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二人の語り

「天城くんって喋るとき、どういう言葉の選び方してるの?」



 ……まだ聞いてくるのか。テキトーにあしらおう。



「俺の頭の中にはな、携帯の文字入力画面が出てくるんだよ。便利だろ、実際超便利だから」


「へー、そうなんだ……。私もそんな感じに近いかも。でも違うかな。予測変換というか、その時に適切な選択肢が浮かんでくるみたいなやつだから」



 機械かよ……。でも神崎はすごく頭いいし、脳内にコンピューターが詰まっててもおかしくねーよな。授業の時だって、短時間で答え弾き出すもんな。先生に名指しされて、二秒以内で解を考えきるから、大したもんだ。

 きっと頭の中には、最新のクアッドコアCPUが埋め込まれてるんだろうな。……クアッドコアは違ったっけ? 機械はあまり得意じゃないから分からない。


「神崎……」


 聞きたい事があった。だから、自分からこうやって喫茶店デートに誘った訳だが、……忘れてたな。けっこう……かなり大事な話だけど。


「何?」


 いきなり雑談からマジな話に移るのは、気分的にもどうかと思うけど、そんな事は言ってられないので俺は聞く。

 化け狐について……。

 元人間の化け狐が二人いる理由とは何なのだろうか。そこには特別な何かがあるのだろうか。

 さて、いざ、質問タイムだ。



「──いきなりだけどさ、聞いてなかったよな。お前の事について、化け狐について。それについて教えてほしいんだけど」


 多分、知っていて損はないはず。あの初めて出会った妖怪、化け狐である詩乃音を助けるために。同じ妖怪へと変わった神崎には、一体何があったのか。



「私を呼び出したのはこれが理由って事かー」


「……それもあるけど、お前と遊びたかったという気持ちもあるぜ」


 嘘偽りのない……本心です。


「……じゃあ、話そうか。別に隠す事でもないし、一部知られている事だし」


「ああ、頼むよ」


 質問の答えとして言われた最初の言葉は、詩乃音と同じ原因を示す言葉だった。



「数年前、私は事故で死んだ」


 それといった表情はせず、強いて言うなら、ちょっと真面目な顔。無表情に近い真面目な顔。


「事故……」


「ただの交通事故よ、かなり大きいトラックに轢かれたの。なーんの前触れもなく、いきなり飛び出してきてさ、驚いちゃった。一瞬過ぎて痛みは無かった……とは言えないけど、ほんの一瞬激痛が走るくらいかなぁ……。あれで人生が終わったんだと思うと、本当に残念」


 神崎は笑いながら言った。自分の死を笑いながら語った。自分自身を嘲笑うかのように。


「よく……笑って言えるな……自分の死をさ……」


 きょとんとした顔で神崎はこちらを見る。何に驚いたのだ。当然の事だと思うけど。

 目に垂れてきた髪を掻き分け、神埼は言った。


「別に数年前の事だし。その日交通事故に遭うまでに、何かいいことがあったわけでもないしね」


「だけど……」


「だって私はね──」


 俺の言葉を遮って彼女は言う。すこし強めの言い方だった。


「私はさ、家族から虐待されてたし。そのせいで色々あってね、学校でもよくない感じだったの。──いじめ……とかね。もう過ぎたことだからどうでもいいけど」


 冷めた口振りで語る彼女に、一種の同調を感じた気がした。俺も昔、そんな風な出来事は出会ったことがある。出遭ったことが。


「そう考えると私は今の生活が大好き。一人で放浪して、一人で自由になって、天城くんみたいないい人と出会えたからね。それはとても嬉しい。死んで良かったって普通に思ってるよ」


 普通に思ったら……駄目だろ。

 だけど、もし自分が神崎だとして、神崎と同じ立場だとして……。家も学校も……それは地獄のような物だとするならば、死んで良かったと思うかもしれない。いや、十中八九、ほぼ確実に思うことだろう。

 俺には何も言えない。


「すこし脱線したね。ちょっとだけ戻そう」


「……ああ」


「事故に遭ってからはずっとそこら辺をウロウロしてた」


 詩乃音も同じような感じじゃなかったか……? この共通点には何かあるのだろうか。二人一緒だったとか? ないよな。そんなこと。


「自分が幽霊というものになっていたのは分かってた。体が透けてるし、浮いてるし、喋っても誰も反応してくれないし。どうしようも無かったんだよね」


「ふむ……」


 で、もしかしてそんなときに現れたのが……。


「それで、そんなときに現れたのが、赤い肌の天狗だったのよ」


 やっぱり……。


「昔漫画で見た天狗のようとはいかないけど、それに近い容姿の天狗だったの! 鼻がすごく長かったなぁ……」


 よく分からないけど、詩乃音が出会った天狗と同じやつなのだろうか。


「そしてその天狗はね、私を化け狐として生き返らせたの」


 ……んー……ん?


