その煽り、故意でしょ
「お疲れ様です。E部署の是枝です。
本日、入社の方を迎えにあがりました~。」
ここは総務課だ。
F棟の3階が総務課フロアになっている。パーティションがないためか、他の課からの電話対応やらが聞こえてくる。受付カウンターなるものがあるが、常連たちは関係なく乗り越えてくる。
そもそも受け付は電話回線だ。
少し入ると有志で買ったという牛丼屋で置いて有りそうな、お茶マシーンが設置されている。
流石にドリンクバー並みのマシーンは無理だったらしい。
それでも高いだろうに。
「ちょっとまって、是枝さん。今、彼女、準備しているから」、ドアを開けて採用担当の新川さんが出てきた。こないだ2人目の子供が産まれたとかで、顔がつやつやしていた。今や言い古されたリア充って奴だ。幸せのお裾分けをもらおう、スーハースーハー…。虚しい。
「お疲れ様っす。新川さん。ああ女性なんですか。今回の新人。」
「期待の新人ですよ。是枝さん、うかうか出来ないですよ」と、親指を立てて元気に言った。※1
「マジですか!?」
「マジです!!教育担当の是枝さん次第ですけどね。」と、Wでサムズアップしてきた。もうお腹いっぱいです。勘弁してください。指圧の心母心~※2。
「なんだ、やっぱ人任せか」
「準備できました。」とドアを開けて、黒のスーツで長めの髪を後ろで束ねた女性が出てきた。
「あ!」
「え、何か!?」
「ロードバイクの人!」
「あっ。にやけ顔の人!」
「え~、俺、そんなに、にやけてました?」
「嘘です。記憶にないです。」
「なんだ、知り合いか。それは話が早い。じゃぁ今日から頑張って!後はよろしくね。是枝さん」
「いやいや、今知らないって言ったじゃないですか。」
「いえ知らないではなく、記憶にないです。」
めんどくせぇー…なんか、先制パンチ喰らってる感じだ
気持ちを取り直して、空気を良くせねば。先輩として先輩として…。
「今日は初日だものね。肩肘が力んでない?リラックスリラックス。」と、自分が力んでいた。あ~リラックスしたい。早く、帰りたいっ。
「セクハラで訴えますよ」 何言ってるの、この人?頭大丈夫かと言いたかったが、相手の言い分を聞かねば。先輩として先輩として…。
「えっと、どのあたりがセクハラ!?」
「リラックスの辺りかな」
「なんで?」
「リラックスしている時の表情を見たがっているようで」
「どんなだよ!」
あーこの時期の新人はやっぱ碌でもないわ…。
とりあえず、この空気を流してしまおう。
「あ、ごめん。自己紹介まだだったわ。是枝通です。」
くすくす
「なに?」
「これ 枝 通る?」
喧嘩売ってんのかてめぇー。
「すいません。今、ムッとしましたよね。ついゴメンなさい。」
「私は前宮遥です。」
「よろしくお願いします。先輩。」
先飲み屋 はるか(次の飲み屋は遠いみたいな意味)
ーー ぷ ーー(笑いを唇で噛みしめているを「線」と「ぷ」で表現)
「何か!?」と自分がディスられると食いついてきた!かまってちゃんか!?
「いえ、何にも!」
「今、明らかに名前で笑いましたよね」
「侮辱罪です!」
「侮辱してないし、笑ってないでしょ。というか、それ、ブーメランでしょ!」
「私はすぐに謝罪してますから!」
「虚偽の陳述を行ったので偽証罪です!」
初日から、やっぱ碌でもないわ…。
面接部屋のドアが開いた。
「何!?まだ居たの?」と、新川さんは通り過ぎていった。
採用!てめぇー!!
※1日本だけで有効です。海外では止めておきましょう。警察沙汰になるかもしれません。
※2浪越 徳治郎の名文句。