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私が彼女を好む理由

……………………


 ──私が彼女を好む理由



 あのパーティから数日後。


 アダムからしつこくよりを戻そうとする行為は受けなくなり、私はもうすっかりアダムのことなど忘れてしまっていた。


 そんな日だ。重要な手紙が私の下に届いた。


「博士。アーミテイジ博士という方から手紙です」


「アーミテイジ博士から?」


 メイドが手紙を差し出すのに、私はそれを受け取り、封を開いた。


「これは……」


 内容は以前話していた『シャーロットの件と似た事件』についての詳細であった。私はその手紙の内容を読みふける。


「……まさか……」


 私は記されている内容を見て、すぐさま確認しなければならないと考えた。


「シャーロット」


 私はダイニングで昼食の準備をしていたシャーロットの下に向かう。


「博士? どうしました?」


「君に確認したいことがある。ウェスターフィールド侯爵家のウィロウ、シエナ、エブリンは君の血筋に繋がるものだろうか?」


「えっと。家系図を見てみないことには分かりません」


「なら、急いで確認しよう」


「は、はい」


 それから私たちはウェスターフィールド侯爵家の家系図を取り寄せると、すぐに先に挙げた3名の名前があるかを確認した。


「あら。どうやらわたくしの血筋で間違いなさそうです」


「……そうか……」


「博士。この3名がどうかしたしましたの?」


「何でもない」


 私はそう言って書斎に戻る。


 そして、アーミテイジ博士から届いた手紙を広げた。



 * * * *



 よう、フォーサイス博士。アーミテイジだ。


 以前、帝国アカデミーのパーティの場で話していたこと──ちゃんと覚えてるよな?──について思い出したから書いて送っておくぜ。


 まず、あんたがかかわった高位悪魔による襲撃事件同様に、高位悪魔に襲われているのはウェスターフィールド侯爵家に生まれた女児ばかりだ。これがどういう意味を持つのかを俺なりに考えてみた。


 それは高位悪魔にとってウェスターフィールド侯爵家の女児の魂は喉から手が出るほど欲しいものなのではないかという説だ。悪魔が特定の人間の魂を欲するということは、あんたも知っての通り、ないわけじゃない。


 そして、再現可能な法則として認識するならば、同じ家系で3回、いや4回も高位悪魔に襲われるというのは、何かしらの理由があるに違いない。


 そこで参考までにこれまで悪魔に狙われた特定個人の情報を同封しておく。研究に役立ててくれ。


 それではまたいつか会おう!


 ナサニエル・アーミテイジより。



 * * * *



「……悪魔が好む魂……」


 そのような現象が科学的に証明されたことはない。ただ統計学的には、そういう存在がいることを否定できないというだけだ。


 悪魔を引き寄せる誘蛾灯のような人間は存在する。その理由が分からないだけで、事実としては存在するのだ。まだ重力というものは認識されていなかった時代でも、リンゴは木から地面に落ちたように。


「私はシャーロットを受けいれた。彼女のことを()()()()()()()彼女を受け入れたのだ。そのプロセスに不自然な点はなかったか? 本当に私は彼女を純粋に好ましいと思ったのか?」


 かつて私に投げかけられた言葉を思い出す。


『呪われた子供だ』


『あの子は普通じゃない』


『今も母親は分からないだろう?』


『あれは取り換え子だよ。呪われている』


『忌まわしい、忌まわしい』


『あれは血がけがれているんだ』


 そう、私も普通ではなかった。しかし、その異常さというものは、もしかするとシャーロットにとって脅威になる異常さなのかもしれない。


 もし、私がシャーロットに好意を抱いたのが、彼女に人柄を私が人間の有する感情として正しく評価したからでなく、もっと原始的なレベルで好んでいただとしたら? ネコがネズミを狩るような残酷さで、獲物として認識していたからだとすれば?


 私がシャーロットを好ましく思うのが愛情ではなく、食欲のような原始的な欲求からくるものだったとすれば?


 私は急に何もかもが不安になり始めた。


「博士? どうされました?」


 そこでシャーロットが姿をせ見るのに私は彼女をの方をはっとして見る。


「シャーロット。暫くここから出ていってくれ」


「それは……」


「頼む。少しひとりで考える時間がほしいんだ。お願いだ」


 私はそうシャーロットに頼んだ。今はひとりでいたい。


「……分かりました、博士」


 シャーロットは深くは追求せず、私の家からメイドとともに去った。


 その寂しげな様子を見て、私は胸が痛むのを感じた。これは間違いなく人間としての感覚で間違いないだろう。


「私はシャーロットを……」


 本当に私はシャーロットの傍にいていいのか?


 私にはふたつの事実が突き付けられている。


 ひとつはシャーロットは今後も悪魔に襲われる可能性があるということと私自身がシャーロットを襲う加害者になりかねないということ。


 できれば私はシャーロットを守りたい。彼女にはよくしてもらった。彼女には返さなければいけない借りがたくさんある。


 しかし、そう思って彼女の傍にいた結果、私がシャーロットを不幸にしてしまったらどうするのだ? そんな恩をあだで返すような真似になれば、私は私自身を決して許せないだろう。


「私はどうすれば……」


 今ほど自分に流れる血を呪ったことはない。



 * * * *



 ルナに家から出ていくように言われたシャーロットは屋敷に戻った。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「ええ。ただいま」


 シャーロットは言葉数少なく使用人たちに告げると自室に向かう。


「……フォーサイス博士、どうして……」


 シャーロットはベッドの枕に顔をうずめると、涙をこぼした。


 何かルナの機嫌を害することをしただろうかとシャーロットは考えるが、思い当たる節はなく、いきなりルナはシャーロットを拒絶したのだ。


 それもシャーロットがルナを訪れた当初とは違うほど、断固した意志でルナはシャーロットを拒絶した。


 シャーロットには理由が全く分からない。


「家系図を調べてから、フォーサイス博士は何かを考えていた……」


 そこでシャーロットは起きたことを整理する。


「私の祖先の間に生まれた子供たちの名前を、何故かフォーサイス博士は知っていた。それから家系図を調べることになった。なら、家系図を調べる前に何かあったのではないかしら……?」


 シャーロットはそう思い出すと、ベルを鳴らしてメイドを呼んだ。


「あなた。今日、フォーサイス博士に朝から何か変わった点はなかったかしら?」


「博士にですか? そう言えば手紙が届いていました」


「どなたから?」


「ナサニエル・アーミテイジと言う方からです」


「アーミテイジ博士……」


 アーミテイジ博士のことはシャーロットも知っているパーティでルナに紹介してもらった基礎神秘学の研究者だ。


「すぐにアーミテイジ博士の連絡先を調べて。彼に聞きたいことがあります」


……………………

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