第6話
今まで私がいた部屋は、一面真っ白な、クッション性のある壁と床に囲まれた、予想通り八畳ほどの場所だった。
木製フレームのベッドには、小花柄のカバーが掛かった布団があり、シーツや枕カバーともお揃いの柄になっている。
私は今まで目が見えなかった訳だけれど、彼はそれでも私のために可愛い物を用意してくれていた。
それだけで、まだ名前も知らない男性への好感が上がった。
目が見えるようになると、急に時間が間延びしたように思える。
今まではただ本能のままに寝て、起きたら食べてを繰り返していた。
でも〝見て〟情報を得られるようになると、思考のとっかかりになって色んな事を考えるようになる。
――ここはどこだろう。
――私はどうしてここにいるんだろう。
考えていると、足音が聞こえて男性が部屋を訪れた。
「おはよう。やっと〝会えた〟ね」
男性は思っていた以上に素敵な人だった。
スラッとした長身に整った顔、サラリとした黒髪で、服装はシャツにテーパードパンツとシンプルだけれど、モデルのように着こなしている。
けれど彼を見ていると、既視感を抱いた。
彼は男らしい顔立ちというより、優しげな美形と言っていい。
くっきりとした二重の目は愉しげに細められていて、その眼差しにも既視感がある。
――あなたは誰?
尋ねたくても、芋虫状態からほとんどの体を取り戻した私には、舌だけがない。
だから、ただ彼を見つめるしかできなかった。
とても麗しい男性なのに、なんだかこの人の顔を見ていると胸の奥がザワザワする。
「やっぱりお前は綺麗だね」
急に男性の口調が変わり、彼は私の頬をスルリと撫でてくる。
彼は私の恋人だったんだろうか?
不安げに男性を見つめていると、彼は私の髪を手で梳き、大切そうに頭を撫でる。
「自分の名前を覚えている?」
尋ねられ、私は首を左右に振る。
それを見て彼は微笑み、〝私の名前〟を教えてきた。
「お前の名前は高崎亜由美だ」
その名前を聞いた瞬間、ぞわっと鳥肌が立った。
――違う!
――それだけは絶対に違う!
凄まじい拒絶感を抱いた私は、ブンブンと必死に首を横に振った。
同時に、ぼんやりしていた記憶の断片が蘇る。
とてつもない恐怖と憎悪、屈辱と悲しみ、やり場のない怒りに満ちた記憶だ。
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