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走れ負け組

是枝がその話を聞いたのは、週明けの朝礼でのことだった。

総務課の主任が、なんの前触れもなくこう宣言した。


「あーーあーーー。来週金曜、社内運動会だからな。全員参加で頼むぞ。」


社員一同 (は!?)


その瞬間、周囲から一斉にため息が漏れる。机の下で頭を抱える同僚や、小声で「またかよ」と愚痴をこぼす社員たち。


是枝も思わず内心で毒づいた。

「いやいや、体育祭なんて学生時代で卒業したイベントだろ。大人が全力でやるとか地獄か?」


だが、そんな空気を一切読まずに手を挙げたのが、入社半年の新人・前宮遥かだった。ロードバイクが趣味の彼女は、元気いっぱいの声でこう叫ぶ。


「運動会、いいですね!楽しみです!」


フロア全体が凍りつく。


社員一同(はぁ↓)


*************************

運動会の詳細がメールで送られてきたのは、その日の昼休みだった。

「全社員参加の障害物競争」「綱引き」「リレー」など、学生時代を彷彿とさせるメニューがずらりと並んでいる。

さらに、チームごとに競い合う形式で、総務課も例外なく参加を求められていた。


是枝のチームメンバーは主任、前宮、そして経理課から駆り出された内山さん。内山さんは丸々とした体型で、運動よりも居酒屋のメニュー表が似合う中年男性だ。


主任は皮肉を込めてこう言った。

「チーム名は『走れ負け組』で決定だな。」


前宮が不満げに抗議する。

「そんな消極的な名前じゃダメです!私たち、意外とやれるかもしれませんよ!」


その発言を聞いて、是枝は思った。

(お前、本当にポジティブすぎるだろ…。いや、むしろ何を根拠にやれると思ってるんだ?)


運動会まで1週間。前宮の熱意に押され、形だけの練習が始まった。


「是枝先輩、これ使って筋トレしてください!」と前宮かが渡してきたのは、なぜかバランスボールだった。

是枝はバランスボールを見つめながら呟く。

「これ、椅子だと思って座ったら絶対転がって死ぬやつだよな?」


「死ぬは大げさですよ。」

前宮が笑っていった。


一方、内山さんは縄を手にして綱引きの練習を始めたが、すぐに手を痛めて呻き声を上げる。

「俺、やっぱり体力落ちてるかもな…」


前宮が励ます。

「内山さん、ここで諦めたらダメです!私たちが変えなければ、誰がやるんですか?」


一同(何を変えるんだ?)


その情熱に押されて是枝たちは渋々練習を続けたが、成果が出る気配は一切なかった。


*******************

ついに運動会の当日がやってきた。快晴の空の下、参加者全員が社長のスピーチを無表情で聞き流す。


最初の種目、綱引きでは内山さんの体重を武器に善戦するも敗北。リレーでは是枝の遅さが致命的となり、遥に「是枝先輩、遅すぎます!」と本気で怒られる始末だった。


しかし、全社員参加の障害物競争が始まると、流れが変わった。


障害物競争のコースは地獄そのものだった。平均台を渡り、ネットを潜り、謎の巨大バルーンを超えるという過酷な内容だ。是枝はコースの途中で完全に息切れしていた。


「無理、俺、ここで終わるわ…」


だが、そのとき前宮が颯爽と追い抜いていく。

「是枝先輩、あとは任せてください!」


彼女はロードバイク仕込みの俊敏な動きで次々と障害をクリアし、最終的には大逆転でゴールインした。


結果、チーム「走れ負け組」は奇跡の準優勝を果たしたのだった。


**********************

運動会後の打ち上げで、主任がビール片手に言った。

「来年も頼むぞ。」


是枝は即座に反論する。

「いや、来年は絶対やらないですから!」


前宮がニコニコしながらこう言った。

「でも、楽しかったですよね!これが私の使命だと思うのよ!」


是枝はビールを一口飲み、心の中で呟いた。

(使命ってなんだよ。)


「センパーイ何、黄昏れてるんですかぁ~~~~」

「な!?もう酔ってんのかよ!絡んでくるな!!」

「センパーイ。何、照れてんですか~……」


前宮の顔が青くなった。


「前宮?まさかのお約束はやめてくれ…」


おえぇぇぇぇぇ


前宮が勢いよく、マーライオンになった。


「ぎゃあああああああああ」


是枝の叫びが響き渡った。

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