「おいおい、大事なところを省くなよ。どうやって生き返らせてもらったんだ?」


 あのとき、詩乃音に詳しく聞いて無かった分、ここで聞いておかねばならない、と思ったけど聞けるのかな……。


「私も分からないよ。体が光ったと思ったら生き返ってて、それで妖怪について色々聞かされて、何だか良心的だったのは覚えてる。あの天狗、報われない死者を助けてるらしいよ」


「報われない……死者を……?」



 どうしてそんなことを……。て言うか、よくそんな急すぎる展開についていけたな。



「急すぎる展開だったけど、何だかすんなり受け入れられたよ。人生をやり直せると思ったら、とても嬉しかったから」


 俺の考えを読んだかのように、神崎は言う。


「まあ、それから一人楽しく過ごして、少し経って、人として存在する方法も見つけてね……。そのお陰で、人に人って認識されることができるようになったのよ。天城くんが私と話すことができるのもそういうこと」


「……それを使ったから、学校で俺との関わりができたんだな。限定しすぎたけど、それによって新しい学校生活、というか学校に限らず、順風満帆な人間関係を作れたのか。でも、お前個人の存在だけじゃ、できないこともあるだろう? そういうときはどうするんだ?」


「……まあ……そこは秘密……ということで」


 怖い顔をされた。聞かれたく無かったのだろうか。

 ……にしても、人それぞれって事だよな。化け狐としてでも、新しい人間として、新たな人生を始められるということは、神崎にとってこれ以上ないチャンスであったのだろうな。聞くところ、無惨で悲惨な環境で過ごしてきた神崎。彼女にとっては、最高級の神からの贈り物だったに違いない。

 詩乃音はどう思っていたんだろう……。

 自分が死んで、詩乃音の心の底から思った事は、一体何だったのか。最高なのか、最低なのか……。



「最高潮だったマイライフというのも、数週間前に中断ということになったけどね」


「骸……」


「そう……、人間を嫌う骸は、元人間である妖怪の私に目をつけてたみたい。多分、監視されてたと思う」


 一呼吸の間を置いて、彼女は語る。


「骸は私を脅迫してきたの。私の学校生活などで弱みを探したりしてたのよ。どんな脅迫かって、それは言わないし、言いたくないけど、逆らったら確実に私の幸福は不幸になる、それは明らかだった」


 神崎の弱みが何なのか思い付きなんかはしないけど、骸の尋常でない破壊力があるなら、弱みとは言えない物も弱みになりそうだ。

 弱みって言うのは、人の弱みって言うのは、その人が不利になるような何か。何かをすればその人が不利になるような何か。そう考えるなら、神崎と親しい人と引き換え、なんてのは当然思い浮かぶ。単純に、神崎のやり直したいと思う物を壊すことでもいいと思う。人ではなく良好な人間関係のみを壊すだとか。



「……それで私は、ストレス発散のサンドバッグみたいな扱いをされるようになった。あの骸……骸を操作してた奴は、色々考えてたみたいね。そのうち私を霊界に連れていって奴隷にするだとか。バカみたいよね」


 気丈に振る舞おうとしていた神崎だが、声が震えているような感じだったのは否めない。


「どうやって知ったんだ? そんなこと」


「私の妖怪としての力。相手の考えてる事とか分かるの。電話越しにも分かったりするからね。骸を操作してた奴の考えも抜け出てた訳」


 そうか……詩乃音が電撃を扱ったみたいに、神崎も能力が使えるのか。心を読む、読心術の遥か上を行く力。テレパシーってやつか?


「そんな力があれば、そいつの正体とかにも近づけるんじゃないのか? いや、実際近づけたんじゃないのか?」


 そんな俺の言葉を、否定するように首を振る神崎。


「いや、私は能力を満足に使いこなせなくて……成功率は低いのよ。突破口が開ければと思って能力発動して、たまたま成功したときに、その考えを感じ取ったのよ」


「……じゃあ骸の正体には、まだまだ辿り着けないってことか……」


 詩乃音のためになるような情報も無いよな……。



「ごめんね……何の役にも立てなくて……」


「いや、別に大丈夫だよ。……じゃあ今日は楽しもうぜ、悲観した話ばっかしてもつまんないだろ」


「……そうだね。……それなら天城くんも何か話して欲しいな。私も自分のこと話したし、天城くんも何か語ってよ……ね?」


 語れと言われても……。

 語るほどの話があったかな……。んー。



「──夏休み終わったらさ、二月期に入るだろ?」


「うん、入るよね」


「二月期から転校してくる奴の話をしてやるよ」


「はい? どういうこと? 誰か転校してくるの?!」


「ああ、俺の幼馴染みが」


「ええええええええええっ!!」


 神崎がすごく驚いているけど、そこまで驚くことかな?


「そいつは親の仕事の関係で、ちょくちょく転校したり、してきたりするんだよな。最初は泣きながら見送ってたけど、もう慣れた」


「へー……ちょっと気になるかも」


「いじめられてた俺に、手を差し伸べてくれた人物でもある」


「……天城くん……いじめられてたの……?」


「もう終わったことだから気にすることもないけどな。そいつのお陰で、俺は今こうして居られると言っても過言ではないかもな」


「そ、そこまで……」


「だから語ってやろう。俺が救われた話を……簡潔に感動的に語ってやるよ」



 と、ここから、ちょっとした昔話が始まるのであった。

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