共犯、二人でやりました
運動会の喧騒が過ぎ去り、社内はいつもの業務に戻っていた。
「社内備品の発注データ整理やっとけ」
是枝と前宮が任されたのは、地味な案件だった。
数字と帳票だけが相手の、退屈な仕事。
「これなら平和だろ」
「油断は危険です」
(出たよ)
是枝は内心でため息をついた。
だがこの時はまだ、何も起きないと信じていた。
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作業は静かに始まった。
最初は順調だった。
順調すぎて、逆に気味が悪いくらいに。
「この在庫数、合ってますね」
「そういう仕事だからな」
だが、前宮がある一点で止まる。
「……これ、おかしいです」
「何が」
「発注履歴と在庫が一致していません」
是枝は画面を見た。
確かに、微妙にズレている。
しかし――
「まあ、誤差だろ。よくあるやつだ」
「誤差にしては大きいです」
前宮は珍しく引かなかった。
「深追いするな。こういうのは上が見る」
「でも、放置すると危険です」
その一言が、地雷だった。
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その後、前宮は静かに動いた。
そして――やった。
「修正データ、送信しました」
「は?」
是枝は固まった。
「今、何した」
「整合性が取れていなかったので、正しいデータに修正しました」
(やばい)
数分後。
社内チャットが鳴り始めた。
「発注止まってるんだけど?」
「在庫データ変わってる?」
「これ誰の承認?」
空気が一気に変わる。
「……おい」
是枝の声が低くなる。
「何やった」
「正しい処理をしました」
(だからそれが一番まずいんだよ)
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その日の午後。
上司の部屋に呼び出された。
「で、これは何?」
主任の声は静かだった。
前宮が説明しようとする。
しかし、その前に是枝が口を開いた。
「俺も確認してました」
空気が止まる。
前宮が一瞬、こちらを見る。
(何で)
是枝は視線を逸らさない。
「二人で見てました。俺のチェック不足です」
主任はしばらく黙った。
「……わかった」
そして一言。
「じゃあ、二人で戻せ」
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地獄のリカバリー作業が始まった。
夜のオフィス。
人はほとんどいない。
前宮が呟く。
「すみません」
是枝はモニターから目を離さない。
「今さらだろ」
沈黙。
しかし、それは気まずさではなかった。
奇妙な落ち着きだった。
前宮が言う。
「私、またやらかしますね」
「宣言するな」
少しだけ間が空く。
「でも」
「?」
「そのときも、巻き込みます」
是枝の手が一瞬止まる。
「……やめろとは言わない」
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帰り道。
ビルの明かりが遠くなる。
前宮が小さく言う。
「迷惑かけました」
「大丈夫だ。お前のおかげで残業代稼げた」
「すいません」
「気にすんな」
少し歩いてから。
「会社なんてな、使われてるふりして、使い倒すもんだ」
「先輩……」
「なんだ?」
「腹黒なんですね」
「……褒め言葉か?」
前宮は少しだけ笑った。
是枝は気づかないふりをした。




