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私はあなたの……

……………………


 ──私はあなたの……



 私の下にクルザゼスが飛んできたのは、シャーロットが出ていってから半日のうちのことだった。


「ご婦人、ご婦人!」


 慌ただしく羽ばたいてきたクルザゼスが窓際で私に向けて叫ぶ。


「何の用だ、クルザゼス?」


「何に用だ、じゃございやせんよ、ご婦人! あんたのお気に入りの子が、また高位悪魔に襲われちまってますぜ!」


「何だと……! シャーロットのことか?」


「ええ。その通りですぜ。高位悪魔に率いられた悪魔たちが、屋敷を襲撃したようなんです。お知らせした方がよかったでしょう?」


「ああ。報告に感謝する。すぐに向かわなければ……!」


 私は立ち上がり、再び()を形成する。


 高次元に生成された()はこの世界を俯瞰し、私はそこからシャーロットの屋敷に向けて視線を動かす。


 シャーロットの屋敷が悪魔たちに襲われていた。何人もの使用人たちが傷つき、血を流し、地面に倒れている。私はさらにその中からシャーロットの姿を探した。


「アダム……!」


 そして、私はアダムがシャーロットを捕えているところを見つけた。いや、正確にはアダムに憑依した悪魔だ。高位悪魔ベルグリオスだ。


「急がなければ」


 私は()を生成したのと同様に、以前行った最短距離の形成を実施する。空間が歪み、空間の壁が貫かれ、端と端が結ばれた状態で空間が繋がる。


「あっしも一緒に行きますぜ!」


「好きにしろ」


 クルザゼスが飛んできて私の肩に止まり、私は空間をぐいと手で開く。


開けゴマ(オープンセサミ)


 次の瞬間、私たちはウェスターフィールド侯爵家の屋敷の前にいた。


「ラル。力を貸してくれ」


『もちろんだよ、ボクの可愛いルナ』


 ラルが私の願いに応じ、その力を発揮する。


「では、始めようか」



 * * * *



 そして、私は今ベルグリオスを前にしている。


 他の悪魔たちは私が蹴散らしたことで、怯え、一部は逃げ始めている。


「あの女を殺せえ! そうすればお前たちにも聖女の魂を味わわせてやる!」


 ベルグリオスが命令を叫び、悪魔たちは怯えながらも私の方を見る。


 ある悪魔は銃を構え、ある悪魔は刃物を構える。


「どうやらお仕置きが足りなかったらしいな。今度は魂が残るとは思わないことだ」


 私はそう言って指を鳴らすと悪魔たちが炎に包まれた。


「ルナ・フォーサイス! どこまで俺の邪魔をしやがって!」


 ベルグリオスは悪魔たちを私に向けてけしかけながらもそう怒りから叫ぶ。


「まだ分からないのか、ベルグリオス。私はお前たちの専門家だ。お前がけしかけている悪魔が、取るに足らない低位悪魔であることは既に把握している」


 悪魔たちは恐ろしげな雰囲気を放っているが、それが虚勢だということは私には分かっている。ベルグリオスを除けば、他の悪魔たちは低位悪魔のそれで、私の脅威になるものではない。


