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Schwartz Wind  作者: 莉央奈
1/3

Dirywiad

ノヴェルメイディン王立市場


今日も街は人と物に溢れ賑わっている。

奴隷制度が廃止されて五年、まだ差別的な光景は消えるわけではないが、以前よりはましだろう。


「こら!泥棒!!」

「へへん、これは落ちてたから誰のものでもないもんねー」


ドンッ

少年がぶつかってきて慌てて受け止めた。


「痛っ!」

「騎士様!その小僧を捕まえて下さい!」

「やべぇ!」


少年は逃げ道を探してキョロキョロしていた。

そして横に走り出そうとしたところを捕まえる、だがバランスを崩した少年は街道に転んで懐のものを道にばらまいた。

小銭のはいった財布や包みから顔を覗かせるパン…


「ありがとうございます、騎士様」


商人が少年を取り押さえていた。

周りの人々はその光景をまじまじと見ていた。

そんななかで…


「お兄ちゃん!お兄ちゃんを放せ!」


妹と思われる少女が少年のもとに駆け寄り商人を叩いた。


「少年、事情を説明してくれないか」

「言ったって分からないだろ!」

「そうね、聞かなければ何もわかりませんけれど」


商人を叩いている少女の肩を軽く叩く、彼女は振り向いてこっちを見上げた。


「それくらいで良いだろう?」


少女は少年の方に行って地面に落ちたものを一緒に拾っている。


「騒がしいですね。」

「おい、あれ王宮騎士団の…」

「マリー様!」

「どうしたのです。」

「その小僧が店の商品盗みやがったんだ」

「あら、聖堂騎士団の方がいらっしゃいますが」


マリーが目の前に立つと軽く会釈したのでそれに応えた。


「彼の身柄を引き取ってよろしいでしょうか?」

「断る」

「犯罪者を庇うおつもりですか?」

「少年、お前が答えるのが遅いから状況が悪化しているぞ?やはり私利私欲のために盗みを働いたのか?」


少年はこちらを睨み付けた。


「そんなわけないだろ!これで家族の食べ物を買うんだ!」

「そう、ではこの件は聖堂騎士団があずかります。」

「待ちなさい、犯罪者を裁くのは私達の役目です」


王宮騎士団は牢屋にいれて反省させるだけだが、聖堂騎士団は更正させる事ができるかもしれない、それに王宮騎士団に引き渡せば罪状の数だけ罪が重くなる。


「少年、牢屋に一生入るか教会の説教部屋で半日説教聞くか選べ」

「何勝手に決めてるの」

「牢屋はいやだ…」

「お兄ちゃん行っちゃうの?」

「お嬢さんも一緒に来るかい?お茶くらいなら出しますよ?」

「行く」

「お前は来なくていいよ」


少女は少年の言葉に首をふるばかりだった。二人の肩を叩き盗品を渡すように促すと、二人はそれらをおとなしく差し出した。


「さて、マリー?」

「何よ」

「あとの処理はよろしくね」


マリーに盗品を渡し、二人の手を握って一路教会へと向かった。

マリーはその盗品を持ち主に返し、持ち主が分からないものは仕方なく持ち帰った。



王宮騎士団団長執務室


「報告します。本日街で窃盗を繰り返していると思われる少年を聖堂騎士団が拘束しました。」

「ご苦労様、手柄をとられて悔しいのか?子供の世話なんて聖堂騎士団にさせとけばいい、それより問題は郊外で起きている事件だよ、高官が既に三人死んでいる、一刻も早く解決しなくてはならない。」

「はい…」

「不審者などはいなかったかね?」

「見ておりません。」

「そうか、ならいい」

「では、任務に戻ります」


敬礼してマリーはその場を後にした。



ノヴェレメイディン郊外


少年は懺悔の部屋に入っているので、私は少女を家まで送り届けた。

そこはこじんまりとした小さな家だったが、中は片付けられていて綺麗だった。


「お兄ちゃんいつ帰ってくるの?」

「夜になれば帰ってくるでしょう。お母さんはいないの?」

「お母さん病気だから寝ているわ…私たちにはお金が必要なの、でも食べるものもなくて…」


少女が椅子に腰かけて座るように促すが、私は少女の隣に立って室内をみていた。

小さな棚の上に写真立てがあり、顎髭をたくわえた男性と髪を束ねて赤ちゃんを抱いた女性、そして子供が写っていた。


「お父さんは私が生まれてすぐ戦争で死んじゃったんだって、だから覚えてないの。」

「そっか」


10年前の戦争だろうか、世界を巻き込んだ大きな戦争…、私もまだ子供だった。戦争孤児とでもいうべきだろうか…、親は戦争で失い、妹とは生き別れた。


「私の話をしていいか?」

「お姉ちゃんの?聞きたい!」


彼女の斜め向かいに座って話始めた。


「私は戦争で両親を亡くしたんだ、妹とは生き別れた。妹には辛い思いをさせたくなくて自分の身体を売ったのだ、そのお金を妹に渡してね。ある日私が再び売られたとき、時の国王は奴隷や人身売買を禁止して私は救われた。それから私はあちこちを転々として、そして私は改心して教会の騎士団にはいった。」

