第11話
みんな、私を好きになる。
両親に溺愛され、兄は重度のシスコンになって私の行動や恋愛を制限するようになった。
学校では望まずともカーストの頂点扱いされ、私に嫌われたら人生が終わるとでも思っているのか、みんなお世辞を言ってすり寄ってくる。
だから褒め言葉だけは向けられても、その裏でみんなが私をどう思っているかは分からなかったし、想像するだけで恐かった。
家に帰れば兄からの偏愛を押しつけられるから、なるべく遅く帰りたかったのに、兄は学校まで迎えに来る。
みんなそれを見て〝理想の美形兄妹〟と騒いでいる。
フィクションなら兄と妹に禁忌の関係があっても美しいで済むけれど、現実のそれは醜悪だ。
何が悲しくて、生まれた時から一緒に過ごしている兄に性愛を向けられなければならないのか。
助けを求めたくても、こんな事誰にも言えない。
みんな、当たり前に〝他人〟を好きになっている。
それが世間の常識なのに、みんなに憧れられている私は、兄と肉体関係を持っている。
あまりに汚くておぞましくて、こんな秘密誰にも打ち明けられない。
言えば最後、汚物扱いされるに決まっている。
だから――、何も知らない■■さんが『素敵なお兄さんだね。高崎さんはお人形さんみたいに綺麗だし、あれだけ格好いいお兄さんがいるのも頷ける』と言った時は、神経を逆撫でされたような怒りを抱いた。
彼女は私が兄にこの顔を『人形みたいだ』と褒められ、嫌悪感を抱いている事を知らない。
美人に生まれて得したと思う事はある。
でも周囲が言う〝完璧に整った顔〟は、良くも悪くも色んなものを引き寄せる。
痴漢やストーカーの標的になった時は、余計に兄のシスコンに磨きがかかった。
『俺は亜由美のたった一人の兄だから、すべてをかけてお前を守るよ』
両親がいない時に兄が私を求めていなければ、麗しい兄妹愛と言えるだろう。
けれど呪いにも似た愛は、私を雁字搦めにし、自由を奪っていった。
小学生の時、私が好意を示した男の子は、兄に脅されて以降私に近寄らなくなった。
そのような事はたびたび起こり、私が成長するに従って見せしめがエスカレートしていった。
次第に兄は、愛する妹のためならどんな事でもやってのける、怪物になっていった。
だから私は、これ以上怪物を刺激しないように、彼の腕の中で大人しくするしかなかったのだ。
それを知らず、■■さんが無邪気な憧れを見せた時、酷い苛立ちが私を襲い、つい『あの子、いなくなればいいのに』と口走ってしまった。
誰が『やろう』と言い出したのかは分からない。
翌日から私の取り巻きたちが、いっせいに■■さんをターゲットにしていじめ始めた。
最初は、机の中に置いてある教科書にらくがきする程度だった。
けれど次第に行為はエスカレートし、彼女がやり返さないのをいい事に、みんな日頃のストレスを晴らすように彼女を嬲っていった。
――どうしよう、取り返しのつかない事をした。
ボソッと呟いてしまった一言が、まさかこんな惨劇を生むと思わなかった。
私はただ、みんなが■■さんをリンチする姿を見守るしかできない。
けれど、彼らが異様に興奮して彼女に暴力を振るう様子を見て、自分の感覚がどんどんおかしくなっていくのも感じていた。
――彼女はこうされて当たり前。
――だって私の苦しみを知らずに、あんな無神経な事を言ったんだもの。
――だから仕方ない。
私自身、常に行き場のない怒りや憎しみを抱き、どこかに発散する事を望んでいた。
■■さんが酷い目に遭っているのを見ると、苛立ちがスッと和らいでいくのを感じる。
最初は凄まじい罪悪感を抱いていたのに、そのように感じてしまうようになった私は、もうどこかおかしくなっていたのだろう。
卒業と共に、取り巻きたちとも■■さんとも縁が切れた。
私は大学の医学部に通い、医師になるために邁進していた。
けれど一人暮らしをして自由を得ようと思った事が、兄の逆鱗に触れたようだ。
兄の粘着具合は酷くなり、私にGPSアプリを共有させ、常にどこにいるか監視されるようになった。
それだけでなく、いつの間にか盗聴アプリも入れられていた。
大学で私に好意を抱いてくれた男の子は、ある日〝理由もなく〟複数の暴漢に襲われて入院するほどの大怪我を負った。
ゼミのみんなでキャンプ場に行った時は、荷物持ち兼、足として兄が強引に参加してきた。
みんな美形の兄を見てキャーキャー言っていたけれど、あの時●●くんがハイキングコースから滑落したのが、兄のせいだとは微塵も思っていないだろう。
その後、●●くんは大学を自主退学した。




