第12話
このままでは私の人生は兄に奪われる。
もう、医者になる夢なんてどうでもいい。
元より、親に言われて医者になるしかないと思っていただけだし、私のスペックならどこへ行ってもやっていける。
そう思い、私は大学卒業後、医療とはまったく関係ない、地方の一般企業に入社した。
スマホも変えて、兄に見つからないように細心の注意を払っていたのに、一年もしないうちに居場所を突き止められてしまった。
実家に連れ戻されて軟禁され、体を嬲られた私は、それでも自由を求めた。
隙を突いて家を出た私は、わざと痕跡を残して遠方まで行き、ダミーのアパートを借りた。
そしてまったく正反対の土地にある、小さな会社に中途採用で働き始めた。
そこでなんだか既視感のある人がいると思えば――、整形をして私に顔を似せた■■さんだった。
あの時の気持ちを、どう言い表したらいいか分からない。
自分のせいで凄まじいいじめに遭う羽目になった彼女と再会し、非常に気まずく思ったのは事実だ。
同時に、私がこの見た目で死ぬほど苦労しているのに、こんな顔になりたいと願っている彼女に、心の底から怒りを抱いた。
――だから、今回は〝私が〟彼女に嫌がらせをする事にした。
彼女がこの地で必死に築いたものを、私は華麗に、優雅に奪っていく。
私と■■さんが並べば、みんな嫌でも顔が似ている事に気づくだろう。
だからわざと彼女と仲良くして、一緒に行動するようにした。
退勤したあとも彼女を尾行し、付き合っている男性や住んでいる家を突き止めた。
――この際だから全部奪ってあげる。
異様な執念に取り憑かれた私は、結局あの兄の妹なのだ。
兄は恐らく、両親から過度に期待されたプレッシャーで、どこか壊れてしまったのだと思っている。
けれど私に、あの化け物を受け入れられる余力はない。
散々褒められたし、綺麗な服も着て、高級レストランにも行って、毎年海外旅行に行っていたし、もう思い残す事はない。
願わくば、憎しみに駆られた■■さんが、私を殺してくれますように。
美しいと褒めそやされた高崎亜由美の面影がなくなるぐらい、残酷に殺してくれますように――。
■■さんに呼び出された時は、やっとすべてから解放されると歓喜した。
私は遺書を書く事もなく彼女のもとへ向かい、――――二十六年の人生に幕を下ろした。
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