「私も聖堂騎士団に入りたいな、お姉ちゃん格好いいし」

「いつでも遊びに来るといい、歓迎するぞ」


不思議と微笑みがこぼれた。


「お姉ちゃん肌綺麗だし、髪も綺麗だし、いいなあ」

「あなたも十分可愛いよ」


コツコツと階段を誰かが降りてきた。


「ベル?お客さんなの?」

「お母さん寝てなきゃダメだよ!」

「聖堂騎士団のロザリアです、お邪魔してます。」


人の良さそうなお母さんだ、声が優しくどこか儚げな感じがした。


「このくらい平気よ」


向かいの椅子に座った母親と目があう。


「騎士様がこのような場所まで…どうかなさいました?」

「お嬢さんを送り届けに」

「それは、ご迷惑お掛けしました。」

「いえ、ついでですから」

「そうですか、アルはどこにいったの?」

「教会だよ、夜に帰ってくるって」

「あの子何かしたんですか?」

「本人から聞くといいでしょう。」

「そうですか、人を困らせるようなことしてなければ良いんですけど…」

「それでは、私はこの辺で…」


これ以上ここにいるわけにもいかないだろう、遅くなると後の仕事に支障が出る、私は親子に別れを告げて家を出た。

周りの住民は出てきた私を物陰からこっそり見ているようで、何か事件でもあったのかと言いたそうだ。

こんな場所に聖堂騎士団がいるのも珍しいのか…


「おーい!助けてくれ!」


これまたこの場に似つかわしくない人物が走ってきた。どこかの貴族のようだが…

走ってくる貴族の後方に黒い服を着た騎士が二人、馬で追いかけている。


「どけ!」

「お、お助けを!」


背後に隠れた貴族、目の前には黒い服の騎士…

腕には薔薇のハーケンクロイツの腕章、聖魔十字騎士団、彼らは彼らの正義で人を裁く、裁くといっても殺すだけだ。

私は剣を抜き腕を下ろした。その剣の切っ先はわずかに地面に触れた。


「昼間から悪趣味な…」

「そいつを渡せ!」

「そいつは不正に住民から金を巻き上げた罪人だ」

「ならば尚更、聖魔十字騎士団(シュヴァルツローゼ)に渡すわけにはいかないだろう」

「俺達の事を知っていて剣を向けるか、愚かめ!」


振り上げられた剣が降り下ろされる、咄嗟に剣で受け止めた。


「人を裁けるのは神だけだ!」


剣をはねのけて手綱を剣で切ると、身を翻して馬の尻を剣身でひっぱたく、馬は驚いて走り出した。暫く戻ってこないだろう。

もう一人の騎士は馬を降りて切っ先をこちらに向けていた。

ロングソードを両手で握り、相手が剣を振り上げた瞬間一気に間合いを詰めて腹部に切りつける…

振り向き様に切っ先を背に突き刺す。

ドサッと敵は地面に崩れ落ちた。


「助かった…」


貴族の方を見ると、彼は地面に座り呆然としていた。


「さて、不正に金を巻き上げたとはどういうことか」

「知らん…俺は何も」

「そうか…」


彼の目の前の地面にザクッと剣を突き刺す。聖堂騎士団の刻印と独特の血抜きの溝が彫られた剣、先程の騎士の血がその溝に赤い薔薇を浮かび上がらせていた。


「ヒィィ…」

「神の前でも罪を犯していないと言い切れるか…?」

「寄付を募っただけだ…悪いことはしていない」

「そうか、その寄付をどうしたのだ?」

「大臣に渡したよ、全部」


剣を地面から抜き布切れで血を拭き取る、貴族の男はふらふらと立ち上がってこちらを見た。


「この事は黙っていてくれ…金が欲しければくれてやる、私にも家族がいるんだ…、今の地位を失うわけにはいかない、見逃してくれ…」


貴族の喉元に私は切っ先を当てていた。これがこの国の貴族なのだと思うと腹が立つ…。


「私に家族はいない、だからお前の言いたいことは分からないが、これだけはわかっている…。神の前では全ての人間は平等…、罪を犯せば例外なく裁かれる、私は不正を許さない…。金などいらない、さっさと行け…。」


剣を鞘に収めると、貴族の男はとぼとぼと歩いて行った。


「馬はいらぬか?」

「ああ、いらないよ…」


さっきの家の玄関から先程の親子がこちらを見ていた。

少女が駆け寄ってくる…


「なんであの人逃がしたの?悪い人じゃないの?」

「悪い人は神様が裁いてくれるのよ」


少女を連れて家に入る、シュヴァルツローゼは任務は確実に遂行する、そういう連中なのだ、私が手を下すまでもなく聖魔十字騎士団(シュヴァルツローゼ)が確実に手を下すだろう。


「お姉ちゃん、黒い人戻ってきたよ」

「隠れてなさい」


扉を閉めて少女と一緒に身を潜める…

聖魔十字騎士団(シュヴァルツローゼ)の騎士は戻ってきて仲間の死を確認すると再び馬を走らせた。

それはあの貴族が帰っていった方だ…





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