第8話
「思いだした?」
目の前で微笑むのは、亜由美の兄――、高崎雅幸だ。
運命を分けた〝あの日〟、私が彼を目撃して褒めてしまったがゆえに、亜由美の不興を買った元凶。
……いや、彼は何も悪くない。
雅幸さんはただ妹を迎えに来ただけで、彼が私に何かした訳じゃない。
悪いのはブラコンの亜由美で……。
様々な事を考えて表情を凍り付かせている私を、雅幸さんは楽しそうに見ている。
――彼は私に復讐しているの?
今までは愚かにも彼を親切な人と思っていたけれど、雅幸さんが私と亜由美の関係を知っているなら、ただの優しさで済む訳がない。
「亜由美、これからもお兄ちゃんがお前を守ってあげるからね」
彼は美しく笑い、意味不明の事を言う。
――何を言っているの?
――私は亜由美じゃない。
私は強い意志を込めて雅幸さんを見つめ、ハッキリと首を左右に振る。
「自分は高崎亜由美じゃないと言うのか?」
尋ねられ、私はコクンと頷く。
「じゃあ、これは誰だ?」
雅幸さんは微笑み、脇に置いてあった鏡――、美容室で使うバックミラーを目の前で開いた。
それに映っていたのは――。
「あぁああああぁああああぁっっ!!」
私は声帯を震わせて絶叫する。
鏡に映っていたのは、殺したはずの亜由美だ。
完璧な美貌を誇る、人形のような美女が鏡に映っていた。
サラリとしたロングヘアに、くっきり二重の大きな目、スッと通った鼻に口角の上がった形のいい唇。
整形をする際、どうせ今後一生会わないなら、亜由美のような顔になりたいと思って、なるべく彼女に近づくようにした。
彼女が私にした事は決して許したくないけれど、亜由美の顔だけは認めていた。
だからこそ〝この顔〟が、紛れもない本物である事は、私が一番よく分かる。
どんなに似せて整形しても、結局本物にはなれなかった。
だから――、同僚に〝ああ〟言われた。
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