3話 選手名鑑
車の中はとても静かだ。
試合での緊張感からとかれて一番落ち着ける場所だ。リリーフの仕事はとても地味だ。
だが、これほど俺に向いてる仕事はない
試合の中盤に出てくるリリーフ
リリーフは常に万全でなければならない
俺なんかブルペンで投げた球数の方が試合より多いのはしょっちゅうで、今日なんか3球しか投げてないんだ。
いつ呼ばれる分からないからこそリリーフはいつでも万全にしてなければならない
ファンの見えないところで首脳陣は投手交代を模索する
その緊張感から抜けた今この車内は落ち着く
車内に置き忘れてたスポーツドリンクのペットボトルを取り中に入っているドリンクをいっきに飲む
…ぬるい が、甘くも感じる
ドリンクを飲み一息つきロッカールームから持ってきた選手名鑑をめくる
チーム紹介ページには…
『セントラルリーグ
静岡シーファイターズ 昨年度8位
~大田新監督で新しい風を起こせるか!?~』
と書かれている
新しい風を起こせるか!?って書いてあるが大田新監督はチームをまとめられず半年持たずで解任された。
その後すぐに2軍監督の小森監督が1軍にあがったお陰で少しは持ち直した。
しかし、この名鑑には、小森監督は2軍の方に載っている
コーチ陣の写真が軒並み表情が暗く感じるのは気のせいか?
選手達もそうだ。笑顔を見せてる選手の口は笑ってるが、目は死んでいる
岩見の写真が目にはいった。
まったくこの写真の顔はいいもんだ。これを続ければアイドルにもなれるだろうな
岩見は地元静岡の強豪高校でエースとして甲子園にも出ているし、文句ない実績だろう
ドラフト前には4球団が捕獲に名乗りをあげてたほどだ。
しかし、新球団設立というNPBの大改革もあったためか、地元静岡シーファイターズに単独指名される事になった。しかもドラフト2位まで他球団が指名しなかったのだ。
そんな岩見の選手名鑑には
#22 岩見勝美 右/右
ー若き豪腕 迷走打破せよ! ー
ー昨シーズン不甲斐ない結果に終わってしまった若きエース候補
球威は天下一品だが、コントロールとメンタル面に課題が残る
今シーズンは二桁勝つのが、目標!ー
と書かれており選手評価はAからEの五段階で『D』だった。
岩見はなんて思うだろうな…
的確すぎる文章に思わず失笑してしまう
ほかにも同僚の評価を見てみるが、『A』評価は一人もいなかった。弱小球団だからかな
そして最後に自分の所に目をやる
#40 大里健吾 左/左
ー左の貴重なコントロールピッチャーー
ー球団設立から在籍する27歳
昨シーズンは50試合近くに登板しめざましい結果を残したが、入団一年目の借りを返すにはまだたりない
今シーズンは昨シーズン以上の活躍が期待されるー
…少々気にさわる文章だが、『貴重』という単語があると悪い気はしないな
コントロールを評価されるのも思わず自慢したくなる
選手評価は『C』
リリーフ陣では、一番評価が高い
車のキーを回しエンジンをつけ普段より早い帰路に着く
なぜだかわかんないが、今日は早く家に帰りたいと思った。