2話 ロッカールーム
ー本日の試合は2-4で静岡シーファイターズの勝利です。勝利投手 岩見 敗戦投手…ー
球場にアナウンスされる今日の結果
岩見はこれで2勝目
2勝 4敗 防御率2点台
負け越してはいるが悪い成績ではない…と
言いたいが、今の岩見はそんな事言ってられないだろう
今日のヒーローインタビューは岩見でいいと思うが、呼ばれたのは先制ソロHRのアレックスだった。岩見はロッカールームで凹んでいる。モニター越しにヒーローインタビューを見ているが、目はショボくれている
正直やめてほしい…
隣のロッカーから来る嫌な空気
去年なんかはもっと酷かった。
小さいため息と死んだような「ちきしょう」と言う声
その気持ちをマウンドに向けたらどうだ?と思う。「2勝目をあげたんだ。もう少し喜べ」
立った拍子に岩見の肩を叩き荷物を纏める
岩見は荷物を纏めていたが、帰ろうとはしないただ、モニターを見ている
帰ろうとしない理由は2つ
1つは記者のインタビューを受けたくない事だろうな。もう1つは俺に話をきいてもらいたいからだ。
「『ケンさん』はなんであんなコントロールいいんですか?」
3年一緒にやってて初めて聞かれた事だった。
『逆にどうしたらそこまでコントロールが悪いんだ?』と聞き返したいのだが、聞いたらもっとしょげるだろう
まあ、後輩にできるのは話を聞いてやることと今までの自分の経験を活かしたアドバイス位だ。
「それが持ち味だからな~俺にはこれといった武器があるわけでもないが、これだけは負ける気はないな」
さっきまでしょげてた岩見は目をこちらに向ける。さっきに比べてましになったがまだ元気がない
「俺の持ち味ってなんですかね?」
思わず飲みかけの水をこぼしてしまった。
「それは、自分が知ってなきゃダメだろ」
「でも、本当にわかんないんですよ。ノーコン速球ピッチャーなんてそこら中にいるし、その中でも特徴もないから…」
岩見の話を聞いているとどうかなりそうだ。
自分の弱点に気づいているか?岩見の弱点は俺から見たら『気の弱さ』だろう
今日だって死球が出た時に泣きそうになってた。真剣勝負で出てしまった事を引きずるから根が出ないんだ。
コイツに度胸があったらどうなってんだろうな 入団会見でもキョドってたしいつになってもパッとしない
顔がいいからそれなりの人気があるし、結果が出たらこの球団の顔にもなれるだろう
「多少粗い位がお前の武器になるんじゃないのか?」そう言いながらバッグを手に取り帰ろうとした時今季の選手名鑑が目に入った。
岩見とチームメイトに声をかけ球場を後にし
駐車場に向かう。その途中ファン数人が待ち構えていた。
「お疲れ様です!」「サインください!」という声に俺は極力答えるようにしてる
ファンの声に答えるのもプロの仕事だ。ましてや、ファンの少ない球団の俺たちはファンを大切にしなければならない
若い女性ファンは岩見を待っているのか、俺には見向きもない
岩見は、この人たちの期待に答えられるのか?俺よりも長く現役をやれるんだからもっと頑張ってもらいたいもんだ。
そう考えていると駐車場の自分の車に到着した。社内で一息つきロッカールームにあった選手名鑑をめくった。