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Schwartz Wind  作者: 莉央奈
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王宮騎士団団長執務室


 夜になってマリーを含む12人の騎士が集められていた。日中に郊外で起きた殺人事件についてだ。

 郊外に住む富豪の貴族が殺された。そして犯人の仲間とみられる黒服の男が殺されていた。

 日中にもかかわらず目撃者はいないというが、いないと言うより口をつぐむので真相はわからない。

 だが確かなのは聖魔十字騎士団(シュヴァルツローゼ)が関係している可能性が高いということ、マリー達は郊外の警戒を命じられた。



 サクラクール大聖堂


 今は夕刻のミサが行われているが、今日は珍しく人が少なく十名もいないだろう。私が着いたときにはミサはもう終わる時間になっていた。


「ロザリア、遅かったですね。」


 大聖堂の後ろにいたところを、ミサを終えた司祭がこちらに歩いてきて声をかけてきた。


「血がついていますよ」

「ああ…」

「人を殺めたのですか?」

「はい、人を守るために剣を抜きました。」

「着替えたら神に報告なさい」

「はい。」


 教会の奥、司祭や修道士達の部屋がある、さらに奥に行くと聖堂騎士団の部屋があるのだ。

 その一つが私の部屋になっている、鍵を開けて入るとリビングと奥に寝室があり、隣は執務室を兼ねている、浴室までついているのだ。修道士の部屋は一つの部屋にテーブルとベッドだけの質素なもので、他はすべて共用になってる。


「神に仕える身でありながら、この部屋は少々贅沢過ぎでは?」

「ロザリア様は神の尖兵となって悪と戦い、教会を守る守護者の一人、このくらいの贅沢は神もお許しになるでしょう。」

「人は一度贅沢を覚えると質素な生活はできなくなる」

「ならば、貴女はあの日、禁忌を冒して剣を握ってしまった。その報いだと思いなさい」

「それは…」

「貴女の剣は剣を持たぬ者を守る剣…、それを忘れないように…」


 司祭は挨拶をして部屋を出ていった。

 少ししてドアがノックされて修道女が一人、水を入れたグラスを持って入ってきた。


「お疲れでしょう?」


 入ってきた修道女はアイリーンだった。


「ありがとう、そこに置いといて」


 アイリーンはテーブルにグラスを置いてこちらに歩いてくる。


「ロザリアさん、お着替え手伝いましょうか?」

「…必要ない」

「怪我をなさっているのでは?」

「怪我はしていない」


 彼女の視線の先、制服の袖などには血がついていた。それは自分の血ではなく返り血がついたものだ。


「手伝わせてください」


 そう言って彼女は着替えの服を用意してくると上着のボタンに手をかけて外していく、そして上着を脱がした彼女はそれを椅子にかける、次にブラウスのボタンを外して脱がすと、それも椅子に掛けた。最後にスカートを脱がすとそれも椅子にかけた。

 彼女は着替えの服を広げて。

 シスターの着ている服と一緒だ。後は促されるままにそれを着る…。


「私は修道女ではないんだが…」

「そう言わずに、似合いますよ」

「そういう問題ではなくて…、私は剣士だし…」

「私だって騎士団の端くれですから、一緒です」


 アイリーンも騎士であり修道女ではない、騎士団は修道会とは別の組織であって教会と修道会を守るのが使命だ。だから修道会の服を着る必要はない、アイリーンは好き好んで着ているだけだろう。


「それじゃあ、服は私が洗っておきますので」


 着替えが終わるとアイリーンは制服を抱えて部屋を出て行った。

 私はそのすぐ後に部屋を出て聖堂へと向かった。


 聖堂には人影はまばらで、祭壇に掲げられた巨大な十字架が寂しげに見える…。そしてその前に跪くと祈りを捧げる。

 不意に一人の男性が声をかけてきた。


「シスター、ちょっといいですか?」

「はい」

「私は王宮騎士団のアルバート・ギルモアといいます。聖堂騎士団の団長にお会いしたいのですが」

「お約束でしょうか?」

「そうではないが、至急の用件だ」

「お忙しい方なのでお会いできるか分かりませんが…」

「構わんよ」

「ご案内致します」


 彼を教会の離れにある団長の執務室へと案内する、扉の前で立ち止まってノックをすると、中から声がした。


「どちら様?」

「ロザリアです。王宮騎士団の方が団長に至急のお話があると...」

「どうぞ、鍵は開いてます」


 扉を開けて中へ入る、机の脇に立って挨拶をした金髪碧眼の男性、サクラクール聖堂騎士団団長ルカは丁寧にお辞儀をした。


「どなたかと思えばギルモア卿でしたか、早速ですが至急のお話とは何でしょうか?」

「では私は失礼します。」

「ロザリアさんといったかな?」


 二人の会話を邪魔してはいけないと思い部屋を出ようとするとアルバート・ギルモアが引きとめた。


「聖堂騎士団のロザリアですか?」

「はい。」

「それは話が早い」

「ギルモア卿、ロザリアがどうかしたのですか?」

「実は郊外の邸宅街の外れで殺人事件がありまして、貴族が殺されました。少し離れた場所に聖魔十字騎士団の男の死体もありました。近くに住む人達の情報から聖堂騎士団の女性もいたというのです。」

