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朽木の再来

「──その後の事だけど、どうやらこの出来事の一部始終を見てた人が居たらしくて、警察を呼んでてくれたんだ。刈谷はもちろん取り押さえられたよ。いくら武器を持ってても所詮は中学生だもんな、数人の警察官にはかなわないよ」


 俺は淡々と語っていく。


「俺達も俺達で大分な被害を受けた。火紅涅ちゃんは肩への一撃のせいで、骨にヒビが入っていたし、俺なんか頭をやられたしな。もう少し強い力でやられてたら、下手したら死、良くて障害持ちだったらしい」


 ──まあ、結局の所は、


「……結果として、いじめの問題は無くなったよ。だけど、気になるのは刈谷の事なんだよな。あいつはあれから学校に来なくなった、どうして来なくなったのかは知らない。けど、間違いなくいい理由ではないよな、まあ、学校に来なくなる理由にいいものなんて存在しないがな」


「天城くんは……今も、この出来事に何か思うところはあるの?」


 神崎は下を向いて、俯きながら問う。


「ああ、感じてる。何か、とても妙なものを感じるんだ。最近になって、そう思い始めた、頭の中が常にジーンとなるような違和感だよ。むず痒くて仕方がない」


 違和感。そんなことを神崎に語ってもどうしようもない。実際神崎には関係ない事だから、仮に何かあるのだとしても、巻き込みたくはない。

 というわけで俺は神崎に提案する。


「よし、神崎。こういう話はやめようぜ。昔話も長く話してしまって、一段落したしな。……本屋に行きたがってただろ? 早く行こう。ついでにお前のおすすめも教えてくれよ」


 椅子から立ち上がり、横目に神崎を見ながら俺は言った。


「……うん、わかった。それじゃあ行こうか、ずっと辛気な話しててもしょうがないからね」


 渋々といったところか? けれど、了承してくれたので良しとしよう。


 と、まあ、そんなこんなで俺達は楽しい一日を過ごした。




────────────




 翌日、俺は自室のベッドの上で目が覚めた。

 ……当たり前の事だった。説明するまでもなかった。

 いや、説明しないと状況が理解できないか。


「今日は異常なほどに寝覚めがいいな。……むむむ、メールが来てるじゃないか。誰からだろう」


 目覚めて早速携帯を見ると、メールが届いていた。どうやら……これは。


「火紅涅だ……」


 火紅涅からのメールだった。

 そうそう中学生時代は火紅涅ちゃんと呼んでいたんだよな。だから過去語りの時は、ちゃん付けを復活させてたんだよ。


「えーっと、『今日の昼頃には空港に帰りつくよーん。実はお土産を買ってきてほしいので、本屋に行ってドラコンホール三巻から十二巻を買ってきてほしいなー。じゃあ、また後で』か……」


 音読してみたわけだが……。

 ちょっと言いたいことができてしまった。


「うん、じゃあ──何でお土産買ってこなきゃなんねーんだよ! 普通、アメリカに旅立ってたお前が買ってくる側だろうがああああああ!」


「て言うか、昨日言っててくれれば、ついでに買えたのに」


 愚痴をこぼしながら、現在の時刻が十一時だということに気付いた俺は、急いで本屋に向かって、急いで空港に行かなくてはならないという、使命に追われ、顔を洗い歯を磨き、ハジャマの上からジャージを着て家を出た。


「なっしんぐなっしんぐなっしんぐうううう」


 奇声を上げながら自転車を走らせる。ガリガリとタイヤから悲鳴を漏れている。こりゃ本来俺にかかるはずの不幸を自転車が背負ってくれるんだな。タイヤがパンクしているが無視して進んだ。


 まずは本屋に到着する。


 沢山の本棚から、目的の本を探す。


「どこなんだよ、ドラコンホールはー」


 なかなかなかなかなかなか見つからないなー。時間が迫ってきてるのに。


 明らかに違うジャンルの本棚を見ているのに、気が付いていないおれだった。て言うか、時間がない今。気が付いていないと認めたくなかった。

 と、そんなとき。


「うわっ」


「ひゃっほい」


 蟹のように平行移動していたため、横の人に気付かなかった。おもいっきりぶつかってしまった。

 ひゃっほいという声を上げられてしまい、不覚にも笑いそうだった。

 笑いをこらえつつ、スミマセンと謝罪をしようとしたら、そこにいる人に驚いてしまった。


「あれ……まさか朽木さん?」


「なんだい、急にぶつかってきた不届きものは、千九咲くんだったんだね。ここぞとぶつかってきたのが千九咲くんとあれば、私がひゃっほいなどと言う悲鳴を上げたのも納得がいくよ」


「いや、全然意味がわかりません」


 て言うか、朽木さんはなぜこんなところに居るのだろうか。


「そんなことより、朽木さん! 今まで何してたんですか?! 骸の事件の後、一回も姿を現さずに」


「色々あってね。私にも仕事というものがあるんだよ。忙しくて他の事を気にかけてられなかったんだ」


「いや、でも、書き置き──手紙の一つぐらい残してくれてても」


「いやはや、本当にすまない、ごめんなさい。でも、すごく忙しかったんだから仕方がないでしょ?」


「忙しいと言いながら、何故その右手には漫画が四冊も握られているんですかぁ!?」


 おっと、これは失敬──と言って、朽木さんは両手を背中に本を隠す。


「さっき仕事が全て終わったばかりなんだ。帰りに娯楽の為の物資を購入していこうかと思ってたんだよ」


 何か信じれない……怪しいぞ。

 と、とにかく、偶然にも朽木さんに会えたんだ。この機会を逃したら、次はいつ会えるか分からない。


「朽木さん! 俺、朽木さんに聞きたいこととか沢山あるんですよ。仕事が終わったって言ってるんですから、話に付き合ってくれますよね?」


「ああ、うん。……し、仕方がないなー。じゃあ、せめて場所を移そう、こんな場所で公然と話すようなことでもないんだろう?」


 そう言われ、確かにそうだと思ったので、俺達は本屋を出ることにした。

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