「散れ、悪魔ども。命まで取られなくなければな」


 私がそう宣言すると、悪魔たちはついに地獄に向けて逃走を始めた。


 ただひとりベルグリオスを残して。


「残るはお前だけだぞ、ベルグリオス」


 私はベルグリオスを前にそう告げる。


「おのれえ! だが、俺を前のままだと思うなよ! 俺はこの男の肉体を得て、この世界において存在を確立している! 前のように簡単に倒せるとは思わないことだ……!」


 ベルグリオスの宿るアダムの顔が獰猛に歪み、ベルグリオスは炎の槍を形成して、私に投射してくる。


「確かに以前の可愛いポルターガイストとは違うようだな」


 しかし、それらの槍が私に達することはない。障壁がそれを防いでしまい、ベルグリオスの全ての攻撃は不発に終わった。


「お前は……お前は何者なんだ!? どうして俺の、高位悪魔の攻撃を退けられるというのだ!?」


 ベルグリオスは混乱しながら叫ぶ。


「まだ気づかないのか。ラル、やつにその姿を見せてやるといい」


『ああ。そうしよう』


 私がそういうとラルがその姿を見せた。


 喪服のような黒いドレスを纏った、濡れ羽色の髪の少女だ。そんな赤い瞳をした少女がベルグリオスの前に現れると、ベルグリオスの表情が恐怖に歪んだ。


「まさか。まさか、そんな。ラルヴァンダードだと。悪魔の中の悪魔。悪魔の王。どうしてこんな化け物がここにいるというのだ!? こいつが地上に出るには並大抵の契約では足りないはずだというのに!」


 ベルグリオスは叫び、後ずさる。


「驚くべきことじゃない。ボクとルナはとても緊密な関係にある。ここまで言ってもまだ分からないのかな?」


 ラルはにやりと笑って恐怖に震えるベルグリオスを見る。


「そうか! ルナ・フォーサイス! 貴様、さては混血か! おぞましい混血だな!」


「その通りだ。ラルは、ラルヴァンダードは私の()だ」


 私の恐ろしい事実。


 私は悪魔と人間の混血だということ。私の血には悪魔の血が流れているということ。


「おぞましい化け物め。さては貴様らもこの娘の魂が狙いなのだな? ならば、分かち合おうではないか。俺とともにこの娘の魂を味わおう。どうだ?」


「そうだな。答えはひとつだ」


 私は言う。


「今度は魂すらも残さず消えろ、下衆」


 私がそう言うとラルがアダムの肉体からベルグリオスを引き剥がす。無理やりに魂から引き剥がされたことでベルグリオスはどこまでも響く悲鳴を上げ、のたうち、抵抗するが、それらの行為は無意味だった。


 ベルグリオスは引き剥がされた直後に燃え上がり、おぞましくも叫んだ。


「た、助けて! 助けてくれ! お願いだ!お前に仕えるから、助けてくれ!」


「お前は私の警告を無視した。その報いだ」


 私は今回は炎を止めることなく燃え上がらせ、そしてベルグリオスは完全に塵となり、その魂ごと消え去った。いくら高位悪魔であっても、ここまでされては、もう蘇ることはない。


「終わりだ」


 私はそう宣言し、シャーロットの下に向かう。


「シャーロット。無事か?」


「フォーサイス博士! 来てくださると思っていました!」


 シャーロットはそう言って私に抱き着く。


「ダメだ、シャーロット。聞いていただろう? 私の隠していた正体について。私は悪魔と人間の混血だ。私の血には悪魔の血が流れている。君を襲った悪魔たちと同じ血が流れているんだ」


 私はそうシャーロットを説得する。


「そして、君の魂は悪魔にとって麻薬のようなもの。私は怖いんだ。いつか私に流れる血が、君を傷つけてしまうのではないかと……」


 そう、私が心配していたことは、そういうことだった。


 私はシャーロットを……愛している。だから、傷つけるようなことはしたくない。だが、私の血は私のその意志を歪めるかもしれない。それが恐ろしかったのだ。


「博士」


 そこでシャーロットが不意に私の頬にキスした。


「私は怖くありません。博士は私のことを3回も助けてくれました。そんな博士が私のことを襲うはずがないです。もし、襲われたとしても博士ならば、構いませんわ。私には博士に襲われるより、博士の傍に居れないことの方が怖いんです……」


「シャーロット。本当に君はそれでいいのか?」


 私はそう尋ねる。


「ええ。それでいいんです。帰りましょう、博士の家に」


 シャーロットの笑みはとても明るく、美しく、私の心を洗い流すようだった。


「分かった。帰ろう。私たちの家に」


……………………

この作品はこれで完結です! お付き合いいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
もう完結ですか〜。 楽しく読ませていただき、ありがとうございました。 m(_ _)m ルナはかせとシャーロットたんのラブラブな日々がこれからも続きますように…! (●´ϖ`●)
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