1話 ワンポイントピッチャー
実際の人物 団体とは一切関係ありません
20××年
日本プロ野球に4つの新球団が誕生した。
パリーグに…
『熊本ベアーズ』
『京都ソルジャース』
セリーグに…
『静岡シーファイターズ』
『新潟ヤンキース』
両リーグ8チーム制になり急落していた野球人気をなんとか底上げしてきた。
と、言いたいのだが、けしてそうとも言えない…。
4球団ができた際にはミーハーな地元民らが応援していたが、寄せ集めの弱小球団では、長いシーズンを勝ち抜けない
夏場の時点ですでに最下位濃厚だった。
毎回敗け通け球場に足を運ぶファンもめっきり減った。
しかし、今日はめずらしくリードしている
ー横浜スターズの攻撃は 1番 セカンド『石田』背番号7ー
球場にアナウンスがなりレフト側のスターズファンの応援が球場に鳴り響く
ブルペンにいる俺にも聞こえる応援
今日は人が入ってるんだな
それもそうかな、横浜は6チーム時代最下位続きだったのだ。しかし、ここ数年で強くなり今では毎年A組争いの常連だ。
更にスターズの石田は静岡出身だからファンも多い
オマケにイケメンだから女子の黄色い声も絶えないだろう
8回表 スターズの攻撃
味方の投手はここ最近勝ちのない岩見 勝美(21)
同期入団で俺よりも上のドラフト2位で入団
高校生ながら一年目で5勝を挙げ将来を期待された。
しかし、昨年はその勢いはどこへやら
3勝10敗と大きく負け越し今年も1勝4敗と負け越している
俺ら静岡シーファイターズの選手層が薄いのはわかってる
結成されて3年目のチームだから出番があるが、普通のチームなら出番などないだろう
そんな事を考えていると岩見は石川に死球を与えていた。
もともと制球に難があるピッチャーだ今日これで2個目の死球
マウンドに野手が集まるキャッチャーの大村さんがマウンドで声をあらげているのがモニター越しでも分かる
岩見は涙目になってるだろうな
ブルペンに電話の音が鳴り響く
ブルペンのコーチが電話をとり「わかりました」と言い受話器を置いた。
そしてこちらに振り向き「出番だぞ」と口にした。
投球練習で流した汗をタオルでぬぐいコップ一杯の水を飲みマウンドへ向かう
ー静岡シーファイターズ 投手の交代をお知らせします。ピッチャー 『大里健吾』背番号40ー
俺の名前がコールされた。
かすかにしか聞こえない応援が廊下から聞こえる
もう少し使いやすくしてもらいたいもんだ。この球場はブルペンとグラウンドが遠すぎる
マウンドに向かう途中岩見がうなだれながらベンチに下がろうとしていた。
肩をポンと叩いた俺に岩見は「すみません」とだけ言った。
おいおい、そこまでなるか?と思ったがマウンドに行くとうなだれる理由が分かる
「まったく対したことないな!」
他の野手もひきつっている
大村 繁(39) 静岡シーファイターズの正捕手だ。とにかく気が短く若手のピッチャーは彼とバッテリーを組むのを嫌がるほどだ。
しかし、今日はそこまで怒るか?
岩見は死球が2つあったにしても6回を1失点だから勝利投手の権限はもってるし球も走ってた。
「まぁ、いいさお前がこの状況をなんとかしろ」
そういい放ちマウンドを降りる大村さん
野手たちも自分のポジションへ戻る
小さくため息をはきセットポジションで6球投げる
隣で投球を見る田辺投手コーチはボソボソと一人言を言ったあと「今日も一人だけね」といい足取り遅くベンチに下がる
去年まで監督を務めていたが最下位というあってはならない結果に終わったので今年は投手コーチになったのだ。
解任もありえたが温厚な性格を買われ温情としてコーチで残ることになったのだ。
投球練習が終わると球場に次のバッターがコールされる 2番の荒垣
今日はここまでヒットなしで来ているが打率.300台あるバッターだ。油断はできない
球審のコールで試合が再開された。
大村さんのサインは内角低めへのストレート
ファーストの石田は足が早いから牽制したいが、ファーストの新外国人のアレックスは守備が酷すぎるからやめた方がいいのだろう
ふぅと息をはきサインどうりのコースに投げる ーボールー
少し外れたか?そう思いながら大村さんから来るボールを受けとる
二球目は…内角低めへのストレート
大村さんは変化球の頼らないリードが主体で先発がストレートしか投げなかった日もある
本音は大村さんはキャッチが下手だ。お世辞にもうまいと言えない正直キャッチャーに向いてるかと言えば向いていない
しかし、出されたコースに投げなきゃまた騒ぐし言われた通り同じコースに投げる
判定はーボールー荒垣もこコース来るのを分かっていたのか振る気すらなかったように見える
一塁を気にしながら三球目のサインを待つ
外に逃げるスライダー
俺がもっとも得意な変化球深く息を吸い腕をおもいっきり振った。
球場に鈍い音が響く
ボールはショーとの真っ正面でいくら足の速い石田でもアウトになりこの場面はゲッツーに終わった。
スコアボードにアウトカウントランプが2つ点灯したところで田辺コーチがベンチから出てくる
監督が続いて来て球審に交代を告げる
ー静岡シーファイターズ選手の交代をお
知らせします。ピッチャー『森 勇気』背番号48ー
マウンドに集まる野手たちとハイタッチを交わしマウンドを次のピッチャーへ託す
俺の仕事はここで終わり
いや、ベンチ裏でしょげてる岩見をなだめなきゃならないか
こういうのも俺の仕事か
1話 ワンポイントピッチャー 終