小学生くらいの子供が使いそうな二つの引き出し付きの

机があった。しかも……、


「札貼られてるし」


「こ、怖いな。神崎、引き出しあけてみるか?」


「どうにも……迷うところね」


 確かにその通り。近寄りがたい机だな。

 これがアニメや漫画の世界なのならば、次回に続くとか言って一旦退かせてもらいたいものだ。

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