「それがロザリアだと?」

「聖堂騎士団でシュヴァルツローゼと渡り合える女剣士はロザリアだけだと聞きましてな」

「ロザリア?いたのですか?」

「はい、別件で郊外へ行ったのですが、その際に遭遇し、シュヴァルツローゼの騎士を一人倒しました。貴族の男はその後逃げ帰って行きました。」

「ここのところ立て続けに事件が起きていたがロザリアのお陰で犯人が聖魔十字騎士団であると分かった。それで、ロザリアを王宮騎士団にしばらく預からせてもらえまいか?」

「卿、ロザリアは聖堂騎士団にとって必要な存在です。いくら私と貴方の仲でもそれはできません。勿論、助けが必要な時は協力いたします。教会は正義と秩序を遵守し弱者を助けるのが神に与えられた使命です。」

「そうですか、ではどうか我々に協力していただきたい、何か情報が入ったらすぐに連絡して下さい。」

「分かりました。」


 ギルモアが帰った後、私は団長に言われてそのまま執務室に残った。


「貴女はシュヴァルツローゼについて何か知っていますか?貴女はシュヴァルツローゼに捕らえられていた事になっていますが...」

「私は何も知りません...」

「そうですか、しかし貴女がシュヴァルツローゼと繋がってると疑う者がいるのも事実、それを肝に命じておいてください。」

「はい...」


 団長は微笑んでそっと肩に手を触れた。


 翌日、王宮騎士団が百余名の兵を集めて聖魔十字騎士団の根城としている郊外の古びた城塞へと出撃した。


 五日後、彼らは大敗し、戻ってきたのは数十名ほどだったという。

 威力調査...王宮騎士団の団長はそう言っていた。

 翌日、私は王宮騎士団が拠点としている王宮に足を運んだ、マリー・フォルテの事が気になったからだ。


「何者だ」


 巡回していた王宮を守る二人の兵士の声だった。


「私は聖堂騎士団のロザリアです。王宮騎士団の方ですか?」


 兵士に尋ねる。


「いいや、我々はルーンベルグ王国軍のノヴェレメイディン警備隊だ。」

「王宮騎士団のマリー・フォルテに話があるので来ました。」

「申し訳ないが王宮騎士団は現在作戦行動中につき誰も入れるなと言われている。」


 しかしアテがないわけではなかった。


「では、アルバート・ギルモア卿にロザリアが来たとお伝えください。」

「なんだって?」

「聞こえませんでしたか?」

「シュヴァルツローゼの事でと言えばわかると思います。」


 目的とは関係がないが、入れてもらうにはこうでもしなければ入れないだろう。

 兵士の一人が渋々と王宮へ入って行った。そして兵士はすぐ戻ってきて王宮に通された。通されたとはいえロビーで待たされる事になっただけでまだ会うことは出来ない。

 巨大な壁画が描かれている...

 その壁画の前を王宮騎士団の兵士が時々行き交う、その中にマリー・フォルテの姿はない、私はただ彼女の生死を確かめたかっただけなのだ、彼女は王宮騎士団でも指折りの剣士であり戦線に赴く事もある、それに私にとってはあの日以来の友人でもあるからだ。


 五年前のあの日、私とマリー、レミーとカレンの四人は王宮に向かっていた。その途中で聖魔十字騎士団に襲撃され、私は彼らに拐われたのだ、助け出された私は教会に引き取られて騎士になった。


「ロザリア?」

「え...?」


 声の主はレミーだった。王宮騎士団の剣士でマリーの二つ下、私の四つ下だ。彼女はお嬢様育ちだったのか剣士という雰囲気ではない。実際、王宮騎士団では戦うよりマリーの下について参謀的な役目を果たしているようだ。


「何してるの?」

「マリーに会いに」

「マリーは次の作戦があるから今日は出てこないわ」

「そうですか、街では王宮騎士団の作戦が失敗だったと噂になっていましたが...」

「そうみたいですわね、困ったものです...。ごめんなさい、そろそろ行きますわ。」

「マリーに会ったら私が会いたがってると伝えて下さい」

「分かりましたわ」

「貴女達も暇があれば来てください」

「そうさせてもらうわ」


 レミーは微笑んでその場を去った。

 少しして王宮の従者がやって来て私を奥の部屋へ案内した。







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