表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芋虫が蝶になる時  作者: 臣 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/16

第4話

 手脚が生えた訳だけれど、ぼんやりと覚えている〝昔〟のようにスタスタと歩くのは難しかった。


 何せまだ目が見えないので、歩くと色んな物にぶつかって転んでしまう。


「道具に頼ると癖がついてしまうから、自力で歩く練習をしてごらん。壁伝いに歩けばなんとかなるはずだから。練習をしている時は点滴を外すけど、休憩する時はもう一度つけるから、ベッドサイドにあるベルを鳴らして」


 男性は私をベッドから下ろしたあと、そう言ってパタンとドアを閉じた。


 カチリと鍵を掛ける音が聞こえたけれど、特になんとも思わない。


 私は四つん這いになって移動し、手探りをしながら部屋がどれぐらいの広さなのか確認する。


 床と壁は、クッション性のあるフカフカした材質でできていて、これなら転んでも大丈夫そうだ。


 部屋は思ったほど広くなく、八畳から十畳といったところだろうか。


 室内の隅には、便器と洗面台があるのも分かった。


 でも、手脚が生えたからと言って、私の意識にこれといった変化はない。


 ――次はどんな美味しい物を食べられるんだろう。


 脳内にはそれしかなく、歩けるようになっても、特にどこへ行こうという気持ちもない。


 けれど食事の時間までは暇なので、疲れるまで歩く練習をし、飽きたらフワフワのローベッドで眠って過ごした。






 時間の概念はないけれど、ドアの隙間から美味しそうな匂いが漂ってきて、次の食事の時間が迫っているのが分かった。


 廊下の奥からゴロゴロと何かを転がす音がし、どうやら彼はワゴンのような物に料理を載せて運んでいるようだ。


 コンコンとドアをノックする音がし、「入るよ」と彼の声がする。


「今日は麺だよ。今、テーブルと椅子を用意するね」


 そう言ったあと、彼は部屋の壁についていたテーブルを引き出し、セットする。


 椅子は別の所から持って来たようだ。


「たとえばだけど、Aという人がいて、その人は自分が何者かを忘れてしまったとする。その人はAさんだと言えるだろうか?」


 ――そんな事いいから、早くご飯を食べさせて。


 両手でバンバンと床を叩くと、彼は「分かったよ」と笑う。


「はい、手に掴まって」


 彼の手に掴まって着席すると、少しして目の前にコトンとお皿が置かれた。


 フワッと立ち上ったのは、トマトベースのパスタの匂いだ。


 この匂いは、茄子やベーコン、キノコも入っている。


 にんにくの香りは食欲を増進させるし、とろけたチーズの匂いもする。


「フォークとスプーンを渡すから、自分で食べられる?」


 彼に優しくカトラリーを渡され、私は見えないながらもぎこちなくパスタを巻いていく。


「残り少なくなったら、やってあげるからね」


 私は右手の中でフォークをクルクルと回転させ、見当をつけてスプーンで支えようとする。


 何回か空振りしたり、カチッとぶつかって未遂に終わる事があったけれど、ようやく感覚を掴めたあとは、一心不乱にパスタを食べていった。


 フォークで丸めた麺を口の中に入れ、咀嚼するとブチブチッと麺を噛み千切る。


 麺の中に何かが練り込まれているようで、ツブツブした食感が面白い。


「色んな海藻を練り込んだ麺なんだ。歯ごたえがあるだろうけど、気にしないで食べて」


 確かに、言われてみれば昆布の茎やもずく、アオサなど、色んな物が入っていそうだ。


 きっと体にいいんだろう。


 あらかた食べて、少なくなった麺がどこにあるか分からなくなったあとは、彼が手伝ってくれて完食する事ができた。






 その翌日はラーメン、次はうどん、そして蕎麦。


 どれもとても美味しかったけれど、共通して中にツブツブした物が練り込まれていた。






 数日後、ベッドで目を覚ました私の頭には、サラリとした毛髪が生えていた。




**

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