第3話
「君は、自分を自分たらしめるものは、なんだと思う?」
食事の前、この人は必ず問答のような事を言う。
「人間関係? 学歴? 稼いだ証拠である預金額? 道の駅スタンプラリーを制覇した、スタンプ帳なんてのもいいね。何かあったらすぐ写真をとってSNSアカウントに載せるなら、それもまた自分を形作るものだと言える」
そんなのどうでもいい。
お腹空いた。
私の気持ちに呼応するように、グゥゥウウゥ……、と大きく腹の虫が鳴く。
「分かったよ。ハラペコなんだね。今日は焼き肉だよ」
お肉! お肉!
私は涎を垂らし、手脚をバタつかせる。
しばらくして、近くに卓上コンロが置かれ、鉄板の上で肉が焼かれる、ジューッという音が聞こえ始めた。
見えないけれど、適度にサシの入った肉に火が入り、徐々に周囲が焼けてカリカリになっていくのが想像できる。
上を向いている面が白っぽくなってきたところで、ひっくり返してまたジューッと音が立つ。
彼は塩を振ったのだろうか。
パラパラという小さな音がしたあと、さらに焼ける勢いが増した。
「火傷したらいけないから、先に焼いて冷ましておくね」
立て続けに食欲をそそる音が立ち、私はダラダラと涎を零して、お肉を食べられる時を待つ。
「焼き肉だけだと胃もたれするから、お腹に優しいスープも用意したよ。骨から出汁をとったスープだから、美味しいと思う」
男性の説明を聞きながら、私は小鼻をヒクつかせる。
「さぁ、そろそろ最初に焼けた肉が冷めた頃だよ」
彼の声を聞き、私はあーん、と口を開く。
「まだ熱いかもしれないからね、気をつけて」
唇の近くに熱気が迫ったかと思うと、口内に一口大にスライスされた肉が入れられた。
咀嚼すると甘塩っぱい焼き肉のタレと一緒に、肉の旨み、脂が口中に広がっていく。
弾力のある肉を奥歯で噛み、さらに小さな欠片にし、繊維を千切るようにすりつぶしていく。
柔らかくなった頃に嚥下すると、この上ない満足感が私を満たした。
「はぁ……」
吐息をつくと、男性は次の肉を口に運ぶ。
沢山肉を食べて口の中が脂っぽくなった頃、「スープを飲もう」と言ってくる。
鍋からお玉を使ってスープを注ぐ水音が聞こえ、陶器の器と蓮華がぶつかる硬質な音がする。
ふぅー、ふぅー、と冷ます音がしたあと、口元に蓮華が運ばれた。
私はずずっ、ずっ、と音を立ててスープを啜り、コクのあるそれをゴックンと嚥下する。
味わい深いスープが味覚を刺激し、同時に口の中の脂っぽさを洗い流してくれた。
翌日も、翌々日も、その次の日も、私は沢山の焼き肉を食べた。
食感からしてホルモンやハツ、色んな部位を食べた。
焼き肉を食べ終えたあとは、毎回デザートとしてスティック状の物を揚げ、砂糖をまぶした物を食べさせてもらった。
前歯で噛むとポクポクとクッキーみたいに崩れるそれは、食感が面白い。
デザートは食事の最後に一つだけだったので、合計十日だったろうか。
すべてを食べ終えた頃、私の体には腕と脚が生えていた。
胴体にも違和感があり、若干胸のサイズが変わったようにも思えた。
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