表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芋虫が蝶になる時  作者: 臣 桜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/16

第15話

「うあああああぁあああぁっっ!!」


 最も望まない顔を見た私は、半狂乱になって顔を引っ掻く。


「やめるんだ! 亜由美!」


 ――その名前で呼ばないで!


 抵抗したくても、舌がないから話せない。


 ――どうすればいいの!? こんな人生望んでいない!


 ――よりによって、私をいじめた大ボスになってしまうなんて!


 ――この女なら、他にもあくどい事をやっているに決まっている。


 ――その罪をなすりつけられるなんて、まっぴら御免だ!


 ――また私は兄に嬲られて生きていくに違いない!


 ――きっと雅幸さんは、私に死んだ妹の顔を与えて復讐するつもりでいるんだ!


 ――兄は自分のもとから逃げ出した私を許していないに決まっている!


 私は絶望の声を上げながら、必死に考えた。


 今まで、雅幸さんには色んな物を食べさせられた。


 最初の私は四肢も顔も毛髪もない状態だったから、多分自分の体を口に入れていたんだろう。


 想像するだけで吐き気がするけれど、いま考えるべきはその事じゃない。


 食べたものが私の体になるなら――。


 私は兄の両頬に手を添え、キスをした。


「――――ん」


 てっきり彼は抵抗するかと思ったけれど、思いの外あっさり私を受け入れた。


 私は雅幸さんの唇をついばみ、ベッドの上に押し倒す。


「……亜由美」


 彼は陶酔した表情で私に笑いかけ、抱き締めてまたキスをしてきた。


 口内に兄の舌がヌルリと入り込んだ時――、私は思いきりそれに噛み付いた。


「ん”うぅうううぅううっ!!」


 彼はくぐもった悲鳴を上げて、必死に私を振り払おうとする。


 ――あなたは全部持っているからいいじゃない!


 ――舌ぐらい、私にくれたっていいでしょう!


 ――ざまぁみろ! お前の舌、奪ってやる!


 ――私から奪っていくだけの、お前なんてこのまま死んじまえばいい!


 私は全体重をかけ、すべての力を顎に込める。


 やがて、ぶづん! という感触がして、口内に血まみれの舌先が入り込んだ。


「あぁああああぁああああぁっ!!」


 雅幸さんは赤く染まった口元を両手で押さえ、もんどり打っている。


 私はそれを見下ろしながら、生肉――兄のタンを丁寧に咀嚼し、噛み潰して嚥下した。


 ――これで舌が戻る。


 そう思って舌が再生するのを待ったけれど、どれだけ経ってもその兆候はない。


 ――いや、その前にここから逃げたほうがいい。


 結論づけた私は、兄のポケットをまさぐって鍵をとり、部屋から出ると施錠した。


 ――きっとそのうち、舌が生えてくるはず。


 ――真実を話せるようになれば、誰かが兄に罰を与えてくれるはず。


 信じながら、私は階段を上がり、随分久しぶりに思える日差しを浴びた。


 広い家の中を彷徨っていると洗面所があり、私は恐る恐る鏡を見る。


 鏡の中には〝高崎亜由美〟がいた。


 完璧な美貌を持つ、すべてに恵まれた女。


 なのに、口を開けると舌だけがない。





 ――私は何なんだろう。


 ――私は高崎亜由美なの? ■■■■なの?


 実家に帰って、両親がこの姿の私を受け入れてくれるとは思えない。


 高崎家になんて行きたくもない。


 会社に戻る事もできないし、これからどうすればいいんだろう。




 ――やっぱり、事情を説明するには舌を手に入れないと。




 結論づけた私は、玄関にあったサンダルに足を入れ、ふらりと外に出た。




**

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