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共犯、二人でやりました

運動会の喧騒が過ぎ去り、社内はいつもの業務に戻っていた。


「社内備品の発注データ整理やっとけ」


是枝と前宮が任されたのは、地味な案件だった。


数字と帳票だけが相手の、退屈な仕事。


「これなら平和だろ」


「油断は危険です」


(出たよ)


是枝は内心でため息をついた。

だがこの時はまだ、何も起きないと信じていた。


# # # # # # # # #


作業は静かに始まった。


最初は順調だった。

順調すぎて、逆に気味が悪いくらいに。


「この在庫数、合ってますね」


「そういう仕事だからな」


だが、前宮がある一点で止まる。


「……これ、おかしいです」


「何が」


「発注履歴と在庫が一致していません」


是枝は画面を見た。


確かに、微妙にズレている。


しかし――


「まあ、誤差だろ。よくあるやつだ」


「誤差にしては大きいです」


前宮は珍しく引かなかった。


「深追いするな。こういうのは上が見る」


「でも、放置すると危険です」


その一言が、地雷だった。


************


その後、前宮は静かに動いた。


そして――やった。


「修正データ、送信しました」


「は?」


是枝は固まった。


「今、何した」


「整合性が取れていなかったので、正しいデータに修正しました」


(やばい)


数分後。


社内チャットが鳴り始めた。


「発注止まってるんだけど?」

「在庫データ変わってる?」

「これ誰の承認?」


空気が一気に変わる。


「……おい」


是枝の声が低くなる。


「何やった」


「正しい処理をしました」


(だからそれが一番まずいんだよ)


# # # # # # # # #


その日の午後。


上司の部屋に呼び出された。


「で、これは何?」


主任の声は静かだった。


前宮が説明しようとする。


しかし、その前に是枝が口を開いた。


「俺も確認してました」


空気が止まる。


前宮が一瞬、こちらを見る。


(何で)


是枝は視線を逸らさない。


「二人で見てました。俺のチェック不足です」


主任はしばらく黙った。


「……わかった」


そして一言。


「じゃあ、二人で戻せ」


# # # # # # # #


地獄のリカバリー作業が始まった。


夜のオフィス。


人はほとんどいない。


前宮が呟く。


「すみません」


是枝はモニターから目を離さない。


「今さらだろ」


沈黙。


しかし、それは気まずさではなかった。


奇妙な落ち着きだった。


前宮が言う。


「私、またやらかしますね」


「宣言するな」


少しだけ間が空く。


「でも」


「?」


「そのときも、巻き込みます」


是枝の手が一瞬止まる。


「……やめろとは言わない」


# # # # # # # # #


帰り道。


ビルの明かりが遠くなる。


前宮が小さく言う。


「迷惑かけました」


「大丈夫だ。お前のおかげで残業代稼げた」


「すいません」


「気にすんな」


少し歩いてから。


「会社なんてな、使われてるふりして、使い倒すもんだ」


「先輩……」


「なんだ?」


「腹黒なんですね」


「……褒め言葉か?」


前宮は少しだけ笑った。


是枝は気づかないふりをした。

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