表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芋虫が蝶になる時  作者: 臣 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/16

第2話

「君がどんな人だったか、覚えてる?」


 男性にそう尋ねられても、ハッキリとした記憶はない。


 曇りガラス越しに見えるような記憶で分かるのは、ごく一般的な女性の生活を送っていただろう、という事だ。


 それ以外に特筆すべき事はない。


(そんな事より、お腹空いた)


 歯が生えても舌がない以上、明瞭な発音はできない。


 私は男性がどんな表情をしているかも分からず、空腹を示すために口を開いた。


「ああ、お腹が空いたんだね。歯が生えたから、硬い物もいけるね。今日はハンバーグだよ。食べやすいように一口サイズになっているから、ゆっくり食べてね」


 この人はなんて親切な人なんだろう。


 いつものように体を起こされたあと、ハンバーグが焼ける香ばしい匂いが漂ってきて、じゅわりと唾液が滲み出る。


 ――食べたい。


 ――食べたい。


 匂いを嗅いだだけで食欲を刺激された私は、落ち着きなく口を喘がせ、涎を垂らした。


「おまちどおさま」


 男性が傍らに座り、カチャカチャと硬質な音が立つ。


 綺麗な焼き色がついたまん丸なハンバーグを、箸で切っているんだろうか。


 断面からは透明な肉汁がしたたり落ちて、ホカホカと湯気が立っているんだろうか。


 早く、早く。


 口を開き、あむあむと開閉すると、すぐ側で男性がハンバーグをフーフーと冷ましている音が聞こえた。


 私はゴクッと生唾を呑み込み、〝その時〟が訪れるのを待つ。


「冷ましたけど、火傷しないようにね」


 開いた口の中に、一口大のハンバーグが入れられる。


 箸が口から抜けるのを待てず、私はすぐに咀嚼し始めた。


 ――美味しい。


 想像していた通り、噛めば噛むほどジュワジュワと肉汁が溢れ、口内が歓喜に満ちていく。


 ハンバーグの中には何かコリッとした物が入っていて、それがまた食感のアクセントになっている。


 手でOKサインをした時の、親指と人差し指でできた丸。


 それぐらいの大きさのハンバーグを、彼は箸で半分に切って、私の様子を見ながら次から次に食べさせてくれる。


 個数にして、五、六個は食べただろうか。


 私はグフッとげっぷをし、摺り下ろしたにんにくの匂いがする吐息をつき、満足感に浸って目を閉じた。






 次に目を覚ました時、両耳と鼻、唇が戻り、手脚の付け根が少し生えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