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正体と目的

──数時間後、意識を失っていた詩乃音は……目を覚ました。


「…………ん、あれ、ここは──」



「俺の家だよ。とりあえず俺の家で出来る限りの看病はして、病院に連れていこうと思ったが……。──お前が病院はいいと言った理由は理解したよ」


「そっか……見たんだね……」


「……詩乃音……お前何か、変なことに巻き込まれてるのか? 傷が異常な速度で治癒するのは変だけど、それ以上に、そもそも何故あんな傷を負ってたんだ?」


「……」


「詩乃音……お前がなんだって俺はお前を助けてやるよ。だから、答えてくれ、どうしてあんなことになっていたのか」



 俺の本心。助けたいという本心。昔教わった正義という心は、誰にも隔てなく優しくあること、単純なことだけだ。それはとても大切なことで。難しい事だ。


「妖怪……」


「ん?」


「私はね……妖怪……化け狐なの」



 暗い表情での告白は、俺の耳をいとも容易く、普通に通っていく……。そんな訳は無かった。俺は驚きの声を上げるのを止めた。無理矢理に止めた。今ここで驚くのは良くない、驚きの度合いによるけれど。

 ところで、妖怪とは架空の存在で、この世には存在しないものではないのだろうか。本当に存在するのか、そんなものは。



「驚かないんだね、千九咲は……」


「え? あー、いや驚いてるけど……傷が治った時に十分驚かせてもらったから」



 俺は少し笑って言った。本当は驚いているけど、余裕を見せてやる。

 詩乃音は俺を見てクスッと笑った。


「何それ、人の一世一代の大告白を……そんな風な反応で流しちゃって」


 詩乃音は笑いながら言った。

 流したのではなく、受け止めた。一つ残らず、詩乃音の言う真実を受け止めた。

 妖怪だったというだけではまだ説明のつかないところもあるだろうと俺は感じた。そして、小さく深呼吸し俺は詩乃音に尋ねる。


「詩乃音……それだけなのか? 他に大事な事は?」


 別に大事な事じゃなくてもいいが。

 詩乃音は俯いて黙った。でも、それはほんの少しだけですぐに、顔を上げて答える。


「化け狐、千九咲が学校で見つけた狐は私なの」


「あの……狐が……?」


「すぐに人の姿に戻ったけどね。戻った瞬間に千九咲が来るからびっくりした。もうバレるかと思ってドキドキしたよ」


「それはごめん」


 ああ、あれは詩乃音だったのか。

 金毛の狐の正体は、金髪の少女か……。


「これも言いづらいけど、実は私……元は人間だったの」


「人間……だった?」


 少しずつ明かされていく詩乃音の謎、俺は息を呑み聞き入る。


「私は昔、十年前位に……交通事故で死んじゃったの。大きなトラックに轢かれて……それから幽霊として、ずっと色んな所をさ迷っていて」


 交通事故……。詩乃音は人生に悔いはあったのだろうか。

 自分が死んで、さ迷っていて、どう思ったのか。どういう感情を抱いたのか……。俺は何も聞けない。詩乃音が震えていたから、怖かったし辛かった出来事なんだろう、きっと。

 詩乃音は続ける。


「ある鼻の大きな天狗に出会ったの」


 天狗。天狗。天狗? 妖怪の?


「その天狗は私を妖怪として、またこの世に生き返らせたのよ」


 生き返らせたって……。なんか……簡単に言うんだな……。

 ……人が生き返るって、それはかなりやばい事じゃないのか? 世界の摂理をひっくり返すような事なのに、生き返らせる事ができるなんて、どれだけ凄い奴なんだ。


「……人が……人がどうやって生き返るんだ……?」


「私も分からない。天狗が、何故私を生き返らせたか、詳しい事は知らないけど、良心だったんじゃないのかな」


「……どうして……?」


 疑問。当然の疑問。だって妖怪と言ったら悪者だってイメージがあるから。天狗とか名前の通り天狗な奴で悪そうだし。でも、それは所詮ただのイメージだったという事だろうか。


「私に生き方を教えてくれたの……。こうしてやれば、妖怪の世界で渡り合っていけるとか。妖怪との接し方とか。一人で生きていけるように、色々と教えてもらったな……」


「優しいんだな……その天狗は……」


 妖怪はいる。居るのだろう。

 天狗という妖怪がいて、優しい天狗は詩乃音を助けた。妖怪の世界で生きていく方法を教えたのか。

 

 それにしても、彼女が血まみれの状態で路地裏に横たわっていた理由。それは一体なんなのだろうか。詩乃音の正体などより、俺はそっちの方が気になった。

 だから、俺は聞く。


「詩乃音……生きていく方法を見つけたのなら、何でお前はあんなに傷だらけだったんだ?」


「……私、色んな妖怪に狙われてるの。人間が嫌いな妖怪はとても多くて……。少し前にね、私、元人間だってバレて……ずっとずっと追われてた、だから……逃げてきた」


「元人間っていうことがバレた……。どうしてバレたんだ?  お前は天狗に教えられた通りに生きてたんだろ?」


 詩乃音は少し考え込んで言う。


「天狗の教えてくれたことはおかしくないと思うよ。実際、バレる瞬間まで、妖怪とも仲良く過ごせてたし」


 過ごせてたのか……。

 でも……それから……。


「……妖怪もね人間と変わらないの。優しい妖怪が沢山いて…………。だから、正体がバレて……仲の良かった妖怪たちに非難されたのは……、罵声を浴びせられたのは、ちょっとショックかな……キツかった……」


 詩乃音は涙を流しながらそう言った。

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